第17話
聖堂院に戻ると、さっきまでカレー屋だった庭には大きなテントが張られていた。
「真夜中から大雨になるそうですから、町の人が町内会用のテントを貸してくださったんです! ボーンデッドさんが雨ざらしじゃ辛かろう、って! さぁさぁ、どうぞ!」
ララニーはそう言いながら、ボーンデッドのふくらはぎをグイグイ押してくる。
俺は別に、雨ざらしでも構わねぇんだが……と思ったが、せっかくこうして準備してくれたのなら……と思い直し、中に入ってみた。
すると白いネグリジェ姿の少女たちが、
「ボーンデッドさん、おかえりなさーいっ!」
と出迎えてくれたんだ。
俺は一瞬、天国に迷い込んだのかと思っちまった。
カーテン生地みたいなネグリジェも、彼女たちが着ると天の羽衣のよう。
ふわふわと羽根をなびかせるようにして、俺の足元にやって来たんだ。
「ボーンデッドさん、いっしょにおねんねするー!」
「わたしもー!」
「ずっとボーンデッドさんといっしょに、おやすみしたかったのー!」
ボーンデッドの足にぴとっと張り付いてくる天使たち。
ああもう、どこまで俺をメロメロにしたら気が済むんだ、コイツらは……!
……よぉーし、オジサン、みんなのベッドになっちゃうぞー!
俺は張り切って、足元にいる小さな子たちを両手ですくいあげる。
そして他の子たちを潰さないように慎重に、テントの真ん中で横になった。
すかさずスキルウインドウを開き、『オペレートボディ』をレベル1からレベル2にする。
正直ありえないポイントに使い方だが、構うもんか……!
この子たちの安らかな寝顔のためなら、俺はなんだってしてやるぜ……!
ソシャゲでガチャに金をつぎ込むヤツの気持ちが、少しだけわかったような気がした。
『オペレートボディ』はボーンデッドの身体をベッドのように変形させるスキルだが、レベルアップするとよりフカフカに、寝心地が良くなっていくんだ……!
ボーンデッドの胸に乗っていた幼女たちは、急に身体が沈み込んだので目をパチクリさせている。
「あれ……? なんだかやわらかいね?」
「うん……ふかふかだ……?」
「へんだね……ボーンデッドさん、いつもはカチコチなのに……?」
しかしあっという間にいつもの元気を取り戻す。
トランポリンのように胸の上で弾みはじめた。
「ボーンデッドさん、すっごくやわらかぁーいっ!」
「わあーっ! ふかふか! ふかふだぁーっ!」
「ぽよんぽよんする! わぁーいわぁーいっ!」
子供たちは大興奮。
はちきれんばかりの笑顔で弾けまくる姿は、マジで楽しそうだった。
見ていた他の子たちもガマンできなくなったのか、ボーンデッドにわらわらと登ってくる。
公園の人気遊具にでもなったような気分だ。
遅れてテントに入ってきたルルニーは、ポップコーンのように宙を舞う子供たちを見るなり血相を変えて飛んできた。
「み、みなさんなんということを!? ボーンデッドさんの上で飛び跳ねるだなんて……!」
「まーまールルニーさん、これはボーンデッドさんがすすんでやってくださったことで……ひゃっ!?」
俺は問答無用とばかりに、姉妹を掴んで胸の上に放り投げる。
ふたりは雲に突っ込んだみたいに深くめりこんだあと、ビヨーンと天井近くまで飛び上がった。
ルルニーは絶叫マシンに乗っているような悲鳴をあげ、ララニーはヤバいドラッグをキメてるみたいに大爆笑。
「きゃあああああっ!? ぼ、ボーンデッドさんっ! お、およしになってくださいっ! ら、ララニーさんも笑ってないで、と、とめてくださいっ! きゃあーっ!?」
「あははははははっ! 楽しいですねっ、ルルニーさんっ! 見てください! あたしたち今、空を飛んでますよっ! あたし今日2回めぇーっ! あはははははははっ!」
室内アトラクションと化したボーンデッド。
聖堂院の女の子たちは、本当に遊園地に来たかのように大はしゃぎ。
声が枯れ、ヘトヘトになるまで遊びまくっていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……す、すっごく楽しい……!」
「こんなに楽しいの、初めて……!」
「うんっ! こんなに楽しい遊びがあるだなんて、知らなかったぁ……!」
「も、もう、立てないよぉ……!」
「で、でも、もっともっと遊びたぁい……!」
「……ボーンデッドさんって、本当にスゴイよね……!」
