第3話 球技大会(喫煙所)
「ここのセブン学生いすぎじゃね?」
体育館そばにあるセブンにタバコを購入しに来た俺たち。
周りには学生学生学生。
うざったいほど多い学生がセブンを占領しているように錯覚する。
「んー、多いけど仕方ないんじゃない?」
「まあな。青は人多いの平気なの?」
「無理! 真冬は?」
「俺も無理。さっさと買ってタバコ吸おうぜ」
青が元気に会話に応じる。
さっさとタバコと飲み物を買って、コンビニから出て、コンビニの喫煙所に一直線。
「青は?」
「私も吸う!」
吸い始めて三日の少女。どんだけ吸うんだこいつ。俺と同じくらい吸うじゃん。
俺も吸い始めて四年目突入だから、まあ、吸ってる方だけど、俺からみても青はやばいくらいに吸うな。
タバコ吸うと喉乾くから飲み物の消費も激しいし、つか、青ってどっから金出てんだ? バイトしてんのかな? 俺のバイト先に来ないかな。そしたらバイト行くの楽しくなりそう。
俺はバイトめちゃくちゃ嫌いだから、少しでも楽しくして精神の負担を減らしたい。働くって行為が好きじゃないんだよな。
「ん? なに? え!? 私なんか変!?」
青の横顔を見ていたらワタワタと焦り始める。
それにしても可愛いんだよな、こいつ。髪の先青緑っぽいし、おしゃれさんだ。
俺なんか地味な隠キャとは違うなぁ。
「うんや、可愛いなって思って」
「は!? 何言ってんの? おいちゃん可愛くないよ?」
あ、またやっちまった。セクハラって思ってないかな。大丈夫かな?
あと、君は可愛いぞ。自信持って行こう。つか、青って自己評価低いよな、絶対。
「真冬、目大丈夫?」
「そこまでか!? いや、思ったこと言っただけなんだけど……」
「まあ、そういうことにしておこう! ありがとう!」
納得いかない顔をしながら、嬉しそうな、器用な表情を作る青の顔を盗み見ながら、話しかける。
「青ってバイトしてんの?」
その瞬間青が胸を張って、腰に手を当ててドヤ顔になる。
「してる! 動物カフェで!」
「動物カフェ!? え? どこにあんの?」
「駅ずっとまっすぐ行って、右あたりにあるよ! フクロウとか、ハリネズミとか、ハムスターもいるの!」
「ほう、ハリネズミか……触れるの?」
「触れる! よかったら今度おいでよ!」
いいなぁ、うちに猫のチビ助がいるから癒し成分は足りてるけど、ハリネズミとか触ってみたいなぁ。ミルワームとかの幼虫系が大の苦手で、ハリネズミ飼えないしなぁ。
「今度行こうかな……」
そう言いつつも金がないから行けないんだけどね。
タバコをもみ消す。青はまだ吸ってる。
半分くらいしか吸えてない。吸い始めたばっかだからこんなもんかな? いや、それにしても遅くないか?
「待って! ギリギリまで吸うの!」
「おう、ゆっくり吸え」
きっちりフィルターギリギリまで吸った青はドヤ顔でこっちを見てくる。
「よし、戻るぞー」
俺が歩き出すと、青もちょこちょこと隣についてくる。
「そういえば真冬ってなんのバイトしてるの?」
「言ってなかったっけ? 居酒屋のバイトしてるよ」
昭和感溢れる居酒屋で、怒鳴られながらこき使われている。
恩があるし、やるけども。まかない作るのは楽しいし。
本当は働きたくないし、いい感じでって言われたりで理不尽だけど、金がないからやるしかない。
「えー! 楽しそう!」
純粋な目で楽しそうにみてくる。
しかし、そんな楽しいものではないと思うんだけどねぇ。
「そんな良いものではないと思うぞ?」
「ええ! 居酒屋やってみたい!」
悲しいな、純粋な子を裏切るのは……。
そして戻ってくるのは最初の喫煙所。ガラスに囲まれた中庭のような広い空間。入って右側に1つ、2つ、少しばかりのベンチが並び、その左右にスタンド灰皿が用意されている。
一番端に青が座り、その斜め前に俺がしゃがみこむ。
「居酒屋なんて油臭いし、客は面倒だぞ。まあ、青だったら楽しくできそうだけど」
臆面なく人と話せるし、明るい性格だし、可愛いし。
店長も気にいるだろうし、俺みたいなことにはならないか。
一緒に働きたいだけっていうのは恥ずかしいから言えないかなぁ。
「一回うちの居酒屋来てみたら?」
「行きたい!」
「よしきた、そういや酒飲めんの?」
「んー、飲めるよ!」
なんか飲めなさそうな感じを醸し出してる。若干誤魔化すような笑顔なのもそういうことなんだろうな。
俺がいる時に来るか、一緒に行けば大丈夫かな?
