第6話 追いかけっこは得意ですか?私は超苦手です
前世で楽しく遊んでいたゲーム。
そのゲームには、私の好きなキャラがいた。
飄々としてて、クール。
けど、いざという時は頼りになる、頼もしいキャラだ。
ゲームのキャラクター総選挙では、堂々の第一位。私の推しでもあったそのキャラクターの名前はウォルド様。
数多の女性ファンを魅力した、大変危ない殿方である。
背が高くて、すらっとしてて、どこかミステリアスなその雰囲気がもう最高!
何人の女性がそのお姿の虜にされてきた事か。
実を言うと私もその一人なのだ。
その殿方にぞっこん中。
ウォルド様に出会ってから私の世界は天変地異の毎日!
ぱんぱかぱーん。
毎日が記念日!
ウォルド様の姿に萌え、その雄姿に萌えるのが日課になったのでしたっ。
『イツハ達は、天使の神殿に向かっていた。重要な手がかりを得たようだ。この世界の状況については私も少しは興味がある。しかし、私が彼らを見守れる時間が残り少なくなってきたようだ』
物語の序盤の流れにそって行動している私達は、天使の神殿に向かっている所なのですっ。
その途中で様々な出会いを経て、経験したウォルド様は順調に成長。
ただの野盗なら、軽くあしらえるまでになってしまわれたっ。
でも時々は、問題も発生するようで……。
ミュセさん「ふう」
私「大丈夫です? ミュセさん」
ミュセさん「平気です。ちょっと疲れましたがまだまだ歩けますから」
私「無理は禁物ですよーう。我慢のし過ぎは体に毒。だめ絶対!」
ミュセさん「ありがとうございます。イツハさんは優しいお方なのですね」
私「ま! ミュセさんったら嬉しい事いってくれちゃってー。うふふ、それほどでもー」
ウォルド様「謙遜する振りもしねーのな」
うっかりまきこんじゃた一般人のミュセさんを、どこか安全なところに連れて行かなくちゃいけない状況なんですよねー。
さすがに、ちょっと困ったぜい。
旅の中盤になってくると、
ゲームプレイ時、攻略状態のルーチェ君は、頭やわこくなってるけど、そんなの期待できませんよねー。この世界じゃ。しかも私はウォルド様一筋。ここにいたるまで、出会いのフラグすらたてませんでしたっ。
おそらく容赦してこないかと。
はぁー。
ウォルド様「どうした。拾い食いでもして腹壊したのか」
失礼なっ。
ウォルド様でもさすがにその失言はいただけませんよっ。
確かにそんな事もありますけどっ。
たまには真剣な事で悩む私もいるんですからっ。
とにかくまずミュセさんまで指名手配されているのか確認する必要があるかと!
指名手配されていない、もしくは犯罪者に人質にされた哀れな一般人枠ならば、ふつうの町に置いて行ってもなんとかなるからねっ。
そのためには、リスクを冒して町に潜入せねば。
買い出しもあるから定期的に町や村に入るのはあるけど、いつも最低限の範囲しか動いていないんだよねー。
今回は情報収集もあるから、身バレ防止が大変そう。
まぁ、いつもバレてるのは私だけですけどっ。
そんな風に、次の町に向かう道すがらあーだこーだ考えていた私だけど、ウォルド様の様子がピリピリした風に変わったのが分かる。これはもしや!
私「ミュセさん、フードかぶって顔を隠して下さいっ!」
ミュセさん「え?」
私「追手が来ましたのでっ」
ミュセさんが慌ててフードをかぶったとたん、言った通りの展開になった。
ウォルド様が、後ろを振り返る。かっこいい。
そして目を細める。かっこいい。
殺気を身に纏う。もう何やってもかっこいい。
ウォルド様「つけられてんな」
私「はいっ、つけてます!」
ウォルド様「あんたじゃねぇよ」
どうやら、私以外にウォルド様にメロメロな人が、他にもいるみたいですねっ。
これはきついお灸をすえてやらねばっ。
常識のないおっかけはただの迷惑行為なのだっ(ブーメラン)!
周囲に視線を走らせていたウォルド様は、いきなりばっとうごいた。
すると、私達をつけていた何者かが急にばっと出現!
だだだっと走って、「覚悟!」なんて、剣を振り回すではありませんか。
表現力なくてごめんね!
ウォルド様の華麗な立ち回りを説明したかったけど、私の才能じゃこれが限界なんよ。
ウォルド様は、襲い掛かってきた連中に対して華麗に応戦!
「あんた達は下がってろ!」だなんて気配りまで!
いよっ! 人気投票ナンバーワン!
なんて浮かれてたら、「はぐうっ!」後ろから誰かに体当たりされた。痛いっ!
