追放戦士のバール無双〝SIMPLE殴打2000〟~狂化スキルで成り上がるバールのバールによるバールのための英雄譚~
右薙 光介@ラノベ作家
第1話 バール、追放される
「……と、いうわけでですね、あなたにはパーティを抜けていただきます」
拠点の朝食のパンを食む俺に、パーティの参謀をしている【賢者】がそう切り出した。
「どういうわけだ?」
食堂で向かい合った男は、眼鏡を押し上げながらうすら笑みを浮かべている。
前々から気に入らないとは思っていたが、やはり気に入らない。
「戦力外通告と申しますか、パーティ補強のための苦渋の決断と言いますか……本日をもってあなたにはこの『パルチザン』から脱退となります」
こいつの中で、それはすでに決定事項であるらしい。
「そんなバカな話があるか!」
「バカな話ではありません。国選冒険者である私が熟考を重ねて判断した、より良い方向性ですよ」
「『パルチザン』は俺のパーティだぞ!?」
「いいえ、あなたのパーティではありません。勇者リードが率いる国選パーティです」
キザったらしく小さく指を振る男。
いちいち小馬鹿にしないとまともに話も出来ないのか?
「他のメンバーは?」
「もちろん、すでに了承を得ています。無用のストレスを受けないよう、通告は私一人でということになりました」
「……リードも了承したのか?」
「ええ」
男の肯定に打ちのめされる。
あいつだけは、と思っていた。
リード──リードリオン。
俺の所属するパーティ『パルチザン』のリーダーにして、同郷の幼馴染。
今、最も〝勇者〟の称号に近い男。
そして、親友……のはずだ。
「あなたの代わりに凄腕の【魔法戦士】が編入される予定になっています」
「それはいつの話なんだ?」
「もう登録はされていますよ。昨日、あなたのメンバー登録は抹消しましたので」
「なんだって!?」
パーティメンバーの登録や脱退は死亡でもない限りは、普通リーダーとメンバー双方の了承があって行われるものだ。
例外として、リーダーとメンバーの半数、それに冒険者ギルドの意見の一致があれば、特定のメンバーを
だが、これは大きな問題を起こしたメンバーに対して行われるべきもので、いわば内部的な断罪行為だ。
そう簡単に行われるべき処分ではない。
「……どういうことだ?」
「いつまでも私の忠告に従わなかったからですよ」
「なに……ッ!」
数年前、俺はさびれた田舎の故郷から、リードと二人でこの冒険都市に出てきて冒険者になった。
冒険者ギルドに登録する際の『ジョブ適正判定』で俺に示されたのは、【戦士】。
そして、リードは希少な才能を示す【パラディン】だった。
たった二人でパーティ『パルチザン』を結成した俺達は、仲間を増やしながら数々の依頼をこなし、ダンジョンをいくつも突破した。
そうして着実に『
順風満帆……そんな言葉がふさわしいパーティだった。
そんな俺達に、人員を提供したいと国からの打診で加わったのが、コイツ……マーガナスだ。
宮廷魔術師団にも身を置いたことがある凄腕の【賢者】。
当初は国に認められ、頼れる仲間を得たと無邪気に喜んでいたのだが、とんだ食わせ者だった。
こいつが来てから、『パルチザン』は自由ではなくなってしまった。
国益や名声の為だけに特定のクエストを請けおうことが多くなり、リードは『国選勇者』などと周囲に持ち上げられて増長するようになった。
もちろん、それに異を唱えたメンバーもいたが、今はパーティにいない。
愛想をつかして出て行ってしまったのだ。
そしてある時を境に、俺にも「パーティを抜けるように」と何度かマーガナスから勧告がなされるようになった。
正式な国選パーティとするためにメンバーの補強が必要だと説明されたが、『パルチザン』は俺とリードで作ったパーティだ。
そう簡単な話ではない。
「あなたの戦い方は勇者パーティとして相応しくない」
「戦いに綺麗も汚いもあるか! 自分と仲間の命がかかってんだぞ!」
「だからあなたはダメなんですよ。これからはそこも意識しないと。何せ、リードは〝勇者〟になるのですから」
激昂する俺を鼻で笑うマーガナス。
確かに、俺は力にまかせた荒い戦い方をする人間だ。
格式ばった剣よりも、斧や棍棒など、丈夫さと破壊力を優先した得物を好むし、時には投石などのスマートとは言いがたい手も使う。
だが、あたりまえのことだ。
危険な相手と命のやり取りをしているのに、そんなところに拘る余裕などない。
負ければ死ぬのだ。
「ああ、モルクさんはすでにご承諾いただいていますよ?」
「まさか、モルクまで?」
モルクは以前パーティに居た【司祭】が抜けてから、パーティに加入した古株の【僧侶】だ。
パーティで回復役をこなすモルクを脱退させて、今後どうするつもりなんだ、こいつは。
「……ご自身の身の振り方を心配された方がいいのでは?」
眼鏡をくいっと押し上げて、マーガナスが口角をあげる。
何もかも思い通りにいってご満悦ってところか。
「リードと話をさせろ!」
「そんなにがならなくても、もう居るよ」
背後の声に振り向くと、整えられた赤髪の優男が不機嫌そうな顔で立っていた。
「リード。どういうことだ!?」
「うるさいな。お前はそうやって声を荒げれば問題を解決できると思っていないか?」
面倒くさそうに、リードが俺を見つめる。
「お前とはここまでってことだよ。僕は〝勇者〟になるんだ。もうアルメッチの片田舎から出てきた一介の冒険者じゃない。国と民衆の期待に応えなきゃならない立場なんだよ」
共にやって来た幼馴染は、もう〝勇者〟になったつもりのような傲慢な口ぶりだ。
どんなに取り繕たって、俺と同じ田舎者なのは変わるまいに。
「リード!」
「もう僕に構わないでくれるかな? お前がいると僕が泥臭いアルメッチの出身だってバレるだろ? 評判に傷がつく。ハッキリ言っておくけど、僕はお前が大嫌いだった。ずっとね。これでようやく縁が切れると思うと、清々するよ」
「なん……ッ!?」
怒る俺を一瞥したリードはそれだけを言って、その場を去っていく。
「くそったれ! ……なんだってんだ」
「去ることで『勇者リード』の役に立てるんです。その内、自慢話に出来るかもしれませんよ? くくく」
パーティを、しかも自分で結成したパーティを後から来た奴に追い出されて自慢できる奴なんていない。
そもそも、『勇者リード』の誕生にこだわっているのは、この男の方だろう。
国選の冒険者と言えば聞こえがいいが、早い話が幾人もいる『勇者候補』のプロデューサーの一人なのだ、コイツは。
「話は終わりです。では、さようなら……【戦士】バール。もう、会うこともないでしょう」
「……」
追い払われるようにして、俺は住み慣れた『パルチザン』の拠点を後にした。
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