第3話 達海メロウ

「えっと、ティッシュ類はまだあるから…柔軟剤切らしてたっけかな?」


いつものローズヒップの柔軟剤に、歯ブラシの予備もカゴにいれる。2つ色違いだ。


俺は、相澤あいざわ拓篤たくま。表参道の某有名ブランドに勤める25歳だ。アパレルに興味があったはあったが、それこそ興味本位で受けてみた世界的な会社に受かるとは…スーツやら靴やら、自社ブランドを着こなすのも大変だ。


仕事終わりにネクタイを外して、日用品を買う……あー幸せ!

しかも俺一人の分じゃないからな。


破滅の夜明け以来、夜は物騒だし、帰宅を急ぐ人たちも多い。

俺は知っている。

そんな怪物と戦い、俺たちを守ってくれているのが誰か。


住まいは渋谷から東急東横線で数駅、家賃は少し高いが今の勤務先が決まってから、利便性を考慮して引越した。

駅前のスーパーを出て、数メートル歩けば自宅マンションだ。エレベーターにのりながら、今日の夕食に想いを馳せる。


自室の前に着き髪を整えると、そっと扉を開ける。じゅぅぅっという魅力的な音と共に肉の焼けるいい匂いが鼻をくすぐった。


「お帰り。買い物してきたのか。おっ!柔軟剤、ちょうど切れたとこだ。」


「あ、やっぱり。」


透明の袋から見える柔軟剤に目ざとく反応したあたり、良く気がつく性格が出てる。


180cmはあろうかという長身に、ガッシリとした肩、Tシャツの袖がはちきれんばかりの腕。金髪に近い明るい髪に健康的に焼けた肌。少し幼く見える顔立ちがなんとも憎い。


俺の恋人、達海たつみメロウ。


俺はメロって呼んでる。歳は…29くらいって言ってたかな。正確には覚えてないって。

いかにも頼りがいのある兄貴って感じだけど、ベットの上では……ムフフ内緒♪


何を隠そう、例の怪物達から俺たちを守ってくれているのが、メロやその他の魔法戦士達だ。俺はメロしか知らないが。あ、あと不思議な球(笑)


「旨そうだね。」


「味はわからんからな…。レシピ通りに作っただけだし。」


実は、メロ達は食事を必要としない。正確には食えない事もないらしいが、新鮮な水とあるモノがあれば生命活動を維持できる。俺はそのあるモノを提供している供給者サプライヤーだ。そのエネルギーを元に、メロは戦う。


最初はそれだけの関係だったが、次第に惹かれあって…今ではお互いに好きな事を確かめ合っている。

メロ達は普通の人間には見えないらしい。カメラにも映らないから、戦っている所を捕らえられても激しい音や閃光が少し映る程度。

まれに相性が良い人間がいるらしく、メロにとってはそれが俺。

姿も見えるし、もちろん肌にも触れられる。

俺が怪物に襲われた時に助けてくれたのがメロってわけ。それからの付き合いだ。


一緒に外に出ても、はたから見れば俺1人だし、デートとか出かけたりするのは無理。ま、不自然に見えない範囲で出かけたりはするけど。

もっぱら俺の自宅でこうして食事を作ってもらったり、映画見たりゲームしたり。

俺はそれで十分満足。好きな人とだったら、カップラーメンだってご馳走だ。

あ、メロは食えないけど。


食後の片付けは俺が担当。メロはソファーで読書にふけっている。無類の本好きで、ジャンルはなんでも。難しい経済学の本からミステリーやライトノベルも読む。

ぱっと見、筋肉バカなのに、博学なのだ。こんなギャップも魅力的。

俺はそんなメロの横顔を見ながらボーッとするのが幸せ。


あー、男前だなぁ。


「ん?何にか顔についてるか?」


メロが視線に気づき本から顔を上げた。


「ううん。何でもないよ。」


思わずたくましい肩にすりすり頬を寄せてしまう。


「なんだ、お前、相変わらず猫みたいな仕草するな。」


こいつー。

俺は耳もとに囁いた。


「ネコはどっちだよ?」


「なっ…そっ…そゆ事じゃねーだろ!」


日焼けした顔を赤くして、俺の手を払おうとするのも可愛過ぎる!


「わかってるよ。少しくっついていたいだけだからさ。気にしないで本読んで。」


木につかまるコアラよろしく、太い腕にがっしり抱きつく。


そこに突然…。


「お取り込み中失礼します。」


「げっ!」

「どわっ!」


すっかりラブラブモードに入ってた俺たちの頭上から声がした。

見上げると黒く光る球体がゆっくり回っていた。確かコレは…。


「マルゴーか、どうした?出動か?」


その言葉に思わず俺は肩に力が入る。せっかく今夜は一緒にいられると思ったのに…。


「いや、今夜は池袋が忙しいですが、こちらは大丈夫そうです。実は相談がありまして。」


「そっか、出動は無しか。」


メロは本をたたんでテーブルに置くと、大柄な体をソファに沈めた。俺も思わずそれにならう。


「実は最近、荒川沿いで精魔獣の出現が頻発しておりまして。川に何か原因があるのかと…何せアルバーザ1人で担当しておりますですから。調査にご協力願えないかと思いまして。」


「もちろん大丈夫だ。調査だけなら昼間でもいいだろ?明日にでも行くか。」


「ありがとうございます。アルバーザにはこちらから伝えておきます。」


「あぁ、よろしく頼むよ。」


黒い球体は回転を速めながら小さくなり、すぐに消えてしまった。


「ぶー!ぶーぶー‼︎」


なんだよ、なんだよ。

メロは訳わからず俺を見ながら首をかしげる。その仕草がカッコカワイ過ぎて、更に腹が立つ!


