-03 立場
カイトの両親は、左右に奈落が広がっている真っ白な道をただひたすらに進み続け、奈落に浮かぶ真っ白な城へと辿り着いた。道から繋がる巨大な扉を、武器を構えたまま押し開けるとそこには――。
「――っ⁉」
振り向いたカイトに視線を向けることなく、女性は頷いた。
あそこにいるのは私です。
「じゃあ――」
「お察しの通り、私はあなた達が神と呼ぶ存在です」
目下では、武器を構える二人へと神が話しかける。
「ようこそ、神界へ。
「理……?」
「あなた達は理についてどこまでご存知ですか?」
男女は顔を見合わせてから、首を横に振った。
「ここへ辿り着いたあなた達に関係する理は主に二つです。一つは、神界に足を踏み入れた者は元の世界に戻ることなく死を与えられる。もう一つは、あの道を通ってここへ辿り着いた者の望みを一つ叶える」
「……ここに辿り着いたのは二人です。俺たちは二つの望みを叶えられるということでしょうか?」
「そうです。心配しなくても、あなた達がここにいる間は下界――あなた達がいた世界の時間は止まっています。好きなだけ悩んで良いですよ」
目下で話し合う二人を見ながら、カイトは隣に立つ神に問いかける。
「神様、あなたは誰に言われてあんなことをしているんですか?」
「さあ?」
「さあ、って……」
「私もあなた達人間と同じですよ。あなた達は自分が生まれた理由など聞いたこともないでしょう? しかし、理由がなくとも生きようとする。私も同じです。気が付いた時には存在していて、ただ理に従おうとしているだけです」
カイトの両親は答えを出したようで、顔を上げて神へと問いかける。
「神様、あなたへの質問は”望み”として捉えられるのでしょうか?」
「それは大丈夫です。安心して聞いてください」
「それでは二つだけお聞きしたいのですが」
「どうぞ」
「では一つ目。死んだ者を生き返せることは可能でしょうか?」
「不可能です。死は不可逆の現象と理で決められていますので」
「そうですか……。それでは二つ目、生物の能力を左右する神のごとき力を人間にお与えいただくことは可能でしょうか?」
「可能です」
「……っ⁉ それは、私たち人間の能力を多種族と同等にすることも可能と言うことでしょうか?」
「そうです。基本的な身体能力から魔力量まで操作することが出来ます」
二人の人間は顔を合わせて一度頷くと、神へと改めて向き直った。
「それでは、一つ目の望みはその力を私たちの指導者――フェメラル様へと譲渡することとしてください。彼ならば、その力を使って世界に平和をもたらしてくださるはずです」
「良いでしょう。二つ目はどうしますか?」
その問いかけに、今まで黙っていた女が答えた。
「私たちの息子に、可能な限りの神の祝福をお願いします。私たちはあの子に、笑って長生きして欲しいのです」
その言葉を聞いて、カイトは意識を失う前の事象を思い出す。
「神様、もしかして僕があの湖に落ちて死ななかったのは――」
「この望みのお陰です。あなたにはステータスがゼロになった時に、一度だけ死を受け入れることなくステータスが元の水準にまで戻るという祝福が与えられています。今のあなたは元の水準に戻るどころか逆転してしまっていますので、今も祝福は無意味にその効果を発揮し続けています。私の祝福よりも理の方が上位の存在なので、理が私の祝福を押し切ったのです。ステータスについては知ってますよね?」
カイトが頷くのを確認してから、神は言葉を続ける。
「理は基本的に、何か問題があっても元の形へと収束するように出来ています。あなた達人間は、私から与えられた力を使ってステータスを押し上げました。あの湖は、それを収束へと導くための仕組みなのです。あなた達のステータスの値を”正のステータス”とするのであれば、あれは”負のステータス”と言ったところでしょうか。触れた者のステータスを奪い取り、世界のステータスが許容値以下になるまで存在し続けます」
「人間を使うと減りが早かったのは、人間のステータスが高かったからか……。で、僕はステータスがゼロになっても元の水準に戻るまで死なないから、結果として死ぬことなく負のステータスを体に取り込むことになった」
「そうです」
記憶の中の神は、カイトの母親の望みに頷きながら答える。
「分かりました。それではあなた方の子供にあらゆる障りに対する耐性と、一度だけ死を免れる事の出来る祝福を与えましょう。では――」
神が両手を握って祈りを捧げると、大きな鐘の音が二回鳴ってから世界が崩れ始めた。
「神様、これは一体――」
「あなたたちの一つ目の望みは、私の力の一部を譲渡することです。もう私にこの世界を継続させる力は残っていません」
「その、……すみません。私たちの我儘で……」
「気に病むことはありません。これは理に従った結果なのですから。それに――」
神は地面が崩れて奈落へと落ちていく二人を見ながら言った。
「これが初めてと言う訳ではありませんから」
その言葉に、カイトは首を傾げた。
「神様、過去にも同じ事があったのですか?」
「えぇ。現実世界のあなたが目を覚ますまでまだ時間があります。私の記憶、もう少し覗いてみますか?」
☆
カイトは目を覚まし、立ち上がった。辺りは文字通り死屍累々で、酷い有様だった。しかし、カイトはそんなもの興味ないとでも言いたげな表情を浮かべていた。
「本当、つまらない世界」
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