第12話 並行世界で新生活【1】
「…………あの、とりあえず昨日の話の続きをしたいんですけど……でもその前にご飯を食べた方が良いと思うし、あと、他にも紹介したい人が何人かいてですね!」
「……シズフさんとか?」
昨夜会っていない最後の登録者。
名前は聞いた事がないので、恐らくラミレスの知り合いではない人だろう。
「そっ……、…………。…………お、起きている時に、会えれば良いんですけど、そ、そうですね、シズフさんとか……」
「う、うん?」
そうか、そういえばシズフさんという人は過眠摂取症というやたら寝まくる病に侵されているとか言っていた。
起きている時間の方が少ないんだと。
「サイファさんとか、イゼルくんとか、マクナッドとか……」
「……え、マクナッド? マクナッド・フォベレリオン……?」
お兄さん。
真面目で可愛い、ラミレスの店のアルバイト……あの、マクナッド?
まさか!
「マクナッド・フォベレリオン……そうです! ……マクナッドは知り合いだったんですか」
「マクナッドも…………ここにいるのか……」
「あらん、艦長さんは知ってるのにワタシの事は知らないのぉ」
「いや、それはラミレスさんの世界での知り合いって事ですから……」
「分かってるわよ。でもちょっとジュラシー」
「マクナッドは、なにをしてるの?」
父やシャオレイ……ラウトのように軍人だろうか?
だとしたら更なる衝撃だ。
あの真面目で優しくて気の回る子が……。
「共和主義連合国レネエル軍の軍人です。マクナッドはお父さんがレネエルの国防相で……俺たちの乗ってる艦の艦長を務めています。すごく優秀ですよね……なんかもー、俺と同い年なのに……俺と同い年な人ってみんななんかすげぇ……」
「いや、お前も十分すげぇからな?」
「世界にたった五人の登録者のうちの一人なんだからね? ほんと自覚ないわねこの子……」
「いや、俺は普通の一般人ですよ? ザードは『ジークフリード』だしマクナッドは国防相の息子で大尉ですよ? 俺だけ本当になにもないですよー!」
ラミレスも……世界にたった五人のうちの一人は十分すごいと思うのだが……アベルトの中では元々の役職の方が重要らしい。
「……分かったよ。あとで紹介して。……それで、みんな悪いんだけど」
「?」
「着替えるから一回出てってもらって良い?」「あら、だからそういう時はフィムが……」
「手伝う」
「い、いらねぇ!」
「出ましょうよ!?」
心の底からの叫びにアベルトが三人の背中を押して出て行ってくれる。
これがロイヤル騎士……?
ラミレス直属の騎士たち……。
つまり、お姫様のこの世界の『ラミレス』を護衛する人たちという事だ。
(どいつもこいつもキャラ濃いなぁ‼︎)
さっさと着替えないと、あの無表情鉄仮面が手伝いに入ってきそうだったので、サクサク着替える。
恐ろしい……昨日会ってないのにサイズがぴったりだぞ、どういう事だ!?
(まあ、動き易いからいいか)
色々と、服に関しては考えない事にした。
「それで、これからどこ行くの?」
「食堂です!
「ふね?」
「ウフフ、『ジークフリード』製の最新鋭戦艦『デュランダル』。なんとザードちゃんが造った唯一無二の『ギア・フィーネ』専用輸送戦艦なんですって。エネルギーの全てをGFが補う凄い艦よ」
「専用艦……」
……っていうか戦艦って事はあれ?
大砲とかついてるゴテッゴテなやつ?
案内されるってことは乗るのかな?
え、俺みたいな民間人が乗っていいの?
戦艦って事は軍用艦だよね?
頭を巡る色々な考え。
しかし、それならばもっと根本的なことが目の前に転がっていやしないか?
昨夜は気づかなかったが、これまでの説明を振り返ると現状はかなりおかしいのだ。
食堂への道すがら今更気がついたそれに歪む表情。
そう、おかしい。
戦争中なら──、なぜ……。
「? ラミレスさん?」
「ねえ、昨日……いやまあ、時間的には今日だけど…………大きい国同士が戦争してるって言ってたよな?」
「はい」
「……でも、なら……」
まだ会った事はない人も多いけれど、それでも違和感には……なにかがとてもおかしい事には気が付いてしまった。
「……ええと……なんで、その、いろんな国の人がいるの、かなーって……」
アベルトやザードはよく分からないが、カリーナたちはカネス・ヴィナティキ帝国の人たち。
マクナッドとGFの登録者の一人、シズフさんという人は共和主義連合国軍とかいう軍の人たち。
ラウトはアスメジスア基国の軍人。
この場所が中立だから?
