第14話 推し、ハッピーエンドで生存する
天使の神殿 内部
で!?
内部に入ってそこで、びっくり。
私達は二人目の攻略対象とうっかり遭遇したのでしたっ!
燃え上がる炎のような赤い髪。
宝石ルビーのように透き通った赤い瞳。
それはまさしくっ、二人目っ!
ルーチェ君「お前達は、噂になってる大罪人か?」
おおう、もう出てこないと思ったよ。
すまん、存在忘れてた。
他の攻略対象って、序盤の選択で出会わなかったらもうほとんど登場の出番ないんだよね。
ヒロイック・プリンスのゲームは、序盤で攻略対象を決めたら、その一人とずっと関わっていくストーリーだからさっ。
たしか、ヒロインのリグレットちゃんが、むさいおっさんに絡まれてるところを、このルーチェ君が助ける所から物語が始まっていくんだっけ。
私、ウォルド様一筋だから、無視してたけどっ。
じろじろじろ。
おっ、成長してる?
ルーチェ君は、グラフィックが変わるキャラクターなんだよね。
最初は髪がちょい長かったんだけど、決意イベントを経てばっさり切るの。
つまり二度おいしいキャラってわけさい!
中盤に出会った時から、どうなったのか知らないけど、私達と協力するって事は何かあったのかな?
ヒロインの代わりになる誰かと出会ったのかもね。
ルーチェ君は、ちょっと頭が固くて真面目だけど、根は良い子だもんねー。
ルーチェ君「何だ俺の顔に何かついてるのか?」
私「なーんでも!」
にまにま。
推しじゃないけど、攻略対象の成長っていいよね!
尊い!
というわけで、乗り込んだ天使の神殿(真)で出会ったのは、小柄なルーチェ君と手を結びます。
ウォルド様「そっちの状況はよくわかんねーけど、こんなところにいるんだから、天使に恨みがあるんだろうな、俺達に背中預けてもいいってんなら手を組まねぇか?」
ルーチェ君「思う所はあるが、いいだろう」
なんてお返事!
この、ツンデレ枠めっ!
ウォルド様とは別の切り口で、天使の正体をしったルーチェ・フランドール君は、ヒロインの助けもなく自力でここまでたどり着いたのかな。
まあ、もともとハイスペックだから、やろうと思えばできなくもないのかも。
マジ、パネェっす! ルーチェパイセン!
後で、根ほり葉ほり何があったのか聞いておかなくちゃ。
で、ウォルド様はルーチェ君の事気に入ってるみたい。
ウォルド様「あんたは、あの旦那より信用できそうだな」
ですって。
あーうん。アズリーレと比べるのはね。
大抵の人がマシに見えると思います。
私としては無害な美形が増えるのは大歓迎!
思いっきり歓迎ムードをかもしだしますよ!
ウォルド様の、生存確率が増えるしねっ。いい事尽くし!
あ、私が一筋なのは変わらないですよ?
いつでもウォルド様ラブなんでっ。
にひひひ。
ルーチェ「変な女をつれてるな」
ウォルド様「だろ? 最近はもうちょい大人しかったんだけどな」
そういうわけで四人でパーティーを組んで、ラストダンジョン天使の神殿(真)を進んでいきまっす。
致命的なトラップは原作の知識を借りて警告、やっとマシな活躍できたよ私。
これで最終決戦前に推し達の体力が無駄に消費される、なんて事はなくなったぜい!
すいすい、とまではいかなくて、ほぼ順調に攻略していってます。
ミュセさん「あっ、ここに隠し部屋があるみたいですよ」
なんて、思ってたらおや。ミュセさん、どうしてそんなことに気が付いたんです?
それって確か、何十週もしないといけない隠し部屋では?
私だって、向こうの世界でまだこれからやるとこだったストーリーなのに。
壁にあった隠し通路を渡っていくと、そこにはためこまれたお宝がざっくざく。
おおう、本当にあたりだ!
