第2話 イルミネーション
街路樹にイルミネーションが灯る頃、私はその1番上の青いLEDを睨み付けていた。
あんたはいいよね。
ただピカピカしてるだけで綺麗だとか言われてみんなが観に来る。一つ一つは単なる電気が流れてる透明な玉なのに。
カップルがヒソヒソ語り合う。
心を破壊しそうなくらいの毒のこもった一言を発した。
「邪魔だ!ブス!!」
「……ごめんなさい」
聞こえたかな?声小さすぎて聞こえなかったらどうしよう。申し訳ない。
ああ、イルミネーションに対して嫌なことを思わなければ良かった。ちゃんと周りを見て邪魔にならない位置にいればよかった。そもそも、ひとりでイルミネーションがある場に足を運ばなければ良かった。
そもそも、ブスに生まれたことが申し訳ない。
死ねば?と言われたこともあったが、怖くて死ねない意気地なしだし、あまりにもできない人間なので、誰からも必要とされていない。
嫌われ者で息吸うことしかできない人糞製造機だし、せめて私の人体に光合成できる機能があれば少しは地球のためになっただろうに。残念でしかない。
私は足元の薄汚れたスニーカーの爪先を見ながらトボトボと歩いていった。
時間的にもうそろそろ夜の帳が降り始め、真っ青になるころだ。この時期なら運が良ければ宵の明星やせっかちな一等星がきらきらと輝いているだろう。きっとカメラのシャッターを切れば、カクテル色の空に賑やかな天体ショー、青やピンク、白のLEDとの饗宴が画像内のモニターに写っていたであろう。
ただ、私はカメラを全て売ってしまった。
いい歳して、スマホは持っていない。
記録媒体を持たない私はなんだか欠陥品のように思える。
ただ、お尻のポケットからエコーのタバコを取り出し、口に挟むようにくわえてカートンで買ったときにつけてもらったおまけの安っぽいピンクのライターで火を灯した。
仄暗い夜道に深い呼吸に合わせてゆっくりとタバコの火が燃える。
季節外れの蛍のようだ。
まあ、蛍はもっと美しいが。
タバコの煙を肺に届くくらい思いっきり吸ってから、フィルターに軽く歯形をつける。特に意味はない行為だ。
それを数回繰り返して、ヴィヴィアンウエストウッドの携帯灰皿に吸い殻を入れた。
蓋を閉めて丸いそれを見た。
ニコちゃんマークに似た陽気な表情。
「蛍、スマイル。スマイル」
その言葉は今は亡き友人が残してくれた魔法の言葉。
私にはスマイルという言葉が歯痒くて甘酸っぱい、そしてなんとも心臓がくすぐったい気分になる。
「蛍。スマイル、スマイル」
心の中で呟いていると、一粒の涙が左眼から落ちた。
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