諦観という嘘

怒らなくなった。

泣かなくなった。

諦めることを知った。


全部、嘘だ。


***


そういう仮面を被れるようになって、それで身を守り、感情をガードすることを覚えた。それだけのこと。


**


怒らなくなったのではない。

怒ることが怖くなって怒れなくなった。

怒るという強い感情を剥き出して、ぶつけてしまったら、後始末に結局、自分が疲れてしまうだけだから。



泣かなくなったのではない。

一度泣けば、涙に溺れてしまって収集がつかなくなりそうで我慢していたら、いつの間にか泣き顔の作り方も泣き方も、涙の感触さえ、わからなくなった。



諦めている、と最初から宣言して自分に言い聞かせておくことで、予防線を張れる。

期待してなかったのだから、ショックも受けていないし、こうなると予想していたから今更、傷つくはずも無いのですよ、という方便でプライドの崩壊を防ぐための……。


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【諦観】(ていかん)

1.本質を見極めること。

2.俗世に対する欲望を断ち、超然とすること。

(出典:Wiktionary)

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本来の意味と、わたしの被っている薄っぺらな仮面とが、いかに乖離かいりしていることかを思い知る。


本当にわたしは諦観しているのか?

いいえ、そんな悟りなど開けるわけも無い。ただ、諦観したフリをしているだけ。


**


(この一見、穏やかに見える仮面は誰の顔? こんなにも臆病になってしまった、わたしの?)


**


つきたくてつく嘘など、あるはずも無いが、嘘をつかなくても生きていけるほどに、人生が生易しいものではないことくらいは知っている。


沢山の何らかのフリをして、何枚もの仮面を被っては脱ぎ捨ててを繰り返し、ここまで来た。


***


悟りなどというものとは一番遠い場所で、今日もわたしは狼狽うろた戸惑とまどいながら、生きている。


小さな嘘でツギハギした仮面のお墓の上に、よろよろとした生命のを、ひっそりと積み上げながら……。



──そうして、生きている。

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