「まあ、俺がいる時においで。そっちの方が来やすいでしょ?」
今度はちゃんと笑顔で頷く青をみて、大丈夫そうとタバコに火をつける。
青もタバコを吹かす。
「今日は球技大会なのに、タバコ吸ってるだけだな」
「そだねぇ〜、私たちはやることないしねぇ」
「そうなんだよなぁ。あー、帰りてぇ……」
いつまでも喫煙所で時間を潰す。
意味のない時間。今日はせっかくバイトを休んでいるのに、こんなところで1日時間を潰したくない。
そうは思いつつ本当に帰るってことはしないんだけどね。それは中学校でやってすっごい怒られたし、そんなリスクを被ってまで帰るのも面倒なんだよな。
「帰っちゃう?」
青がおちゃらけた笑顔で顔を覗き込んでくる。
残念だったな本当に帰りたかったら中学の時の俺に言ってくれ。
「俺の出る競技が午後からだから、帰れないな。青は終わったなら帰ってもいいんじゃないか?」
「真冬は帰んないの?」
「帰んないよ。俺の競技最後だし」
「ええー、真冬も行かないなら帰んない!」
青が頬を膨らませ、笑顔になる。
青が笑顔になるのを見ると俺も笑顔になる。
タバコをもみ消し、新しいタバコの箱を取り出す。
「なあ、青。そういうこと言うのは気をつけろよ? 童貞こじらせたクソオタク陰キャ達はすぐに勘違いするぞ?」
新しい一本に火をつける。
心配すぎる。勘違いしたキモいおっさんとかがストーカーになったりしないか心配だ。
現に俺が勘違いしそうになったから。ま、俺のこと好きになる女の子いないからありえないんだけどね。
危ない危ない。勘違いしてしまわないように心を沈めなければ。
「え?」
「は?」
もしかしてこいつ、わかってない?
「何が勘違いする原因かわかってる?」
目を丸くしている青に呆れながら言う。
青が若干考えてから、アホな顔になる。
「勘違いって?」
嘘だろ……。
「あのな、異性に向かって、あなたがいないからしないって、気があるように見えるからやめとけ」
「私にそんなこと言われても勘違いする人なんていないよ! 私かわいくないし」
「何を言ってんだよ。男、特に童貞クソ野郎共はすぐにころっといっちまうんだよ」
「……もしかして真冬ちょろい?」
何もわかってないなこいつ。
まあ、俺がちょろいのはわかりきっていることだけどな。
21歳過ぎまで童貞やってりゃ、こじらせてちょろくなるか、全てを諦めるかの2択だろうよ。
俺の2個上の知り合いなんて、完全に諦めてネタにしてるぞ。
「俺はちょろいけど、童貞男子なんてそんなもんだ。ちょい考えてから話な」
「……別に、真冬ならいいもん」
そう言うところだっての……。
純情な童貞クソ野郎をからかって楽しむんじゃないよ、二個下のお嬢ちゃん。
悲しいかな、こんなに話してくれて、こんなに笑顔を振りまいてくれる子に、童貞はコロコロ落ちていくんだよ。
あー、あー、去年恋愛で痛い目見たからしばらくはしないと思ってたんだがなぁ。俺ちょろ過ぎないか?
「俺みたいなアホを口説いても何も出てこないぞ。金もないし」
俺の言葉に青が嫌な顔をする。
「真冬はアホじゃないよ。普通に話してるだけだし」
「はぁ……。ありがとう。まあ、それ以上に俺は青が変なのに引っかかるんじゃないかと心配だよ」
外人がよくやるように肩をすくめると、青が笑顔になる。
コロコロと表情変わるねぇ。
「大丈夫! 私を口説くような変人いないから!」
ドヤ顔の青が胸を張ってタバコの灰を落とす。
一緒に火種が落ちていく。
「ああ! 私のタバコが!」
「おいおい、まだまだ下手やな。ちなみに、青は可愛いぞ」
「まだ3日目! 仕方ないよ!」
俺の褒め言葉は華麗にスルーですかい。
自分が褒められることに関してスルースキル高いな。
「まあ、俺も最初の頃はそんなもんだったし、なんなら今でも火種落とすよ、俺も」
「やーい! 下手くそー!」
なんだか腹たつな。
タバコに口つけて誤魔化す。
一瞬会話が途切れたところに、中庭の扉が開く。
「あ! いたいた! まだ吸ってたのかよ! 真冬、そろそろ始まるぞ!」
「あ? もうそんな時間!? ちょっと待ってろ秀樹!」
「もういっちゃうの?」
「すまん青、ちょい行ってくるわ」
「私も見に行こうかな!」
タバコを消した青が俺のすぐそばに寄ってくる。
ちっか! いい匂いする……。
ごまかしつつ秀樹の方へ歩く。
「あれ? 青もくるの?」
「うん、真冬のふざけてるところを見ようかなって」
喫煙歴4年目と3日目のヤニカス共、喫煙所から一時撤退。
地味にいい雰囲気になったのは童貞野郎の勘違いなのかな……?
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