第20話 初戦闘後【2】
(公私混合……)
それを聞いてなんとなく複雑な気持ちになるのはなぜだろう。
避けられている……ラミレスは、シャオレイに。
そこまでして。
そんなに嫌われていると。
「すいません! もう話始まっていますか!?」
「遅ぇ」
「ほんとです、遅いです! ……あれ、シズフ隊長は……」
「な、なんとか連れて来ました……」
「すや……」
「寝てるーーー!?」
ザードと色違いの宇宙服を着たアベルトと、そのアベルトに引き摺られて来た成人男性。
あの赤い宇宙服は、さっきモニターで見た二号機の登録者さんだろう。
なんという残念なお姿……。
「……ご、ご無事で何よりです……」
「アベルト様、シャオレイはご一緒ではないのですね」
「シャオレイさんですか? すいません、俺とシズフさんはラウトに付いて医務室に行っていたので……。ザードは知らないの?」
「興味ねぇし」
「だ、だろうね……」
頭を抱えるアベルト。
協調性が、ない。
「アベルト、ラウトは大丈夫?」
「あ、はい! 少し波形は乱れてるみたいですけど軽度だそうです。夜には回復するだろうって。……ついでに昨日出来なかった検査を全部やるって息巻いてました」
「……あいつまたサボったのか」
「そういえばシズフさん昨日ちゃんとご飯食べました!? 食堂で見てないんですけど!」
「……食事……? ……さあ……?」
「また寝ていて忘れたんですか!? デスカさんのところで点滴は……!?」
「……あ、あとで連れて行くよ……!」
憤慨するマクナッド。
薄暗い艦橋が、だんだん明るくなる。
照明をザードが操作しているらしい。
「降りるかい?」
「そうだな」
ザードがみんなの集まる下に降りたのでラミレスもギベインとサイファーと下へと降りた。
そこでようやく、やっと起きた二号機の登録者と対面する。
「……うぅわ……か、かっこいい……!」
「え」
思わず心の声が声になって漏れ出した。
透けて向こう側が見えそうなシルバーゴールドの髪、柔らかな薄い水色の瞳の非常に整った顔立ちのお兄さん。
ザードも美形だが、なんというか、タイプが違う美形。
言うなれば儚い系。
ただ眠気でトロンとしているだけなのだが。
「はあ? 俺の方が美形だろ」
「どこに張り合ってるの……」
「……んー……」
「シズフ隊長、起きてください。進路会議やりますよ」
「……任せた……」
「ダメです参加してください!?」
「ダメです、シズフ隊長もです!」
「……え……? あれ? ……さ、さっき話した人……?」
モニター越しに話した人とは、違う人のようにうつらうつらとしてらっしゃる。
「……んん……そうか……お前が並行世界の……ラミレス姫……」
「あ、は、はい。ラミレス・イオといいます。えーと、シズフ、さん?」
と、呼べばいいのだろうか。
マクナッドは隊長と呼んでいるが……。
最年長だと言うから、登録者たちの中では隊長という事なのか?
「……シズフ・エフォロンだ……二号機の……」
「……シズフさん?」
「す、すみませんラミレスさん……シズフさんは警報音じゃないと起きないんです……!」
「そ、そうなんだ……! ……びょ、病気なんだもんな、確か……」
「す、すみません……そうなんです。過眠摂取症……昔はもう少し起きていられたんですけど……」
「……マクナッドはこの人と元々知り合いなんだ?」
「はい、共和主義連合軍にいた頃…………あ! いえ、それよりも、僕もまだ自己紹介をしていませんでしたよね! マクナッド・フォベレリオンと申します! 現在は『デュランダル』艦長というこの身には余る任を頂いております! 以後お見知り下さい!」
「……あ……う、うん……」
真面目さんだ。
……やはり根本的なところは同じマクナッドのようである。
なんだか今更元の世界でも知り合いだよー、とは言えない空気になった。
きちっと敬礼して挨拶と自己紹介をしてくれたマクナッドに笑顔で答えつつ、そんな事を思う。
「……もうシズフさんは寝かせておいてあげよう……。……うー……こうなったらスヴィーリオさん、助言よろしくお願いします!」
「ご期待に添えられるよう頑張ります」
「どういう事……?」
「アベルトは軍人じゃないから、こういう時は彼らの意見を重視するんだよ」
ギベインにこっそり聞いたが、よくわからない。
とりあえず、イゼルの意見。
ここから一番近いという月近い『第七基地』に行くか、サイファーの意見……火星方面の『第九基地』へ行くか。
艦橋はこの二つの意見に分かれている。
どちらも『ジークフリード』の秘密基地。
基地の全権はザードが握っている。
どちらに行くにしても、ザードがダメと言えば行けない。
「……因みにザードはどっちがいいの?」
「どっちも却下。月軌道に建設中の基地に植物園を置いて、ついでに製造中のアヴァリスの高速化パック拾いに行くってどうよ」
「ま、まだ基地が!?」
「しかも建設中!? あ、あんたんとこどんだけ金と人員があるのよ!?」
まさかの第三の案。
みんなもれなく驚いている。
「『α』のせいで難民が増えているからな……気付いたら人手はそんなに? 金は国家予算くらいあるんじゃねぇ? 俺としては技術に見合った分貰ってるつもりだけどな」
「……そうだった……こいつボッタクリ野郎なんだったわ……」
「それにしても、『α』に物流は遮断されているのに……建設材料はどこから……」
「企業秘密」
「やっぱりかよ!」
「第七基地とは別なの?」
「第七基地は月の表面に近いデブリに偽装してる。建設中のは月軌道近くのデブリ帯の中だ」
「……建設中という事は、完成しているわけではないんですよね? 我々が行っても大丈夫なんですか?」
「元々近いうち行くつもりだったんだ。あそこは同時進行でアヴァリスの装備作ってたからな。俺の機体は宇宙だと機動力が落ちる。で、強化用をちまちまと造ってたんだが……それをとっとと完成させたい」
「ほぼ私情と言う事ですね!?」
頭が痛くなってきた気がするー。
横でサイファーがそんな事を漏らす。
……無理もない。
「……サイファー・ロン・ガイラオ……頼みがある」
「いきなりだな!? っていうか起きたのか!?」
「……私情で思い出した。……カイに手紙を届けて欲しい」
「カイ……に?」
そしてこちらはこちらでマイペースに起き上がる。
手紙というにはやけに小さくて細い物だ。
あの中に手紙が入っているのだろうか?
