エピローグ 恋と愛の違い

 アイレさんと見知らぬ少女は王立グレイウェグ図書館へと歩いて行きます。

 イースターと呼ばれる祭事に向けて盛り上がる街中は、エッグハントやエッグレースをする子供達に溢れ、イースターエッグを作る人たちが見受けられます。

 雑貨屋さんにはイースターエッグとイースターバニーが売り出され、街中はイースター一色でした。

 少女はそんな中で首から鎖の紋章――《奴隷の証》を付けた人を見て、目を細めていました。

 どう言った関係なのか分かりませんが、色々あるようです。

 そんな中をアイレさんと少女が歩き、隣にはブランの姿もありました。

 アイレさんが図書館に着くと警備員が話し掛けてきます。


「アイレ・ウェランさんですか?」


「そうだが?」


「お荷物をお預かりしています」


 アイレさんは胡乱な表情を見せています。

 隣にいる少女は状況が理解出来てないみたいです。

 少女は不思議そうに紙を覗き込みました。


「何もらったの? うん? 賢者フールの古書? 何この分厚い本?」


「正確には原本から模写した紙だな、これは」


「――えっ? 誰かが丸写ししたってこと?」


「そういうことだ」


――驚いた顔をしてくれましたね。それは良かったです。


「……帰るぞ」


「っえ⁉︎ 図書館入るんじゃなかったの⁇ 私、夢幻図書館堪能しようと思ってたのに〜」


 駄駄を捏ねる少女にアイレさんはジト目を送ります。


「何よその顔は?」


「……別に。とにかく帰るぞ。欲しい文献は手に入れたからな」


 アイレさんは少女を置いていくように歩き出しました。

 置いていかれると思ったのか、少女は走り出します。

 しかし、アイレさんが急に止まったので背中に飛び込む形になってしまいました。


「いっったぁ〜〜。なんで止まるのよ!」


 少女が抗議していますが、アイレさんは無視です。

 流石と言うべきでしょうか。


「警備員。これは誰からだ?」


「《あなたのフィアンセ》からだそうですよ」


 警備員はわたくしが伝えた通り、彼らに話してくれているようです。

 話を聞いた少女が、あからさまに馬鹿にする態度を取ります。


「なになに、アイレって婚約者いたの? こんな無愛想なのに」


「……身に覚えはないな」


 アイレさんは図書館の二階に顔を上げました。

 わたくしのスカイブルーの瞳と眼鏡の奥から覗くオッドアイの瞳が交差します。


――相変わらず意地悪ですね。見つけることないじゃないですか。


 ひと月ぶりくらいに顔を合わせたと言うのに。

 その真っ直ぐな瞳だけで伝わってきます。


――礼なんていりません。わたくしはあなたから沢山大事な物を貰いましたから。


 数秒見た後、アイレさんは再び踵を返し、歩き出しました。

 今度は振り返ることなく。

 自分より若い青年、いいえ、中身を知ると少年ですかね。


「ちょっとどう言うこと? なんで笑ってるの?」


「さぁな」


 公園内に伸びる並木道をゆっくりと歩いていく二人と一匹。

 わたくしは、頬杖を付き、柔和に微笑みます。


――あなたはこれからどこを旅するのでしょうね。


 もうアイレさんの姿を見て、一喜一憂している自分はいませんでした。

 恋をしている自分は、もう卒業してしまいましたから。


――あなたは、一体どこまで見えているでしょう。


 わたくしは頭を振りました。


――いいえ、どこまで見通して、目的を達成しようとしているでしょうね。


 わたくしは朗らかに笑みを溢して、空いた手を虚空へと伸ばします。

 二人に向かって伸ばした手は当然届く訳もありません。

 わたくしは、失笑しました。

 伸ばしていた手をそのまま窓へと掛けます。


「あなたの夢を応援しています。この国からずっと」


 恋は自分のためで。

 そして、恋は落ちるもの。


 わたくしは短い間で恋を卒業してしまいました。


 恋とは違い、愛は人のためだからこそ。

 

――あなたの旅が幸運に恵まれますように。


 わたくしは二人の旅人と一匹の狐を一瞥した後、窓を閉じました。

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【短編】恋の魔法にかけられて 雪華シオン❄️🌸 @hosiuminagi1234

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