私は私、貴方は私?

文屋旅人

私は私、貴方は私?

 商店街のくじ引きの一等賞でクローン人間作製権利が与えられてしまった。

「おめでとうございます、クローン人間を作製する権利が与えられました!」

 商店街のおっさんは嬉しそうに私に言ったが、うーん……クローン人間か……。

 昨今、高学歴を希求しそして高学歴でないと人として認められないという社会の風潮からクローン人間が流行っている。

 どういうことかというと、自分が社会的地位を高めている間に一般的には必要であるが社会的地位を上げたり、学問を行ったりすることに関係しないことを行わせるために作るのだ。

 まぁ、すごくぼかして書いたが要するに子作りの為のクローンということだ。

 女性の卵子は30を超えると劣化していくから、自分が若いころの細胞をとっておいてクローンを作る。そうすれば、高齢出産によるダウン症のリスクなどを追うことなく社会的地位の高い男性、もっと言うなら自分の遺伝子を混ぜ合わせるにふさわしい人と子供を作れるという算段である。

 もちろん、男性もこのクローンによる恩恵を得ている。

 男性もまた、仕事と学業に追われているので自分に相応しい女性と子供を作る様にクローンに言う。

 こうして、本体はひたすらクローンが恋愛するのに有利な社会的地位を作り上げ、クローンは生殖する。そんなのが昨今の世界の金持ちのブームらしい。

 だから、クローンは高い。

 一体生成で5000万円くらい。

 真面目に、高い。

 そんなクローンをただで作製する権利を与えられたという。こんな小市民でクローンやセレブの世界には無縁なこの私が、だ。

 とりあえず私は指定された組織片を送ってみた。

 で、一か月後。


「初めまして、私」

「どうも初めまして、私」

 クローンが来た。

 が……

「どうもこれ、私とは違う」

「ええ、私もそう思います私」

 私とクローンの意見は一致。遺伝子が同一な他人、ということになった。

 何故かというと、クローンは私の遺伝子をもとに作り上げるが、記憶などはまっさらな状態から私のようになるように会社が教育しただけだからだ。

 そうなると、当然遺伝子が同じな別人となるのである。

「なるほど、これが金持ちたちが事実婚をする理由か」

 本人と致命的に違うのだ。とりあえず遺伝子がいい人間との子供を作ったらすぐにクローンが離れる、ということはよくある。

 その理由がよく分かった。

「ええ、私は私。そしてあなたはあなたなのですね」

 そして私のクローンは、生来の私の性格によく似てのもわかりがよかった。

 どうやら、このクローンとの生活はもめることがなさそうだ。

 さて、それではこのクローンが来て一番得をしたのは誰だろうか。











「わーい、パパハッスルしちゃうぞ!」

「わーい、ママが増えたー!」


 なんてことない、合法的にハーレムを得た私の旦那といつもかまってくれるお母さんが増えた私の息子だ。

 特に旦那……しばいてやろうか、とも思ったが……流石に私が増えて二倍愛せるね、といったお人よしを殴るような無粋な真似は出来なかった。



          了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私は私、貴方は私? 文屋旅人 @Tabito-Funnya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