第二章

第11話 あぁ、実にいい天気だ……。 空が眩しいな……

 巨大ニワトリ。


 それは、レベルが必ず上がるヒヨコを生む魅惑の生物であり、滅多に出会えないレアなモンスターである。


 故に。


 ・強くなりたい冒険者が捕獲したいモンスターNo.1。

 ・出会いたくても出会えないモンスターNo.1

 ・高額取引されるモンスターNo.1

 ・総合人気No.1


 この様な名誉な称号を手にしているレアモンスター。

 レアモンスターのはずなのだが……。


 「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」」

「コケェェェェェェェ!」


 アキラとマオは月曜日から連続4日目となるニワトリとの鬼ごっこを行なっている。

 しかもこの巨大ニワトリ、ニワトリの癖にかなり知的な様で、二人以外の人間の気配がすると、すぐに何処かにかくれんぼしてしまう。


 そして今、その瞬間は訪れたらしく。


 「コケ!?」


 二人を追いかけるのを止めて、森の中へと消えていく。


 「うぉぉぉぉぉぉ! 私の可愛いアキラとマオをいじめるバカニワトリはどこだぁぁぁぁぁぁ!」


 それは、ニワトリが過保護な変態を認識したからである。

 そして、ニワトリが逃げ去った後、その逃げた方向と逆の道から現れたツカサは、二人の前に止まるや否や。


 「だ、大丈夫かアキラ、マオ!? 顔は? 手は? 腕は? 胸は? 足は? 股は?」


 と尋ねながらベタベタ二人に触れてくる。

 よだれを垂らし、大変満足そうな顔を浮かべて……。


 「つ、ツカサ兄! こ、股間は触らなくて良いから!?」

 「つ、ツカサお兄ちゃん、セクハラって知ってる?」


 当然、二人はその行き過ぎた行為にそう言うのだが。


 「私はやましい気持ちで触っていないんだぞ! 私は二人が心配だからだな……」

 「「あ〜うん……」」


 ツカサに真剣な顔でそう言われると、何も言えなくなってしまう。

 ただ、彼の言っている事は本当である。


 二人が本当に大切であるからこそ、そして怪我をしてないか心配だからこそ、そんな行動をしている。

 嘘偽りのない真実なのだ!


 ……まぁ半分はそれを口実に、ベタベタしたいと言う邪な考えではあるのだが……。

 それを指し示すかの様に。


 「良かった、無事の様だな!」

 「ツカサお兄ちゃん、鼻血! 鼻血!」

 「あぁ、実にいい天気だ……。 空が眩しいな……」

 「ツカサ兄いぃぃぃぃぃ!」

 「きゃぁぁぁぉぁぁ! 二人揃って真っ赤にぃぃぃぃぃぃ!」


 ツカサは凄まじい量の鼻血を噴出し、そしてバタンと倒れてしまった。

 しかし、倒れ込んだ彼の顔は、大変幸せそうな笑みを浮かべていた。


 それはまるで、天に召されるかのような清々しい表情。

 変態に救いはないようである。


 そして、そんな様子を偶然通りかかって目撃したジンレイは。


 「水煮肉片シュイジューロウピエンでも溢したのか……?」


 とそんな状況でも、食べ物の事を考えるのであった。


 …………


 「もう今週五度目なんだけど、あのニワトリに襲われるの!? つーかアンタ、アキラから肉まん貰ってるんでしょ! 襲われないよう登下校、ボディガードしてくれても良いじゃない!」

 「もぐもぐ……、マオ、お前にその権利はない。 何故なら、お前はアキラではないからだ、それにアキラからは『休日だけで良いから、レベル上げを手伝って欲しい』としか言われていないからな」

 「キ〜〜〜、良いじゃない! アキラの権利は私のもの、私の権利は私のものなんだから!」

 「哀れだな……もぐもぐ……」

 「フギャ〜〜〜ムカつく〜〜〜」


 さて、アキラがツカサを学校の保健室まで小走りで運んでいる間、マオとジンレイは歩きながら学校に向かっていたのだが、マオはまるで陰湿な姑の様にジンレイに突っかかっている。


 と言うのも、マオはジンレイにビンタされた事を未だに根に持っている。

 それも、アキラから事の次第や、ジンレイとの事を全て聞いた上での事である。

 実に心が狭いだろう。


 しかしながら、手を出せば返り討ちに合う事位は理解しているので、手は出さない。

 あくまで口で攻めるだけだ。


 だが、その口撃こうげきは誰がどう見てもジンレイには効果がない。


 その為マオは。


 「あーもう! アキラに八つ当たりしてくる!」


 そう言って、前を走るアキラを追って走っていくのだが、ただ、彼女は一つ忘れている事がある。

 それは。


 「ぎゃぁぁぁぁ! ニワトリ、ニワトリがぁぁぁぁ!」

 「コケェェェェェェェ!」


 ニワトリは、ツカサとマオ以外の人物がいないときにのみ襲いかかる大変頭がよろしい鳥という事だろう。

 そんなニワトリが目の前に立ちはだかる様に出現した事により、マオはジンレイの元へ戻る様に走り出す。


 「ジンレイ! いや、ジンレイちゃん、いやジンレイ様! 助けて、助けて!」


 ジンレイに対する先程の言葉遣いは一体どこにいったのか?

 それとも、彼女の知能は3歩歩いて忘れると言うニワトリの知能と交換させられてしまったと言うのだろうか?


 それは先程の現実が嘘の様な、情けない声を上げて助けを求めるマオの姿だった。

 

 普通の人間なら助けないだろう、しかしジンレイはこれに応じる動きをする。

 と言うのも。


 「……鶏肉を肉まんの素材に……ジュルリ……」

 「コケ!?」


 バンッバンッ!


 ジンレイにとって、所詮ニワトリは美味しそうな食材でない為である。

 だから今ジンレイは、懐から二丁のハンドガンを取り出して、ニワトリの胸や羽に何発も打ち込んだが。


 「コケェェェェェェェ!」


 その程度で倒れるほど、巨大ニワトリは弱くない。

 能力の高さを表すレベルの数字が253なだけはある。ー

 だが、それでもジンレイから受けたダメージはなかなかのものだったらしい。

 ニワトリは羽をバタバタさせながら、森へと逃げ去り。


 「待て、食材!」


 それを追って、ジンレイも森の中へと消えていった。

 だが、これで終わりではなかった。

 一人になったマオに。


 「あー助かった……」

 「コケェェェェェェェ!」

 「へ? う、嘘だよね……。 嘘だよね! いやぁぁぉぁぁぁ!」


 別のニワトリが襲いかかってきたのだから。

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