-16 解放
屍食族の少女は檻の中に戻って、自分でカギを掛けていた。出入り口の部分はほとんどが崩壊して、鉄格子が露わになっている。
だから、その人影にすぐに気が付くことが出来た。
「どうしたの?」
「僕の探し物は君だったらしい。唐突で悪いが、付いてきてくれ」
「……どういうこと?」
「俺が捜していたモノの内一つが君の体と心に融合している。殺して奪い取ってもいいけど、君が死んだ瞬間にソレは世界のどこかに姿を移す。それを探すような面倒な事はしたくない」
分からない事は沢山あるし、聞きたいことも山ほどあった。ただそれよりも、体の底から沸き上がる期待への疑惑を取り払う事の方が少女にとっては大事だった。
「それは……私じゃないとダメなの?」
「そうだ。今ソレを持っているのは世界で君だけだ」
「私が外に……出てもいいの? 沢山迷惑をかけるかもしれないよ? 私は……皆と同じものを食べることが出来ないんだよ?」
「これまで生きてこられるだけの食料があったのなら、その辺を探せば見つかるだろ」
「皆と同じものを食べることが出来ないし、お腹が空いたらあなたを襲うかも……」
「仮に僕を襲ったとしたら、死ぬのは僕じゃなくて君の方だ」
「……もし私の血筋が広がるようなことになれば、世界が滅びるかもしれないんだよ?」
「一度や二度世界が滅びることがあっても、時間を掛ければ同じような場所まで戻って同じように廻るだけだ」
少女が見たカイトの瞳には、普段以上に光が無い気がした。
「私は……気味が悪いし、不幸を呼んでしまうかもしれない……。きっと、あなたも同じ扱いを受けてしまう。それでも――」
「それは他の奴らが勝手に決めたことだろう? 僕は君のことを気味が悪いとも思わないし、不幸を呼ぶような存在にも見えない。寧ろ、僕にとっては幸運とさえ言える。ついでに一つ言っておくと、僕が君と同じような扱いを受けることは無い」
「どうして……?」
「僕がこの世界の生き物を全て殺してしまえるぐらい強いから」
少女はあまりに強気な発言に驚き、その発言の主を見開いた眼で見た。
別に何か特別なことを言っているような自覚はないのか、とても淡々としていて顔色は全く変わっていなかった。真面目な表情をしていても普通は嘘だと思うだろう。ただ、先ほど現れた人間に対してあれほど有利に戦った姿を見ていたからか、自然と信じることが出来た。
「で、どうする? 選択肢は大人しく僕に付いてくるか、ここで僕に殺されるかの二択だ」
少女の口角は、本人の意思とは関係なく上がっていた。相手に合わせて愛想笑いをすることはあったが、笑うような事象など記憶に無かった。もしかしたら、生まれて初めて自然に笑えたのかもしれない。
「付いていく」
「そうか。持っていくものは?」
「何もないよ」
「食料……は無理か。水は?」
「カイトが持っているのを少し分けて貰えば……」
「僕は持ってないよ。飲食が必要無いから」
「……人間凄い」
「……何か勘違いしてるな。人間は飲食をしないと無いと生きていけない生き物だ」
「……え?」
口をぽかんと開ける少女に向かって、カイトは問いかける。
「名前は?」
「サモティ。私の親がそう名付けてくれたって、誰かから聞いたことがある」
「親?」
「うん。子供がバケモノだと分かって自分で死んじゃったんだって。……ねぇ、私からも色々聞きたいことがあるんだけど」
「何でも答えるよ、どうせ暇になるだろうから。多分、目的のモノを見つけるまでかなり時間が掛かる。出来れば短くあって欲しいけど」
サモティは少しの間考えてから、一番気になっていたことを聞いてみることにした。
「カイトは何のために何を集めているの?」
「死ぬために、神様の力の断片を集めている」
短い言葉で返されたことにより、聞きたいことが増えてサモティは嬉しくなった。ずっと出来なかった何気ない会話が、もっと沢山できるから。さぁ、何から聞いていこう。初めての他人を知る機会に楽しさを覚えつつ、次の質問をしようとしたところで大きな影が二人を覆いつくした。
振り向くと、そこにはトロックが立っていた。何か強い感情を抑えつけているのは分かるけれど、どんな感情なのかは分からない。そんなぐちゃぐちゃな表情を浮かべていた。
その後ろには、数十人の集落の住民が付いてきていた。
サモティを見て数人が弓矢を構えて、次の瞬間には弓矢を構えた数人の上半身が吹き飛んだ。その場の誰もが一瞬の出来事を把握できなかった。理解できたのは、手を付きだしていたカイトが原因だということだけだ。
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