第23話「食事会は逞しい騎士達と②」

【相坂リンの告白⑫】


 見つめ合うシスタージョルジエットとアランさん。

 果たして、どうなってしまうのか?

 先行きを考えると不安しかない。


 トオルさんと再会出来たのは、凄く嬉しいけど……

 大きな不安がよぎる。


 そんな事をつらつらと考えていて、

 ふとトオルさんを見やれば、彼も何だか不安そうな面持ちだ。


 もしやシスタージョルジエットの思惑がバレた?

 ……と、思ったら違った。

 トオルさんの視線は隊長のジェロームさんへ向いていたから。


 ええっと、ジェロームさんって硬派と聞いていたけど、

 それ以上に女性に対して『奥手』みたい。

 雰囲気が暗い……否、硬い。


 ジェロームさんがそうだから、対面のシスターシュザンヌの雰囲気もぎこちない。

 話は全く弾んでいないようだ。


 困っているらしいトオルさんを、

 ここは私がフォローしよう。


「こんばんわっ!」


 私は元気よく、トオルさんへ挨拶をした。

 先ほど話したカフェで打合せをして、

 私と彼はさりげなく『初対面』を装っている。


「こんばんわ、フルールさん!」


「こんばんわ! ええっと、クリスさんって、もしかして愛称ですか?」


「ええ、本名はクリストフ、クリストフ・レーヌです」


「そうなんだ! この出会いって運命なのかしら? うふふふふ」


 ああ、失敗!

 つい嬉しくなって調子に乗り過ぎた。

 

 見やれば私のノロケを聞いたトオルさんが困った顔をしている。

 いきなり、そんなにフレンドリーじゃいけないよって顔してる……

 

 ごめんね、トオルさん。

 運命の再会を遂げて、とっても嬉しいの。


 でもはたから見たら、不自然。

 私達が『特別な関係』だって、ばれてしまうよね?

 

 でも、まあ良いか……ばれたって。

 何とでも言い訳できそうだし。

 私は、嬉しくてたまらないし、

 

 うん!

 ここは、気持ち良くちゃんと挨拶。

 

 もっと私本来の、

 元気印の明るいキャラをアピールしよう。

 そうしよう。


「私、シスターフルール、本名はフルール・ボードレール! 宜しくね」


「はい、宜しくお願いします」


「うふふ……私、もっとクリスさんの事を知りたいわ」


「俺もさ!」


 男女間の会話が盛り上がったところで、

 次の飲み物を頼むのが、この異世界合コンの常道って聞いている。

 これって、前世の合コンと一緒。


 そして、私が飲みたいモノも、決まっている。

 乾杯したエールよりも、断然ワインの方が好き。

 

 このような時、トオルさんは本当に気配り上手、勘も良い。 


「フルールさん、飲み物頼もうか? ワイン?」


 と聞いて来た。

 私は、打てば響けと返事をする。

 つい嬉しくて笑顔になる。


「はい! 白ワインが大好きです! うんと冷やしたの!」


 ここでトオルさんは、右側のジェロームさんを見た。

 つい私も同じくジェロームさんを見たけれど

 硬くなるどころか、完全に固まってる。


 シスターシュザンヌを見れば……

 こっちもまずい、しらけ切ってる。

 

 これは本当にまずい。

 って感じでトオルさんが呼びかける。


「ええっと! ジェロームさん?」


「ななな、いきなり何だ?」

 

「ジェロームさんとシュザンヌさんの飲み物も、一緒にオーダーしますよ。シュザンヌさんへ、何が飲みたいのか、聞いてみて下さい」


 おお、トオルさん、ナイスフォロー。

 だがしかし!


「はぁ? 何故だ? 彼女の杯には、まだあんなにエールが残っているぞ。勿体ない!」


 ああ、ジェロームさんって……本当に鈍い、気が利かない人。

 部下のトオルさんがこんなに気を遣っているのに!

 

 と、やきもきしていたら、

 トオルさんが何かひらめいたみたい。

 

「じゃあ、シュザンヌさんの残ったエール、俺が貰っちゃおうかなぁ?」


 わあ!

 ショック!


 クリスさんの硬派なイメージが台無し。

 まるで道化役のようなおどけた物言い。


 それより、この提案は私的に超NG!

 絶対に阻止しなければ!


「わぁ! クリスさんったら! 駄目、浮気しちゃあ」


 自分でも分かる。

 私は少し怒ってる。

 トオルさんが、他の子が飲んだエールをなんて!

 絶対に許せない!

 

「それって、シスターシュザンヌと間接キッスという事になるでしょう? いきなり浮気はダメダメ! 私のエールを飲んでね!」


 と、言えばトオルさんが『名案』で切り返して来る。

 

「じゃあ、俺はフルールさんのエールを飲みます。だから、ジェロームさんもシュザンヌさんのエールを貰って下さい。間接キッスで!」


 ああ、素敵!

 さっすが、トオルさん!

  

 思わず、喜びの声が出る。


「やった!」


 トオルさんとは、息がばっちり合ってるって感じる。

 私は、勝利のガッツポーズ。

 チラ見すればシスターシュザンヌも、初めて笑顔を見せている。

 よっし!

 作戦は大成功!


 しかし!

 意外な裏切者が現れた。

 それはジェロームさん!


「いや! 俺は赤の他人が口をつけたエールなど飲めん! どうしたんだ、クリス! いつものお前らしくないぞ!」


 えええええっ!?

 この人、何言ってるのよ!


 ねぇ、ジェロームさ~ん、空気読んでくださ~い!

 部屋がパキパキ凍るくらい、凄い『大寒波』が来てしまうわ!


「…………」


 案の定、シスターシュザンヌはとっても白けた顔付きに、

 私も肩をすくめた。


 トオルさんは、横に居るアランさんをちらっと見た。

 困り果て、『救援』を求めるみたい。

 

 そういえば、と私は思い出した。

 こちらも大が付く問題が残っていたって。


 シスタージョルジエットは? 

 不俱戴天ふぐたいてんの敵? アランさんとは、どうなったのかしら。

 

 こっちが『大寒波襲来』だったら、

 もしかして……

 『憎悪の嵐』が吹き荒れていないかしら、怖い!


 私が、おそるおそる見やれば……

 何と!

 驚きの光景が展開されていた。

 

 仲睦まじく語り合う、もろ恋人みたいな……

 シスタージョルジエットとアランさんふたりの姿があった! 


 は?

 何!?

 さっきまでの話とちが~う!

 全然違う!!


 シスタージョルジエットったら、

 アランさんと凄く良い雰囲気になっちゃってる!?

 一体、どうしたの?


 わけが分からない私は、戸惑い混乱してしまったのである。

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