「うん……! 私たちにカレーを食べさせてくれて、温泉に入らせてくれて、ウエイトレスさんをさせてくれて……!」
「そのうえこんなに楽しい遊びを教えてくれるだなんて……!」
「すごいすごいすごい! すごーいっ! ボーンデッドさんっ!」
「きめたーっ! あたし、ボーンデッドさんのおよめさんになるーっ!」
「ああっ、ずるーい! あたしもー!」
「あたしもなるーっ! ボーンデッドさんと、ずっといっしょにいたーい!」
「ボーンデッドさん、すき……! だぁーいすきっ!」
感極まった少女たちが、ボーンデッドの顔にムチューっとキスする。
「しんこさんはねー、こーやっておやすみ前にチューするんだよ!」
「もう、ずるーい! あたしもするーっ!」
「あたしもボーンデッドさんとチューしたーい!」
「じゃあ、ボーンデッドさんと、チューしたいひとー!」
ある女の子の音頭により、希望者が一斉に手を挙げる。
カメラで見回してみると……テントにいる全員が挙手をしていた。
それに待ったをかけるように、足腰立たなくなっていたララニーとルルニーが、子供たちの元にゾンビのように這い上がってくる。
「はぁ、はぁ、はぁぁ……! そ、そういえば、忘れてました……! あたしもボーンデッドさんとチュウしたかったんです……! はじめてのチュウを……!」
「ふぅ、ふぅ、ふぅぅ……! い、いけません……ララニーさん、みなさん……! 口づけというのは、お互いの気持ちを確かめあう、神聖なもの……! そう軽々しくすべきではありませんっ……!」
「で、でも……ルルニーさん……ルルニーさんも『いただきますのお祈り』の前に、ブチューってしてたじゃないですか……!」
ララニーに突っ込まれ、ただでさえ上気していたルルニーの顔が、かぁ~っと茹でダコのように赤くなる。
「そ、それは……! ぼ、ボーンデッドさんがキスせよとおっしゃいましたので……!」
「あれあれぇ? 変ですねぇ、ルルニーさん? さっき、お互いの気持ちを確かめるって言ってませんでしたっけ? と、いうことは……」
「い……意地悪ですっ、ララニーさんっ!」
ぼふっ、と俺の胸に顔を埋め、イヤイヤをするルルニー。
恥ずかしさを全身で散らすように、脚までジタバタさせている。
ララニーは民衆を導く指導者のように颯爽と、俺の胸の上に立った。
「ではでは、このテントにいるみなさんは、ボーンデッドさんのことが大好き! それもお嫁さんになりたいくらい! という結論で良いですね!?」
「はぁーいっ!!!」
全方位から、喝采が起こる。
「新婦さんの気持ちがひとつになったところで、ではではぁ~っ! 新郎、ボーンデッドさん! あなたのお気持ちはどうですか!? あたしたちをお嫁さんにしてくださいますかっ!?」
バッ! と足元にいる俺に手をかざすララニー。
ハッ! と顔をあげ、告白の行方を見守るルルニー。
俺はコクピットの中で、一身に女の子たちの視線を感じていた。
瞬きをするのも惜しむように、俺をじっと見つめている。
誰もが固唾を飲んで、俺の返事を待っている。
初めて愛の告白をするような、期待と不安に満ちあふれた、潤んだ瞳で……!
ときめきと緊張のあまり、頬をバラのように染めながら……!
ララニーは「当然オッケーですよね!?」という気持ちがしとどにあふれている表情で、鼻息を荒くしている。
ルルニーは「やっぱりお嫌ですよね……!?」という気持ちがにじみ出ているような、今にも泣きそうな表情をしている。
まさか……ちょっと立ち寄っただけの町で、ちょっと世話になっただけの場所で……こんなに好かれちまうとはな。
俺自身……信じられねぇくらい、コイツらに入れ込んじまった。
どーせすぐ覚める夢だろうと思って、さらっと遊ぶだけのつもりだったのに……。
それなのに、ゲーム以上にハマらせやがって……。
まったく……しょうがねぇヤツだなぁ……コイツも……俺も……!
俺は、チャット用のキーボードに手を伸ばす。
『き』とだけ打って、一番最初に出た予測変換でリターンキーを押した。
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●レベルアップしたスキル
外装
Lv.01 ⇒ Lv.02 オペレートボディ
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