第7話 ☆ミョルニル☆

 

 神器はそれぞれで存在している。


 地に眠るもの。気に紛れるもの。海にたゆたうもの。熱にまどろむもの。実に様々だ。

 何故現代に出て来ないかは扱える者が存在しないから。ただそれだけである。


 ミョルニルは地球と共に滅するまでまた働く事は無いと思っていた。



『ミョルニル……まだ、いいですか?』



 あの日以来、月面に横たわるミョルニルに頻繁に声が掛かる。


 『今代の月』は地球の少年に月子と名付けられた。

 名付けた少年、コータによれば『メッチャカワイイ』らしい。

 人や神の美醜が分からないミョルニルには理解できない事ではあるが、思い合う事は何かがいい。


 ―――是。


『……ありがとうございます……!』



 寂しくて寂しくて 分かっていても寂しくて


 それもミョルニルにはよく分からない事だが、地球と月が双子星だった頃から存在していたミョルニルには、その惹かれる思いを否定する理由もなかった。


 確かに思い起こせば、オーディンから離れた時は少し寂しい思いだった気がする。

 だが己は道具であって、其処に在るだけ。



 助けて


 久しぶりに聞こえた叫びに応えた。声の主は自分を使える者。



 助けたい


 使う者の思いが己の隅々まで宿り、それはとても心地が好い。



 コータに使われるのは清々しいものだった。少年の真っ直ぐな思いは心地好い。誰かが誰かを思う気配はあたたかい。

 ミョルニルから見ればコータは殻を破ったばかりの雛のようだったが、その思いは大きくも真っ直ぐで。


 月が地球をコータに置き換え、そして惹かれて行くのも分かる気がした。


 だから月子に行けと伝えた。

 コータなら月子に寂しい思いはさせないだろう。

 寂しいと、泣き続けた涙が凍るほどの、その月の心を地球は癒してくれるだろう。


 月子の気が済むまでと期間を設定した。それに気を揉んだ月子に、ミョルニルが飽きるまでという条件も付け足した。


 だが、どうやら月子はミョルニルが月にひとつ残っている事で寂しく思うと考えているらしい。頻繁に「寂しくないか、まだ地球にいていいか」と聞いて来る。


 ミョルニルは月子に呼び出されるまで地球にいたが、実は故郷というのは月である。

 月は月と呼ばれる遥かな昔は神々の地であり、神代と呼ばれる時代でもあった。

 神もろとも星に翻弄された訳だが、それについても特に思う事も無い。このままずっと月に居ても、ミョルニルは何も構わないのである。


 地球の匂いを纏うミョルニルは現在月にすがられてはいるが、月子が地球で思う存分過ごし戻って来る頃には落ち着くだろう。


 月が月子なら、月子が満足すれば問題は無くなる。


 月子が心配することは何も無いのだ。


 だが。



『よう、ミョルニル元気かー? 月子とばっかり喋ってんじゃねーよコノヤロウ!』



 コータが地球での生を全うした後は、その魂を月に呼ぶのもいいかもしれない。


 二人のいる日本を月から眺めながら、ミョルニルはそんな事を考えていた。







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