だが、GFというものが世界で奪い合われている兵器なら、ここに全部揃っているのもおかしい。
「あ、き、気づきました? さ、さすがぁ……」
「あんらぁ、もしかしてそこまだ説明していないのぉん?」
「変な時間に決行したからだろう」
「そういえばなんで午前零時?」
「敵襲が一番少ないのが夜中なんさ」
「て、敵襲……」
その辺りは今日、これから……と項垂れたアベルト。
仕方がないとばかりに肩を落とすシュナイダーとカリーナ。
食堂につくと、そこには父スヴィーリオとシャオレイの姿があった。
シャオレイは食事中だが、スヴィーリオは調理中のようだ。
ラミレスの姿を見るなり、食事を中断して席を立つシャオレイ。
(シャオレイ……)
ラミレスたちの立つ出入り口から無言で立ち去ろうとするシャオレイを、ガシッと左右から掴むシュナイダーとアルフィム。
「おいおいおい、どこ行くよ」
「は、離せ……」
「あらん、あからさまに避けすぎよぉ〜? っていうか、ご挨拶くらいなさい」
「構いませんよカリーナ、シュナイダー、フィム」
えーー。
不満げな声を上げるシュナイダーとカリーナ。
「スヴィーリオったら弟子を甘やかしすぎじゃあなぁい?」
「……お許しください……」
「ったく、甘いなぁ。あんたが言うんじゃしょーがねぇ。ほらよ」
「っ……」
ぺいっとシャオレイから手を離すシュナイダーとアルシャム。
二人をひと睨みして、早足で歩いて行ってしまう。
その間一度もラミレスを見なかった。
「………(やっぱりこっちの世界でも俺はシャオレイに嫌われてるんだな……)」
分かっていたけれど悲しい。
彼とは仲良くしたいのに。
いや、並行世界のシャオレイと仲良くなってもラミレスの世界のシャオレイと仲良くなれるわけではないけれど。
「……んま。もしかして男の子のラミレス殿下もシャオレイにお熱なのかしら?」
「ん? え?」
「殿下、お食事にこられたのでは? ご用意しましたのでこちらへどうぞ」
「でん……か?」
思わず父を凝視する。
そして無言で見詰める。
ゆっくり父に目顔を背けられた。
(う、うわぁ……なんだこのよく分からない重い空気……)
(え〜……なんだよこの空気……)
(シャオレイちゃんもそうだけど思っていた以上に面白〜い事になったわね〜)
なんて他人行儀な……。
とも思うが確かにお腹は空いた。
促された席に座ると、差し出されたトレイの上には手作り感溢れるサラダとシチューとパン。
「父さん作ってくれたの?」
「……ヒッ…………は……はい……」
「どうしたの!? 声消えそうだよ!?」
「も、申し訳ありましぇん……」
「なんで震えてるの!」
顔は真っ青だし、体プルプル震えてる。
なぜ謝られたのかも分からない。
(あ……)
この世界の『ラミレス』は父を父と知らなかった。
そして、そのまま暗殺されて──。
娘を守れなかった父。
父娘と娘に知られる事もなく。
ぽっと出て来た自分が、きっとなにか複雑な事情のあるこの世界の『父』を気安く父と呼ぶのは……彼にとって辛い事なのかもしれない。
(け、けどじゃあなんて呼べば……? スヴィーリオさん? 父さんなのに……?)
他人行儀過ぎる。
ラミレスはずっと一緒にいたのに……。
「……申し訳ありません、殿下……。あ、いえ、ラミレスさ、ん」
「(とても困ってる……‼︎)……い、いや……。えーと……」
「あらあらぁ、固いわねぇ。けどいいわ、スヴィーリオがそんな人間らしい顔するなんて滅多にないもの♪ でも、食事は楽しく摂らないと。でしょう?」
「……そうだね、俺もそう思う」
「で、ですね! 俺も一緒に食べていいですか?」
「アベルト〜! うん、もちろん!」
「……では、アベルト様の分もすぐにご用意して参りますね」
様!?
驚いたが、世界に五人だけの『GFの登録者』は様付けで呼ばれるのに相応しいかもしれない?
「ん? ……あれ、ギベイン?」
スヴィーリオがアベルトの分を取りに行く。
それを目で追うと、厨房の入り口に子供が二人座って食べている。
一人はギベインだ。
もう一人はギベインと同じ顔の少年。
ラミレスが声をかけるとギベインが笑顔で席に立つ。
「おはよう〜。……えーと……」
「ラミレスだよ」
「そうだった!」
顔と名前を覚えるのが苦手と言っていた。
しかしまさか数時間で忘れられるとは。
「ご飯ちゃんと食べてるんだな」
「ボクはあんまり食に興味ないんだけどねぇ。セーヤにはちゃんと食べさせないといけないから」
「セーヤってあそこに座ってる子? ギベインの兄弟か?」
同じ顔だ。
ギベインに比べて髪の色は青みがかっているし長さは短いし表情はそこのアルフィムくらい無いけれど。
「そうだね。遺伝子はほとんど同じだよ。ボクは技術者タイプで彼は戦闘タイプだから、身体能力には天と地ほどの差があるけど」
「……?」
「……えーと……キミは朝数時間前に並行世界から呼び出した方のラミレスだよね?」
「そうだけど……」
おいおい、覚えないのにもほどがあるんではないか?
変な汗が出てくるラミレスとアベルト。
「あの場にいたじゃないか……。忘れすぎだよギベイン」
「んふふ、ごめんねぇ。興味がない事はあんまり記憶に残らないんだよ!」
「いや、知ってるけど」
「ボクが今興味あるのは男のラミレスの歌にもGFに影響があるかどうかだなぁ。早く試してみたい」
ぺろ。
舌を出してウインクする子どもの姿は可愛いんだけれども……。
「…………(な、なんか怖いな……)……えーと……そ、そっか、そういえばこの世界の『俺』は歌手だったんだっけ。歌で『ギア・フィーネ』は強くなる、とか……」
「少し違うよ。特定の人間の歌声がGFのGF電波と登録者の脳波の周波数誤差を修正……いや、調律するんだ。それでGFはギアを上げられる! そのメカニズムは未だ解明されていないけれど……」
「ギ、ギベイン、今ラミレスさんご飯食べようとしてるところだから……」
「あ、そうだね。ごめんごめん、またあとでね」
「え、一緒に食べようよ」
「んえ? ……あー……それじゃあそうしようか。セーヤも呼んでいいかい?」
「セーヤ? あの子? もちろんいいよ。紹介してよ」
「………………」
ギベインの隣で食べていた子だろう。
だが、呼んだ事をアベルト以外の……ロイヤルナイトの方々は眉を顰める。
(なんだ?)
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