第50話 バール、ぶっこ抜く
『
かつて
だが、俺は『楔』を感じ取ることができた。
この世ならざる死の存在、不死者……その王たる
言うなれば、命。
死したモノの命とは……などと哲学的で難しいことを考えるつもりはない。
やることは一つだ。
「──ぶっこ抜くッ!」
「ふんッ!」
「…… ……! ──……」
表情のないしゃれこうべが声ならぬ声を上げ、音もなく崩れ去っていく。
まるで最初から存在しなかったかのように。
そして、それは周囲の
すべて崩れてチリになり、風に舞って消えた。
それと同時に空が晴れた。
「ふぅー……」
ゆっくりと大きく息を吐きだし、自分を取り戻していく。
やはりあの能力を使おうと思えば、自分の多くを『
あのバカげた凶悪な能力は『
ちりちりと身体の奥底で残り火のようにちらつく『狂化』の残渣を抑え込みながら、俺はその場に倒れ込む。青空が目に痛い。
今回は暴走しなかった……及第点だな。
しかし、ひどく疲れた。
帰ってロニを抱きたい。
きっとその前に説教だろうけど……。
──とりあえずは、終わった。
「バール。起きた? 大丈夫?」
一瞬だけ、まばたきの様に目を閉じただけのつもりだったが、気がつくと周囲は夕日に照らされていた。
「あれ、俺……」
「バールさん、ぶっ倒れたんスよ」
「くそ、マジか」
ガタガタと揺れる馬車の上、大変寝心地のいいロニの膝枕から体を起こす。
「もう、無理リちゃダメって、約束したでしょ」
「今回はうまくいったと思ったんだがな」
そう言い訳をしつつ、立てかけられた金梃を見る。
やはり、紋様はもう消えていて、ただの金梃にしか見えない。
「しかし、【戦士】バール。
「よしてくれ。あいつがロニを狙ってたんで頭に来ちまっただけだ。みんなを危険にさらしてすまなかった」
頭を下げる。
それに、全員が苦笑した。
「あんときバールさんがいなかったら、みんなきっと死んでたッス」
「然り。儂らは皆助けられたというわけじゃ」
双子司祭も騎士たちも俺に頷いて応える。
「かっこ/よかった」
「む、ダメです。これはわたしのです」
双子姉妹に舌を出すロニを抱き寄せて、頭に顎を乗せる。
「あー、ロニだ……」
「もう、バール。あんまり心配させないで?」
「すまない。いろいろ考えてたらさ……面倒だから
「おかげで、みんなにアレの事がばれちゃってるよ」
しくじった。
「そうな。この金梃……一体何なのじゃ? それにバールよ、お主【戦士】と言うには様相が違い過ぎるのう」
「ここだけの話にしてくれるか?」
俺の言葉に頷いて応える五人。
「クライスには話してるが、それちょっと変わった
「ま、武器として使ってはいたッスね」
「んで、あれ使ってたら、ジョブ変異したんだ。今の俺のジョブは【狂戦士】だ」
俺の言葉に、ピクリとデクスローが反応した。
「……と、いうことはバール。お主が今代の〝勇者〟ということかの」
思わず、毛が粟立つ。
たったこれだけの情報で、この【魔法使い】はどうしてそこにたどり着けたのか。
「ああ、すまぬ……年寄りの戯言じゃ。かつて、儂の友が言っておってな。曰く〝勇者〟は役割にすぎぬ、と。その役割に相応しい力を持った聖剣が、相応しい者に、相応しい
なんだか、そんなことを言いそうな奴を一人知ってるぞ。
「今では教主などという偉そうなことをしておるバカじゃがな」
「くそ、やっぱりサルヴァン師か……!」
俺のぼやきに、デクスローが
あの生臭教主の知り合いと言ったら、みんなどうしてこう濃い面々なんだ……。
「でも、バール。それは正しいのかもしれない」
ロニが、金梃を取って俺に手渡す。
「これは特別だもの。バールにしか使えないし、バールだから使える。きっと、鈍器が好きな〝勇者〟バールに、聖剣が合わせてくれたんじゃないかな」
「それにしては、禍々しすぎるだろ」
「バールに合わせたんじゃない?」
クスクスと笑うロニ。
それにつられてか、周囲も笑顔に染まる。
「悪いけど、これの事は他言無用に頼む。そもそも俺が〝勇者〟なんて誰も思わないだろうけど」
「そうッスか? おれはバールさんの背中に〝勇者〟感じましたけどね?」
「おだてたって俺のポーチから金貨は出ないぞ、ダッカス」
そんなやり取りをしつつ、俺達はフィニスへと戻った。
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