終章

花帷帽の行方

 唐の太宗李世民の妃であった徐恵は、皇帝をよく支えときには諫め、やがて正二品の充容じゅうように封じられた。

 皇帝が死去すると悲しみのあまりに病を発し、その翌年永徽えいき元年に世を去った。死後、賢妃の位を追贈された。


 徐恵に仕え続けた侍女楊怡は、主人の死ののち宮人開放によって皇城を出た。会稽山近くの農村にて茶の研究をしながら生涯を終えたという。その知識は代を経て門弟に受け継がれ、陸羽りくうによって『茶経』にまとめられた。


 廃太子李承乾は都追放から二年後の貞観じょうがん十九年に亡くなった。その身辺には腕の立つ女官が仕えていたという話があったが、定かではない。


 皇太子李治は太宗崩御ののち即位し、感業寺で出家した武才人こと武照を後宮へ呼び戻し側室に加えた。

 やがて武照は皇后となり、夫である高宗の死後政権を握り、中国史上初にして唯一の女帝となった。


 朱流螢なる人物については文献に残っていない。しかしながら李承乾の死と時期を同じくして江湖にはある女侠客の名が流れていた。

 女でありながら男装を好み、その剣技は蛍光のように一瞬煌めいては消える。


 人は彼女をこう呼んだ――花帷帽はないぼう、朱流螢。


(完)

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