「……そうか……そいういえば大和とレネエルはそろそろ回答期限だな……」
「ああ。大和もレネエルも国土はそれほど大きい国ではない。特に大和はあまり争いを好まない国民性だと聞く。『α』への従属は避けられないだろう」
「………………」
「お、って事はいよいよ『大和の大鷹』が合流してくるって事か? 大和製巨人型兵器『瑪瑙』を俺の好きにしていい日が遂に……!」
「そ、そんな訳ないでしょう!? 『メノウ』は大和の技術の最高峰ですよ!? いくら『ジークフリード』とはいえ好きにいじっていいわけがないです!」
ラミレスにはわけが分からない。
が、とりあえずマクナッドが正しいと思う。
なぜならザードの顔が明らかに悪人面全開だからだ。
……美形とは、なんぞや。
「カイさんは協力してくれるんですか?」
「ああ。ただし妹の保護が条件だ。『α』のやり方では妹の夢が叶えられなくなる。……あいつの妹の巨兵器パイロット適正値はトップクラスだったからな……」
「カイさんの実力を思えば無理ないといいますか……」
「……『大和の大鷹』の妹……ね。それは確かにヤバそうだわ」
「つーか、それなら窓口は俺がやるぜ? 大和の技術者たちも大体俺が仲介してきたんだ」
「それならその辺りは任せる。……あいつもあんたなら喜ぶだろう」
「…………」
なんか思い切り目を逸らすサイファー。
ははは……と笑い声まで乾いている。
「パイロットはどーでもいいが純大和製巨兵器は確実に手に入れたいからな! しくじるなよ」
「お前はブレねぇなぁ……」
「カイさんが参加してくれたら心強いけど……『α』相手じゃ『メノウ』でもジャックされちゃうんじゃ……」
「多分な。既存のシステムだとそうなるだろう。ま、例のヤツの完成は間近だ、どうにかしてやるさ。この『神の手を持つ悪魔』が!」
「自分で悪魔って言い切るのね……」
「俺が天使様に見えるのかよ」
いや、まったく。
満場一致で全員が首を横に降る。
「まあ、それはそうと目的地です。……かなり私情ではありますが、基地の総括がそのように申しておりますが……どうします、アベルトさん」
「んあ……! そ、そうか、どうしよう」
「僕はザードさんがそう言うならザードさんの案がいいと思います!」
「俺も〜」
「気になるのは建設中、と言うところですね……安全性はどうなのでしょうか」
「安全性云々はどこも同じだろ。俺たちは世界と戦争してるんだぜ」
「それはそうでしょうけれど……」
「……植物園を置いてこれるくらいの広さはあるんだ?」
「まぁな」
植物園というと、この艦に入った時に迷ったあの辺りだろうか?
置いてくる、という事は着脱式なのか?
確かにこんな大きさじゃあ戦艦というよりは小島みたいな感じだ。
「そうだよな……植物園は、どこか安全なところにいて欲しいもんな。……ザードがそう言うんなら、俺はその建設中の基地でいいと思うけど」
「そうですね、今のところ我々は逃げ回る事しかできません。ですが……」
言葉を濁す父。
その続きを、シュナイダーは容赦なく口にする。
ラミレスに、思い知らせるかのように。
「大和とレネエルが『α』の傘下になれば、味方は完全に潰える。一刻も早く『α』本体の居場所を特定しねぇと、瞬く間に物量で潰されるぜ。いくらGFがとんでもねぇ兵器だとしても、乗ってるのは人間なんだ」
昨日聞いた大国というやつと、戦っていた国。
戦争していた軍事のある国全てが敵になる。
どんどん追い詰められていくのは、こちら側。
勝ち目のない戦争はより、勝ち目が減っていく。
「そうですね……宇宙のどこかの、生産工場のどれかであるのは間違いないのですが……」
「あっちもかなりじゃんじゃん工場を増やしてるものね。引っ越しし続けてる可能性も高いわ」
「だが、小さい工場にはいねぇはずだ。世界を支配する規模の人工知能を維持するのには、どうやったって幅が必要になるからな」
「……その大きな工場の場所は……まだ分からないんだよな?」
「ああ」
「ねぇ、それなら――」
はーい、と隣で手を挙げたギベインが途端に辛そうに目を閉じる。
頭を抱えて「あいたぁ!」と叫ぶので、驚いて肩を支えた。
突然の頭痛?
「ちょ、ザード!?」
そしてアベルトの突然の叱咤。
されたザードを見ると右目の色が違う。
普段は明るい黄緑色の両目が、今は右が青い。
これは、アベルトがイノセンスを操作していた時のと同じ――。
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