ミュセさん「イツハさんっ!」
だ、大丈夫ですミュセさん。
体に衝撃が加わるのはは、なれてるんで。
なにせこんな落ち着きのない性格してますからねぇ。
あ、血が出てる!
おのれ、追手共!
何すんじゃい!
嫁入り前の乙女の体に!
傷が残ったらどうすんのっ!
いつかこの体はウォルド様のものになるんだって言うのに。
なんて思ってたらウォルド様から「いや、別にいらねーから」とのお言葉。
あらやだ、以心伝心。
そんな風にぷんすこしながら、やられた背中をさすっててたら、背後から剣つきつけられてました。
はいはい! ウォルド様、敵はなんと背後にもいたようでっす!
ミュセさんはおろおろ。
ごめんなさい。
一般人よりお荷物な私ですっ!
ウォルド様「ちっ、人質をとるとはなかなか卑怯な真似するじゃねーか」
???「この女の命が大切なら、武器を手放せ」
私「ウォルド様、すみません」
突然現れた変な連中に脅されたウォルド様は、私のせいで武器を捨ててしまった!
ううむ、すまぬ推し。
私の一生の不覚のせいで。
ウォルド様と私を縛り上げた敵は、やっぱり重い罪を背負った脱獄犯を追ってくる、エリート兵士だった!
あからさまに、自分達が正義だ、みたいな顔で名乗りましたよ!
あらやだ、かませ犬の行動じゃないですか。そんなんじゃあ今から負け犬オーラ全開ですよ?
原作だととっくに登場してるのに、ずいぶん遅かったですねーえ。
脱獄犯を追いかける専門の、
その兵士さん達、かなり荒っぽい。
私達を手荒にしばりあげた連中は、「てこずらせやがって」とウォルド様と私をげしげし。
捕虜虐待!
あっ、お腹はらめぇ。さっき食べたご飯がもどる!
まずいまずい。恋する乙女的にもまずいし、このままだと、再び牢屋にレッツゴーしてしまう。
それは非情にいただけない展開だ。
私の桃色の逃避行が、ジエンドでデンジャー!
なので、足手まといがここで活躍せず、どこで頑張る!
いつ?
今でしょ!
いただきまーすっ。敵の腕にがぶりっ!
兵士「この女っ!」
あらやだ、くそまずい。
って、女の子がくそとか言っちゃあいけません。
私「ふががががっ」
兵士「離れろ!」
兵士は私を掘りはらおうとぶんぶん。
そんなに勢いよく腕を振り回すでない。
ただでさえヤバい腹の中身、あんたの腕にぶちまけるけどっ!?
でも推しが見てるからやんないけどっ!
ウォルド様「おいっ、へたな真似はよせっ」
私「ふががががっ」
大丈夫ですウォルド様!
私は推しの荷物になるだけの、やっすい女ではないのだ!
兵士「いててててっ! こいつほんとに女かっ!?」
ふかぶかと噛みついて歯形を作っていたら、隙ができたのでさっそうと逃亡。
私、正真正銘の女!
失礼な、花も恥じらう乙女になんという暴言を!
なんて思ってたら、「きゃっ」という女の子らしい悲鳴。
この声はミュセさん?
見ると、フライパンを持ったミュセさんが、兵士に捕まっていた。
もしかして、私が逃げられたのってミュセさんのおかげ?
兵士「この女! 三人いるとは聞いてないぞ。こいつも仲間か?」
私「こらぁぁぁっ! 汚い手で触るなっ。ミュセさんを離せぇぇぇ!」
か弱い乙女は私が守る(キリッ)!
兵士がミュセさんの腕をひねり上げようとしたもんだから、つい頭に血がのぼっちまったぜぃ。
男らしいセリフを吐いて、突!撃!
私にしては珍しい推し愛なし。
全体重をのせた必殺・乙女タックル!。
へぶし。
おっといけない。
兵士の着てる鎧が固くてこっちにダメージが。
ウォルド様「敵うわけねぇだろ! そういう時は大人しく引っ込んでろ!」
私「無理です!」
けれど、その友情攻撃でウォルド様を心配させてしまった。
大丈夫っすよ。
こんな時のために、逃げ足だけは早いんで!
私「ミュセさん、ウォルド様、逃げましょう!」
敵が転がっているうちに離脱しなくちゃね。
そういうわけで、お荷物がなくなったウォルド様は、敵を倒してすたこらさっさ。
のはずだったけど。
……と、いうわけにはいきませんでした。
兵士「永遠の夢にとらわれるがいい」
高度の幻影魔法?みたいなのをくらった私達は眠りについてしまったのだった。
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