ウォルド様「何でこんなもんが?
ルーチェ君「おそらくだが、悪魔に乗っ取られる前に天使が隠したんじゃないのか? 見た所、トラップがしかけられているような事はなさそうだ」
ウォルド様「なら。ありがたくいくつかもらっとくか」
ウォルド様の生存率、ここに来て爆上げだぁぁぁい。
嬉しい。
けど、何だろう。
どうしてミュセさんはそんな事知ってたんだろう。
私はじっとミュセさんを見て見るけど、ミュセさんはちょっぴり悲しげな顔をして、にこにこするだけ。
ううん、何か事情があるのかな。
途中で思わぬ戦力アップをしたのち、天使の神殿内にある意地悪な昇降機を原作知識であれこれして、言う事きかせた後、上層にあるフロアへ。
そこで牢獄を発見。
そこには大勢のエルフ達が、囚われていたのでしたっ。
この牢獄にいるのは、生贄になるエルフたちばかり。
天使(中身悪魔)の犠牲者たちなのだっ!
ウォルド様は犠牲者さん達に優しく語り掛けます。
ウォルド様「もう大丈夫だ。俺達が助け出すからな」
ああ、そんな慈愛に満ちたまなざしの推しも恰好いい。
ウォルド様「けど、こいつらを連れて奥までいくのは無理だ。悪いがもう少し待っててくれ、クソ悪魔をぶん殴ったらまた戻ってきてやる」
すがるような視線を向けるエルフたちは半信半疑、と言ったところ。
そんな中、奥にオーラの違うエルフが。
荒んだ環境の中でも目を引くその人物。
厳しい現実にも負けない芯の強さを感じさせる。
その人こそが、ウォルド様の親友!
ウォルド様「お前も、かならず助ける。だからもう少し待っててくれ」
友人「ああ、信じてる」
ふぁぁぁっ、尊い。
推しの友情、いただきました。
これを見ただけでも同行したかいがあるってもんですっ。
友人「さっきから君の連れがむせび泣いてるんだが、どうにかしたのか?」
ウォルド様「気にすんな。こいつはこういう奴なんだ」
あっ、ミュセさんハンカチありがとうございます。
ちーん。ずびびっ。
ちょっ、ルーチェ君引いた顔しないでっ。
そういうわけで念願の再会が叶った後、気合をいれたウォルド様ご一行はすいすい前進。
天使(悪魔)がいるところまで、真っすぐ進んでいくでやんすっ。
テンションあげあげしていると、攻略対象同士で会話が発生。
ルーチェ君「俺が言う事じゃないが、よく天使に歯向かおうだなんて思ったな、俺だってリグがいなかったら……。いや、俺の事はどうでもいい。お前達の噂はたまに聞いているぞ、ここに来るまでずっと大罪人として追われていたんだろう?」
まあ、普通に考えたら逃げるので精いっぱいですもんねー。
神にも等しい存在に反逆するなんて、思いもつきませんって。
私だって、ウォルド様がいなかったら、きっと一生牢獄の中でしたしっ。たぶんそれでいっぱいいっぱい。
そう考えると、私達って結構変人?
へへぇ、今さら?
ウォルド様「俺一人じゃできなかっただろうな。それができたのは、一人じゃなかったからなんじゃねぇか?」
おう、よくわかんないけど推しからデコピンされた。
よくわかんないけど、ありがとうございます、でへへ。ご褒美っす。
あっ、ミュセさん大丈夫ですよ。
これは歓喜の震えなんで、状態異常とかじゃないんです。
ルーチェ君「まあ、察する点はある。幸いだったな」
ウォルド様「俺には勿体なくてしょうがねぇよ」
んんっ、なんだか背中がかゆくなってきた。
褒められ慣れてないもんでっ。
そんなこんななやりとりを経て、とうとう到ぅぅぅ着っ!!
天使(悪魔)が偉そうな態度で偉そうな事を言ったかと思えば、ウォルド様たちが「もうお前の好きにはさせない」と勇ましく戦端をかっぴらいた!!
