第11話 バール、古代遺跡に潜る
「こっちじゃ」
翌日、日が昇った頃に目を覚ました俺達はデクスローの案内でエルフェリアを歩いていた。
「朝のエルフェリアもきれいだね」
昨日しこたま飲んできっと二日酔いになるだろうと思っていたが、ロニはそんな様子もなくしゃきっとしている。
……また、二日酔いを直すのに<
まったく、神の奇跡を気軽に便利に使うものだ。
「ミスメラは来ないの?」
「あの娘はここへの案内人だったのでな。それに、『ガデス』はエルフにとって忌まわしき場所……とても連れていくことはできぬ」
三角帽をから目だけをのぞかせて、そう告げるデクスロー。
本当にこの魔術師は……何を知っているんだろうか。
「よし、まだ崩れずにあるのう」
「なんだ、これ……」
いや、見たことはある。
見たことはあるが、エルフの都に在るには異質すぎるものだ。
真っ白で巨大な石でできた、何か。
各地でまれに見つかる、
この自然と調和したエルフェリアでは、異質すぎて不穏さすらある。
「
「一般的なそれとは違うがの。なに、大丈夫じゃ。これは、道を管理する施設だからの」
「道……?」
質問には答えず、何食わぬ顔でデクスローが入っていく。
こちらは緊張しているというのに、どうにも気軽すぎる。
「いこ、バール。デクスローさんが大丈夫って言うなら大丈夫だよ」
「あ、ああ。そうだな。だが、念の為に俺のそばを離れるなよ」
「わかった」
遺跡の内部は巨大な円筒状をした巨大な地下空洞だった。
底は見えないが壁に沿って階段が設けられている。
「<
「わたしも<
デクスローとロニが揃って杖に魔法の灯りをともす。
俺は松明に火をつけておいた。
「準備がいいのう」
「魔法の灯りだけだと危ない時があるからな」
松明やランタン、それに魔法の灯りなどなど。暗闇を照らす方法として有効だが、どれも一長一短がある。
重要なのは、二つ以上の手段を使うことだ。
例えば、魔法の灯りは水にぬれたりしても消えはしないが、魔力の干渉波で容易に打ち消されてしまう。
逆に松明は水に浸かれば消えてしまうが、そのまま殴りつけることもできれば、魔法の力が弱まる場所でも使える。
要は、一つの手段に頼りすぎることは危険だということだ。
「デクスローさん。ここは何なの?」
「ここも『ガデス』の一部じゃ。ここを使って『ヘグミナの谷』を超える」
「地下を通るのか?」
「似たようなもんじゃ」
またもはぐらかされた。
まったく、魔術師ってやつは。
どうせ詰めたって教えちゃくれないのだからと自分を納得させて階段を下りる。
大空洞の底は、明かりで照らしても全く見えなかった。
もしかして、これで谷の底まで降りるんじゃないだろうな……?
「よし、少し休憩としよう」
踊り場のようになっている場所でデクスローが立ち止まる。
「一体どこまで下るんだ……」
「ここで三分の一といったところじゃな」
変わらぬ景色で時間の感覚は些かズレてるとは思うが、かれこれ一時間は階段を下っている。
本当に谷の底まで行ってしまいそうだ。
「ね、バール。扉がある」
ロニが魔法の明かりで壁を照らすと、確かに扉のようなものが見えた。
何か文字が書いてあるが、俺ではわからない。
「神代文字に似てる、かな……? えーっと、『ら、とりー。え。21』かな、掠れてるしよくわからない」
「驚いた。ロニ殿はそれが読めるのじゃな」
「サルヴァン様に教えてもらったの。旧い書物を読むのに必要だったから」
「それだけ読めれば大したものじゃよ。ここはの、『
デクスローが、そっと扉を撫でる。
その顔には、何とも言えない表情が浮かんでいる。
憎悪か、哀愁か。
「エルフを研究していたのか?」
「そうじゃ。人の命を永遠にするためのおぞましい研究をしておったのよ」
「……は?」
人の命を永遠に?
そんな事が可能なのか?
「エルフェリア……いや『トラヴィの森』は、元はエルフを
「……そんな、ひどい」
研究室のそばで新鮮な実験材料を確保するために……例えるなら生け簀みたいな感覚で、森を作ったってのか?
人間のすることとは思えない。
「……それで、ガデスはエルフにとって忌地なのか」
「然り。その時代を覚えておるエルフとている。自分たちが実験材料じゃった頃をの」
「どうしてエルフたちはここを離れない?」
「ミスメラが言っておったろ? 怖いからじゃよ。人が再びこれを手にしてしまうかもしれぬと思えば、離れる事は出来ぬ。見張って、隠して、遠ざける。その為に彼らはエルフェリアを作りこの地に残っておるのじゃ」
いまだに、縛られているという事か。
「さて、聞きたいこともあるじゃろうが、足を動かすとしよう。目的地はまだ遠いのでな」
「すまない、デクスロー。俺はあんたに嫌なことを思い出させたみたいだ」
俺の言葉に、驚いた顔をするデクスロー。
「顔に出ておったかの?」
「少しな。興味本位で聞いちまったが、悪い事をした」
「わたしも。ごめんね、デクスローさん」
二人して、小さく頭を下げると、デクスローは俺達に優しげな目を向けて小さく笑った。
「お主らにも関係あることゆえ、気にすることではない。知識など、伝えねば宝の持ち腐れだからの。さぁ、行こう。聞きたいことは何でも尋ねておくれ」
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