10話 LOVE! ミニゲーム

 エマの好感度があがった。ならば王子の俺への好感度も下げねばなるまい。


「王子、レオポルト王子」


 俺はレオポルト王子に呼びかけた。


「なんだい?」


 いちいちキラキラエフェクトの散りそうな笑顔で王子は俺を見る。

 その目は熱くシャルロットを見つめていて、本当に心から彼女を愛しているのだと分かる。

 だが、すまん。今のシャルロットの中身は男子高校生なのだ。

 だから俺は鬼になるぞ……!


「……なんだい、それは」


 レオポルト王子がプルプルと震えている。ああ、ショックだろう。

 この美少女の『変顔』を見るのは……!


「ぷっ、あはははは。笑わせないでおくれシャルロット」


 やばい大受けしている。だめだったか。ここにも王子の地雷はなかった。


「いえ、退屈ではないかと思いまして」


 俺はなんとかそう繕った。


「そうだな……シャルロットがそう言うなら」


 王子が立ち上がった。そしてすっとピアノの元にいく。


「失礼するよ」


 そして椅子を引いてきてエマの隣に座ると、鍵盤に手を置いた。


「あ、あの……」

「さあ、ついておいで」


 王子の長い指が鍵盤を叩く。エマはハッとした顔をしてその後を追いかけるようにしてピアノを弾いた。


「まあ、あの子。レオポルト王子と連弾をしているわ」


 サロンのメンバーが突然の出来事にざわつく。特にシャルロットの取り巻きズの無言の圧力がすごい。


「シャルロット様がいらっしゃるのに! ずうずうしいですわ!」


 そういう声も聞こえるけど、俺はピアノなんか弾けないからな。巻き込まないでくれ。


『ああっ!』


 そんな俺の頭の中で、マイアのびっくりした声が響いた。


「どうしたマイア」

『れ、恋愛イベントがはじまりましたですよ!』

「なぬ! なんだそれ」

『ミニゲームです! 王子と連弾が弾ききれるか! 成功率70%以上でクリアです』

「音ゲー……?」


 

 そうと言っても当事者ではない俺は見守るしかない。


『あっ、あっ、あっ……』

「マイア……無駄にひやひやするんだけど」

『あっ……! クリア! クリアボーナスで好感度が5%上昇です』

「おおーっ」


 俺は思わず立ち上がって拍手をする。


「ありがとう」

「ありがとうございます……」


すると、周りのサロンメンバーもつられて手を叩きはじめた。


「どうだい、僕の演奏は」

「すばらしかったですわ」

「そうかい」


 思ったのとは違う結果になったけれども、これはこれで結果オーライである。


「ふう、では私そろそろ帰りますわ。皆さんはごゆっくり」


 俺はそう言い残し、サロンから出た。


『やりましたね、悠斗! さすがです。エマと王子の仲が深まりましたなの』

「あ、ああ! そうだな! あははは」


 やべぇ、まぐれ当たりなんだけど。

 俺が密かに脂汗をかいていると、後ろから声がした。


「シャルロット様……!!」

「あれ、エマ? どうしたんだ」


 てっきり王子と仲良くしていると思って居たエマが、そこにいる。


「申し訳ございませんでした!」

「え?」

「王子はシャルロット様の婚約者なのに……私ったら……」


 ああ、そうか。エマはそれで俺がへそを曲げたとでも思ったのだろうか。


「ほほほ、そんなことを気にする私ではありませんわ」

「えっ……」

「エマはもう私のお友達なのだから王子とも仲良くしていただかないと」


 よし、これで俺に気兼ねすることなく王子といちゃこらできるだろう。


「それじゃ、どうして帰ってしまうのですか?」


 見るとエマはグリーンの瞳にうるうると涙さえ浮かべてこちらをみている。

 うっ……泣かすつもりはなかったんだけど……。一人で残されて不安だったのかな。


「それは……ちょっとお腹が痛くて」

「あら! それはいけません。保健室に行きましょう!」


 あわわ、適当に言っただけなのに!

 エマはぐいぐいと俺の手を引っ張っていく。


「大した事ないから。部屋に戻って安静にしていれば大丈夫」

「いえ、万が一ということがありますから!」


 そしてある一室のドアをあけた。


「先生! 先生!」

「なーんだい」


 そこに現われたのは灰色の髪に眼鏡の細身で高身長な男だった。


「アンリ先生!」

「やあエマ。今日はどうしたんだい。おや……随分雰囲気が変わったね」


 アンリと呼ばれたその保険医は低く涼やかな声でエマに語りかけた。するとエマの頬がサッと赤くなる。

 ……ん?


「あの……今日はシャルロット様がお腹が痛いって」


 そのブルーグレイの瞳が俺を捉える。


「おや……公爵家のお姫様じゃないか。どれどれこっちにおいで」


 するとあれよあれよという間に、アンリ先生の膝の上に座らされてしまった。


「痛いのはここかい?」


 服の上からとはいえ、下腹部を押されるのはー! ちょっとー!


「いえ。もうなんでもないです」

「そうか、一応薬を出しておこうね」


 俺はアンリ先生が出した錠剤をゴックンと飲んでいそいそと膝の上から降りた。


「なんだあれはー……!」


 保健室から出た俺は思わず呟いた。

 顔が良いから許されるのだろうか。あれじゃ変質者じゃないか!


『残念なことに、エマの好感度は50%を超えています』

「ええ?」

『彼女には大人の素敵な男性に映っているようですね……』


 マイアはあんなキャラだっだっけな……なんてぶつぶつ言っている。

 大丈夫か、このゲーム。

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