悪夢
@Q-R1
第1話
人は寝静まり、外灯に照らされた街道もだいぶ落ち着いた頃、男は目を瞑ってさあ寝ようというところだった。
しかしここ2、3日、男はどうにも眠れぬ日が続いている。そして、この日も例外ではなかった。
暫くすると、心臓の少し下の部分に鈍く光る鉛を詰められたような、いつもの息苦しさを感じた。
今夜も、眠れないか
そう思い男は、諦めて目を開けた。左の窓からは微かに月光が差し込んでいるが、今にも消え入りそうで、心許ない。
それで、夜目の効かぬまま、天井を見上げていた。
ふと、天井に何か光るものがあるのに気づいた。それは、二つ並んでいるが、朧げでどうにも見えない。
私はそれらの奇妙な光を五分ほど、一度も目を閉じることなく、見つめていた。
ようやく視界の輪郭がはっきりしてきたころ、ようやくその二つの光がなんなのかはっきりした。
それは、私の眼球だった。黒く黒く染まった漆黒の双眸が艶と輝いている。私そっくりの私が、天井に張り付いているのだ。
あれは、私だ。
自分そっくりの体格、自分とよく似た髪型、自分が20年ほどの人生で幾度となく見てきた、自分自身だった。けれどその表情は、私も知らない、頬に端から端を縦断する鋭利で滑らかな切れ込みを湛えていた。
私は、そんな得体の知れないものと見つめ合っていたことに気づくと急に恐ろしくなり、目を硬く閉じた。
かなり長い間、目を開けることは躊躇われた。
けれど、天井に人が張り付いているという気味の悪い状況に、私の眠りはますます遠のいて行った。
一応、もう一度確認したほうがいいのではないか。
さっきのは実は何かの見間違いで、いらぬ心配をしているのかもしれない。何より好奇心に勝てず、私は再び目を開いた。
天井には、無数の私が、びっしりと張り付いていた。テラテラと光る眼光が、星のように輝いているが、その様子はどうも外灯にたかる虫のようだった。
私は両眼を開たまま動けず、冷や汗が幾筋か頬を伝った。どれくらいそうしていたか、よく覚えていない。
瞼を透過した白日が、視神経を鋭く刺した。
体は、私だけ住んでいる星が違うんじゃないかと疑いたくなるほどずっしりと重い。そんな体をなんとかぐるりと回って、窓からさす日の光から逃れる。
今度は鮮明な光景で、見間違いも見逃すということもなかった。
天井にはまだ、私がいた。
悪夢 @Q-R1
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