ラストバトル開幕だぁぁぁつ。
いけーっ。
ふれっ、ふれっ。ウォルド様ーっ。
あ、私戦闘力ないんで、応援係でっす。
精いっぱい応援させてもらいます。
おおっ、ウォルド様がしゅばって動いた格好いいー。
ルーチェ君もスマートにすぱぱって、動いてるぅー。
目にもとまらぬ攻防とはまさにこのことだぁぁぁ!
語彙力がないから、うまく実況できなくてごめんよぉぉぉ!
ほいほい、ファンクラブ会員達に向けて、ただいま実況中っと。
ウォルド様がぎゅいーんで、ずばーんで、すぱーんなのだ!
えっ、それじゃ伝わらない?
ミュセさん、代わりにお願いします。
そんなこんなでやり取りしていると、さっそく私達の出番だ。
私「ウォルド様! 三秒後に大技が来ます!」
攻撃のタイミングは分かってるので、その合図係だ。
乙女ゲーム「ヒロイック・プリンス」。ちょっと意地悪なのか、たまにリアルタイムバトルになる時があるんだよね。
簡単なコマンドを入力するだけだから、何とかできたけど、あれは初見でやった時おったまげたなぁ。
まあ、何度もプレイしてるからすぐに慣れたけどっ。
はっ、そろそろあれが来る!
ラスボスがガードに入って、何かのエネルギーをためるようなモーション。
皆を頼らなければ。
ここで、引っ張りに引っ張ってきた法典の用意!
ぱらぱらぱらっと。
あれ、どこだっけ。
あ、ミュセさんありがとうございます。
えっと、ここだ!
私「定理31条の弱点!」
これは、ラスボスの特殊スキル対策です。
はいきたー!
天使法律にのっとった攻撃、「天罰」。光の雨がなんかすごい勢いでどだだだだだっ!
きたきた。
もはや弾丸じゃん。
やばやば。
ミュセさんの手を引いて、だだだっと後ろに下がりますよ。
ミュセさん「すっ、すごいですね」
でしょでしょ!
で、それの対処方法は、実際に出回っている天使法律にちなんだ攻撃っていう事がポイント。
世界をうまくまわすための法律だけど、戦闘にも使えるのだっ!
水に関する法律。
草木に関する法律。
聖物に関する法律。
そういった、水とか草とか聖とか属性に関連付ける事ができる法律を利用して、なんかすごい攻撃を放ってくる!
でも大丈夫、しかしそれを中和する方法があるのでした。
それぞれの法律に対応した攻撃には弱点となる法律が存在している。
だから、事前に私達はその点について相談。
ファンクラブの人達にも、有効な法律を探ってもらっていたのだ。
だから、胸を張ってルーチェ君にもアドバイス。
私「ルーチェ君、次はあっついのっ!」
隠し部屋で見つけた属性付与のアイテムで、弱点つきまくるぞい!
そして、ウォルド様にも。
私「ウォルド様、次はつめたいのですっ」
いけいけ、ひゅぅぅぅっ!
