ネカマの鈴屋さん【コミカライズ版ニコニコ漫画で連載中】

Ni:(にぃ)

鈴屋さんとっ!

第1話 鈴屋さんと2人ボッチ!

 目が覚めたら、そこは見慣れた墓地だった。

 隣にはうら若きエルフ少女が、こちらをじっと見つめている。


「……うん………この状況は…アレだな……」


 俺は顎に手を当てながら、即座に現状を理解した。こちとら伊達にラノベやアニメを嗜んではいない。


 まわりをぐるりと見回してみる。やはり俺にとって馴染み深い異世界ファンタジーだ。

 そして見覚えがありすぎるこの町並み。

 こいつは異世界転生系ってやつだ。それもプレイしてたゲームの中にっていうパターンだろう。

 …そもそもゲーム画面を睨んでいた俺が、なぜここにいるのか…


「たしか………パーティが全滅して………」


 そうだ。ゲーム中にパーティが全滅したのだ。それから蘇生アイテムをケチって、ホームタウンの墓場に死に帰りをしたところまでは記憶にある。

 その後は、なんかふわっと意識が薄れて…今に至るわけだ。


「武器は……あるな…」


 両の手を確認するように見たあと、自分の体に視線を移す。

 黒ずくめの服に愛用のダガー。これもゲーム内では見慣れた装備だ。ただしこれが俺の使っていた超レア武器、テレポートダガー+5なのかどうかまでは分からないが。


「ステータスウィンドウもないし、確認のしようがないな」


 …さてこの場合、ラノベやアニメの主人公はどうしてた?

 まずは現場の把握と、帰るための手段の考察、ここに来た目的探し…そのあたりが定石だろう。

 まぁいずれにしろ、ラノベで得た知識がマニュアルとなって、何をすべきかは、なんとなく分かるんだよな。

 そこで俺を見つめるエルフ少女の存在を思い出す。


「なぁ、鈴屋さん…?」

 鈴屋と呼ばれたエルフ少女が、透き通るような水色のロングヘアーをさらさらと揺らしながら振り返る。

「なぁに、あー君」

 鈴屋さんは屈託のない…みるからに清廉潔白な…曇りひとつ無い…純粋無垢な…とにかく一切の邪気を感じさせない完璧なまでの聖女の笑顔を見せていた。


 …あぁ、かわいい…それも知っている。

 鈴屋さんは俺のパーティメンバーだ。

 キャラクター名がSUZUYAで、プレイヤー本名も鈴屋らしい。

 ちなみに俺はウケ狙いで「ああああ」とつけたから「あー君」と呼ばれている。


「これってさ…」

「いいの、あー君。私もだいたい把握したつもり」

「おぅ~~さすが鈴屋さん、話が早いね。みんなもいるのかな?」

 みんなとは他のパーティメンバーのことだった。

 死に戻りは所属国で最後に立ち寄った街の中にある墓地に飛ばされる。

 鈴屋さんと俺はたまたまこの街に立ち寄ってから遺跡に向かったのだが、他のメンバーは王都から遺跡に来ていた。

 ゲームルールから鑑みれば彼らが死に戻りをした場合、王都に飛ばされるはずだ。

 …もちろん、この世界に来ていればの話だけど…


「まいったな、とりあえず装備と金はあるけど、ここがあの世界と同じなのか確認しなきゃいけないよな。戦闘のしかたとかも…さ」

「……あー君さぁ、順応するの早すぎだよー。わたしけっこう怖いんだからね?」

 鈴屋さんが、いかにも不安だという表情を見せてくる。

 ついでに言うと、すごく可愛らしい。ふつうの男なら今ので1回惚れているだろうよ。

「相変わらずだなぁ、鈴屋さん」

 まったく。「こわいんだからね?」じゃないぜ。

 俺だけは知っているんだ。

 いや、正確には鈴屋さん本人に聞かされたんだ。鈴屋さんはネカマなのだと。


 ファンタジー系オンラインにおいてネカマプレイは有効な手段だ。

 ただ女性キャラってだけでレアなアイテムを貢いでくれたり、難解で面倒なクエを手伝ってくれる男は山ほどいる。

 そして鈴屋さんの演技は完璧だ。

 実際にその神がかった演技で、苦も無く次々とレアアイテムを入手していったのだから、隣で見ていて何度羨ましいと思ったことだろう。


 ちなみに俺は「鈴屋さんはリアルで知り合いの女」という嘘をついて詐欺の片棒を担いでいた。もちろん実際に会ったことなんてない。

 …まぁそのおかげで、俺もレアアイテムのオコボレをもらっていたわけだし…なんだかんだで俺と鈴屋さんは仲がよかったりする。


「あー君、まずはここが本当にあのゲーム世界なのか、それを確認するための情報収集しようよ。とりあえず碧の月亭にでも行かない?」

 鈴屋さんが至極まっとうなことを言う。

「んだなぁ……」

 顎をさすりながら小さく頷いてみせる。反対する理由もないし、鈴屋さんと一緒なら手慣れたネカマプレイで情報からアイテムまで容易に手に入るはずだ。まずはそこからだろう。

 …にしても…と、鈴屋さんをまじまじと見つめる。

「……なぁに、あー君、なんか身の危険を感じるような視線なんですけど……」

「…いや、鈴屋さん、ゲームのまんまなんだなぁと思って……」

「……あー君は、ゲームと同じでぱっとしない顔だよね。だからあれほどキャラメイクし直すの勧めたのに。キャラメイクは大事だよー。ゲームでも結局見た目だもん」

 そりゃぁ、こんなことになるなら…と、今となってはあの時の俺を呪うことしかできない。

 とにかく今は鈴屋さんのネカマプレイにすがるしかないようだ。

「ほら、行こうよ。あー君」

 俺は無言のまま頷き、碧の月亭に向かうことにした。

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