第3話:見える景色と見えない景色
終業を告げるチャイムが鳴ると同時に教室内がざわついていく。
「はいここ、テストに出るからなぁ。ちゃんと復習しとけよぉ」
数学教諭は負け惜しみのようにそう言うと、がらりと扉を開け、教室から出ていった。
「なあ、貴樹。お前、今年もあいつに会ったのか?」
佐伯雅也の前に座る河野貴樹は、やや神妙な面持ちで彼を振り返る。中学卒業後、偶然にも二人は同じ高校に進学した。
「ああ、昨日」
「そうか。まだ見えるのか……。なあ、俺にも見えるかな」
「お前、この話しても、今まで信じなかったじゃないか」
田堵江波神社で天崎由香里に会ったのは、高校一年の夏。以来、毎年夏になると、あの神社には必ず由香里が現れる。
「いや、普通は信じないだろう。でも、さすがに三回目となるとな……」
「行ってみるか? 田堵江波神社」
「あ、ああ……」
「こういうことは自分で確かめた方がいい。気になるならね」
放課後、二人が教室を出たところで、春野琴美とすれちがった。
「貴樹、今日は一緒に帰れない?」
「ああ、今日はゴメン。佐伯と用事があるから」
「すまんな、貴樹を借りるぜ」
雅也はそう言うと、貴樹の脇腹を軽く小突いた。
「別にそんなんじゃないよっ」
美琴は顔を真っ赤にしてそう言うと、足早に教室へ入ってしまった。
■□■
小高い場所にたたずむ田堵江波神社の境内の一角には、街を見下ろすことができる場所がある。それを展望台というにはやや大げさだけれど、幹線道路や住宅街を縫う路地まで見渡すことができた。市街を抜けると、その先には海が広がっている。田堵江波海岸は遠浅の海となっていて、沖には小さな灯台が立っていた。街の歴史資料によれば、この神社は、海上守護のために創建されたという。古くは海上にも鳥居があったそうだ。
境内がひんやりしているのは、海側から流れ込んでくる風のせいかもしれない。貴樹は遠くの水平線を見つめた。灯台まで遠浅の海中に巨大な電柱がいくつも立ち並び、海上を巨大な送電線が伝っていく。
「なあ、由香里はいるのか?」
「ああ。僕のとなりにいるよ」
「そうか。やっぱり、俺には見えないみたいだ……」
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