そうやって小一時間。
最後の大詰め。
悪あがきの自爆攻撃。
ここさえ、乗り切れば皆生存。
だけど、ゲームではこれに巻き込まれてウォルド様は……。
このシーンは、プレイヤーが行動できないただのイベントシーンだった。
だから、何とかできるのかずっと不安でたまらなかった。
ウォルド様が死ぬ事が運命つけられたていたら、なんて思ったら、ずっと天使の神殿に行かない方が良いんじゃないかと思って。
でも。
私「あんなにも一生懸命なんだから。止められるわけないじゃないですかっ」
大切な友達のために頑張るあなたを見て、ずっとひとりで抱え込んで、その強がりに誰も気付けないように行動してきた優しいあなたを見て、やめろなんて言えなかった。
ウォルド様「ばかっ、来るな」
私はウォルド様の前に立つ。
たとえこの命がここで消えても、私はきっとそれでいい。
私の命は、ウォルド様に生かしてもらったもの。
橋から落っこちるよりも前に。とっくの昔に死んでいたはずの命なんですから。
ミュセさん「リグレットさん!」
けど、攻撃は直撃しなかった。
ウォルド様達をかばった私の前に、一人の女の子が立っていたからな。
ルーチェ「リグ!」
凛とした佇まい。まっすぐ伸ばした背筋。
後姿だけでも分かる。
直感した。
彼女はきっと、ヒロインだと。
その女の子がつぶやいた。
???「イツハ、ウォルド。ありがとう。今まで、楽しかったわ」
私達は助かった。
勝利したのだ。
天使に成り代わっていた悪魔も倒れた。
ミュセさん「異世界からやってきたイツハさんは、リグレットさんの体の中にずっといたんです。でも最後、リグレットさんはイツハさん達を助けるために……」
ミュセさんはファンクラブシステムを使ってリグレットちゃんと、定期的にやりとりをしていたようだ。
つまり私、異世界転移したんじゃなくて、リグレットちゃん(ヒロイン)の体に憑依していたって事?
ゲームではヒロインのビジュアルがなかったから、全然気が付かなかった。
でもなおさらどうして、リグレットちゃんは、私に体を明け渡したんだろう。
自分の体なのに、異世界からやってきた他人である私なんかに。
そう考えていると、ミュセさんが私の手をとった。
ミュセさん「他人なんかじゃないですよ。リグレットさんはずっとイツハさんと一緒に旅をしてきたみたいです。私達の事を見守っていてくれてたんです、だからですよ」
けれど、私は首を振った。
だって、どんなに仲の良い友達でも、自分が死ぬのは嫌じゃない?
できるなら、生きて一緒にいたいって思うのが普通の事じゃない?
ゲームでの、ウォルド様みたいに。
だってだって。
自爆攻撃を受けて、満足そうに倒れたウォルド様は最後にこう言ったんだもん。
「もっと生きてあいつと一緒にいたかったな」って。
それなのにどうして。
ウォルド様「泣くんじゃねぇよ。ったく」
泣いてないですっ。
だから、抱擁なんてしないでください。
嬉しくて、ぎゅっとしちゃいますよ。
ただのご褒美じゃないですか。
ウォルド様「それでいいんだよ。ご褒美受け取っておけ」
立場逆ですよ。
本当なら、私がウォルド様を労ってあげなくちゃいけないのに。
『私の命はもうすぐ消える。けれどそれできっと、本望。この世界には犠牲が多すぎる。誰かが外れくじを引かなければならないようにできているのだろう。それは仕方のない事。どうせなら、私は私が大好きだった人達には、当たりくじを引いてもらいたい。だって、こんなにも幸せだったのだから。巫女として小さな世界で生きてきた私にはもったいないほどの幸せ。でも、やっぱり少しだけ、もう少しだけ、傍でみまもっていたか……』
ラスボスリアルバトルをこなしたウォルド様は、天使(悪魔)に勝利。
私達は、見事ハッピーエンドを向かえる事ができました。
ちょい、泣き虫さんが一人いますけどねっ。
とりあえず、帰る前にやる事というと。
ミュセさん「手当てしますね」
私「ウォルド様、ルーチェ君、怪我したとこにばっちい菌は入らないようにしましょう!」
手当だ。
やっとこさここまで来たんだから、バカバカしい事で死んではたまらない。
だから、持ってきた応急手当用品をフル活用。
このための私達だよ!
通路の案内とか、法典の事なんておまけだよ!
むしろこっちが本命。
さあさあさあ、お姉さんに見せてみんさい。
消・毒・液!
ぶしゃーっ!!
ルーチェ君「ばかっ、顔はやめっ目に入るだろ!」
ウォルド様「元気有り余ってんな、疲れたから俺寝るわ。手当頼む」
私「はいっ」
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