綿菓子を読むように

月山 朗

第1話 夏の雨 セミの声

 ざっと雨が降り出した。

 かなりの大粒、中々の勢い。

 天気予報はどうだったかしら、見ていないから分からない。

時雨しぐれってやつだね」

 公園の木の下、一緒に雨宿りする彼が言う。おしい。

「時期が違うよ。秋から冬に降ったり止んだりする雨が時雨」

「ふーん?」

 せっかく教えてあげたのに、なんか不満げ。今は夏なんだから時雨とは言わない。

 「それにしても蒸すね」

 彼が無造作に髪をかきあげる。そういう男っぽい仕草が好きだ。オシャレが好きで髪は毎日セットするくせに、くしゃくしゃにしちゃう大雑把なところが何だか良い。

 雨はすぐに止んだ。

 通り雨だったらしい。

 雨音が消えたと思ったら、ワンワン鳴き出すセミたちの声。

 彼は何気なくポツリと言った。

 「ふーん、今度はセミ時雨か」

 その呟きが、なんだかじんわりと温かくて、たぶんこの時から彼を好きになった

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