明日あしたは…俺有給取ったの忘れた?一緒にネトゲにひたろうって約束したじゃん!」


年甲斐としがいもなく、つい拗ねて背中を向けた。ネットゲームなら、お互いの存在を周りに認めてもらえるのだ。ちゃんと拓篤とメロウは存在してるものとして。


「あ…そうだったな…。すまん、埋め合わせは今度するからさ。なっ?機嫌直せよ。」


「知ってるよ…メロがすごく大切な事をしてるの。きっとその使命の方が俺より大事な事も。

でも、俺はメロが好き。限られた時間、少しでも共有したいんだ。」


体育座りで背を向けた。急に泣きそうなる。


「そんな…使命の方が大事ってさ……この使命をいただかなければ、そもそも俺はこの世に存在してない。拓篤とも出会えなかった。比べることじゃないんだよ。」


「わかってる…わかってるよ……全部納得の上で好きになったんだ。でも……俺ってわがままだよね?メロにいつか愛想つかれるんじゃないかって不安で……。」


両肩に置かれた大きな手の温もりを感じながら、急に不安な気持ちが俺の心を満たしていく。

そう、ずっとじゃないんだ。


「ンなわけないだろ!たくさんの命がかかっているんだ。俺はその命を守らなきゃいけないんだ。もちろん拓篤が好きに決まってるだろ。わがままなんて…そんなこと思ってないよ。必ず埋め合わせするから…なっ?」

 

力強く抱きしめられて、いっぱい言葉をもらったんだ。でも、俺はそれじゃ満足しないよ⁈


「埋め合わせ?それじゃ今すぐにっ!」


くるりと向き直り、俺は両手でメロの顔を包む。そっぽ向かせないために。


「ちょっ…まぢかっ?せめてシャワー浴びてだな…って、おいっ!」


辛抱堪しんぼうたまらず、メロのたくましい体に飛びつきソファに押し倒した。


盛りが上がった大胸筋にそそり立つチ○ビ。右側だけひとつまみ、軽く押したりひねったり。それだけでメロは背中をのけぞらせて、もだえる。


「左側もどんどん大きくなってるよ…まるでいじって欲しくて仕方ないみたいに。」


「はぁ…たっ…たく……まぁ……あんまり焦らさないでくれよ…。あっ!あぁぁぁ…。」


シャッの上から左の方を唇で挟む。温かい吐息を混ぜれば、メロはもうダメだ。


「はっ…くうぅっ!あっ!あぁぁぁぁぁ!!」


腰をバタンバンと振りながら、アソコがすぐにMAXになる。


そしてソコは……とてつもなくデカい!


「今日もいっぱい気持ち良くしてあげるからね。」


優しく唇を重ね、シャツをまくりあげようとした、その時。



「何度もすみませんねぇ…お願いですから気付いていただけると……。」


『げっ!』


俺たちは2人同時に声を上げた。

さっき消えたはずの黒いボーリングの玉、ことマルゴーが少し全体を赤らめながら宙に浮いていた。


「どっかいったんじゃなかったのか?!つか、どっから見てた!」


乱れたシャツを整えるメロは、短パンからはみ出しかけているアソコにまでは気が回っていないようだ。

俺は手近にあったクッションで股間を隠してうずくまる。

いいとこだったのに〜。


「すみません。アルバーザの所に行く前に、池袋の様子を見に行ってきたのですが…マズいことになりました。」


「さっきも池袋って言ってたな。アレだろ?ビルの内部に低級の精魔獣がたむろってるってやつ。」


メロの顔が急に厳しくなる。


「そうです。土地自体にマイナスの気がたまりやすく、その気を栄養にして精魔獣たちが強力に育ってしまいまして…今夜はユーギスとアスランの2人で担当をしておりました。」


「込み入った話になりそうだな…何かあったな。すぐに行こう。」


メロは立ち上がりかけて、俺の方を向いた。俺、置いてかれそうな犬みたいな顔してんだろーな…。


「すまん、緊急事態だ。続きは帰ってからにするぞ。待ってる間、ヌクなよ!」


メロはそう言うと、俺を強く抱きしめて……優しくキスした。

そんな事されたらさ、俺…逆らえないよ…。


メロは素早く身支度を整えると、黒い玉と出て行った。


股間に当てていたクッションを胸に抱き直してゴロン。心も体もアソコも火照りきっていて、顔を赤らめながらゴロゴロひたすら転がって、気を落ちつけようとした。


あーもぉー、好き‼︎




拓篤の自宅マンションを出たメロウは、マルゴーと共に一路、渋谷駅を目指していた。


普通の人間には見えないどころか、駆けるそのスピードも尋常ではない。


マルゴーは高速回転しながら、メロウのスピードについて行った。


「詳しくは現場に向かいながらで良いですか?」


「構わない。急ごうか。」


拓篤とのキスの余韻が残る熱い唇が呪文を紡ぐ。


「オー ジェム ルーナ

清廉せいれんなる流れにすまう者よ いのちはぐみしその力 我になぎたまえ」


メロウの周囲の水分が凝縮してその体を包み込んでいく。


「メタモルフォーゼ!」


それらが霧と化し、メロウの姿を隠す。いったん固まった水分は大きな滴となり、揺れながら弾けた。


輝く青い鎧は曲線を多用し、筋肉隆々とした体のラインに沿う様なデザインをしている。水の精霊を操る魔法戦士、メディウムがその姿を現した。

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