第27話「食事会は逞しい騎士達と④」

【相坂リンの告白⑭】


 まるでこごえる氷の眼差し……

 凄い目付きで私を見る、シスターステファニー。


 私はとても嫌な予感がし、思わず目をそらした。

 早くトオルさん達が席へ戻って来て欲しい……

 そう願いながら。


 でも、期待は虚しく、中々トオルさん達は戻っては来ない。

 そのうち、シスターステファニーが立ち上がった気配がした。

 案の定、私の席までやって来る。

 彼女は、開口一番。


「シスターフルール、騎士様達が戻るまで、ちょっとお時間を頂けますか」


 騎士様達が戻るまでって……

 シスターステファニー、貴方の対面にはちゃんとカミーユさんが座っているじゃない。


 でもそんな私の心の声は、彼女には全く届かない。

 「ちら」と見やれば、完全放置されたカミーユさんが呆然としていた。


 あ~あ……悲惨。

 カミーユさん、完全に撃沈って感じかも……


 でも私だって人の事など言えない。

 明日は我が身……かもしれないから。


 仕方がない、覚悟を決めよう。


 頷く私を促し、シスターステファニーは個室の片隅へと誘った。

 私も仕方なく着いて行く。

 そして……


「シスターフルール、折り入ってのお願いがあるのですが」


「折り入ってのお願い……ですか?」


 うっわ!

 ホントに、いや~な予感……


「はい! 単刀直入に申し上げます」


「は、はい……何でしょう?」


「お願いとは……私をフォローして頂きたいのです」


「フォロー?」


 一瞬、戸惑とまどった私だが、すぐ彼女の言う意味を知らされた。


「はい! ズバリ私はレーヌ子爵様が好みです。ぜひ親しい間柄になれればと思います」


 やっぱり!

 私の嫌な予感は当たった。


 でもはっきり言って、そんな願いは断りたい。

 絶対に、ごめんこうむりたい。

 

 何故かと聞かれれば、こう言いたいのだ。

 シスターステファニー、私を頼る貴女の気持ちは嬉しい。

 だが、断る! と。


 う~ん、私はやっぱりラノベの読み過ぎ。

 こんな時でさえ、受け狙いで、あの有名なセリフが心にリフレインしてしまう。


 でも断る理由を具体的に!

 と、問われればはっきりとは言えない。


 まさか私とトオルさんは転生者というか異世界転移者だなんて……

 絶対に信じて貰えないし、ね。


 それに一旦離れ離れとなったのに、運命の再会を果たしたなんて言ったら尚更。

 即座に創世神教会付属病院へは運ばれるかもしれない。


 もしもはっきりした理由を告げずに断れば、先ほどの懸念は現実となるやもしれない。


 でも……

 私はもう怖れない。


 トオルさんとは運命の再会を遂げたのだから。

 ベタな表現だけど、彼とは宿命の絆でつながっている。

 そう、断言出来るから。


 つらつら考えていた私に対し、シスターステファニーは怪訝な表情をする。


「どうかしましたか、シスターフルール」


 いやいや、どうかしました、じゃない。

 私はこんなにも悩んでいる。


 でも……もう決めた!

 きっぱり断ろう。


「ごめんなさい、シスターステファニー。貴女のご期待には沿えません」


「期待には沿えないとは? ……そういう事ですか?」


 そういう事って、どういう事なのか……

 私にはピッタリ確定出来ないけど……

 多分、当たってる。

 だからはっきりと返事をする。


「はい、シスターステファニーのご想像通りです」


「成る程! では……勝負です」


「勝負?」


「シスターフルール、私は貴女へ宣戦布告致します」


「宣戦布告?」


「はい! 私はどんな手を使ってもレーヌ子爵を振り向かせてみせますから」


 うわ!

 どんな手を使っても、ってこの子……

 

 思わずシスターステファニーの姿が、

 愛読したラノベの性悪な悪役令嬢にピタリと重なって来る。


 先ほどいろいろと考えていた不安が、もしも現実になったとしたら……


 シスターステファニーの祖父、枢機卿の命により……

 私は多分、創世神教会には居られなくなる。

 当然、聖女の身分は、はく奪されるだろう。

 加えてフルールの父ボードレール男爵にも多大な迷惑をかけるかもしれない。


 でも……私は愛を貫く。

 いざとなれば、全てを捨ててトオルさんと一緒になる。

 

 身分に縛られる貴族のクリスさんなら無理ゲーでも……

 彼の心の中がトオルさんなら、私をけして見捨てたりはしない。

 そんな確信が私の心をたっぷりと満たしている。


 異世界にいきなり放り出され、

 たったひとりきりの『ボッチ』だと思っていたけれど……

 実は全然違っていた。

 

 私には……

 前世で巡り会った運命といえる、愛し愛してくれる人が居る!

 この異世界でも、ちゃんと待っていてくれた!


「私も負けません」


 はっきりと言い放った私のカウンター、

 つまり『宣戦布告』を聞き、

 シスターステファニーはその可憐な顔立ちを僅かに歪ませたのであった。

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