朝の日課 ② (起床困難)
《12年前 高校3年生 某日》
「やばっ!!いってきまーーーすっ!!」
あたしは、ヘアピンと菓子パンを口に咥え、薄く茶色に染めた肩より少し下まである髪を後ろで簡単に纏めると、いつもどおり家を出遅れ自転車に乗り駅まで全力で突っ走る。
少々制服が乱れていようと、お構いなし。
今は周りの目なんて気にしてられない。
07:34発
この電車に間に合わなければ遅刻は確定なのだ。
やってくる電車を横目に連絡通路をひたすら走る。
息を切らしながら階段を一段飛ばしで駆け下り、なんとか電車に滑り込めた。
「おはよっ!咲希!!
しかし、あんたよく朝っぱらから毎日走れるよねぇ!!」
肩で息をしているあたしに笑いながら話しかけてきたのは、中学生からの友人
『
私立高校に通っている彼女は、あたしとは違いセーラー服ではなくブレザーだ。
髪は肩までは伸ばしているが、校則が厳しいらしく髪を染める事は出来ないらしい。
その分スカートはかなり短い。
せめてもの学校への反発なのかなぁ。いや、ただのお洒落か。
「はぁ~~。はぁ~。ゴホッ!ゴホッ!
べつ⋯⋯別に、好きで走ってる訳じゃないって!!」
彼女とはたまたま電車に乗る時間が一緒だったので毎日、顔を合わせている。
降りる駅までのわずかな時間だけど、昨日あったことなど、他愛ない話をしている
たまに、ギリギリ間に合わず目の前でドアを閉められる事もあり、果歩に手を振られることもあるが⋯⋯。
ガタン!ガタン!⋯⋯プシューーーッ!!
「じゃ~~ねぇ!! また、明日!!」
「うん!バイバイ!!」
あたしより一つ前の駅で降りて行く果歩を見送り一人になる。
心地よい疲れが全身を包み込み、そのまま手すりにもたれ掛かり立ったまま寝てしまう。
ただし、寝るといっても仮眠ではない⋯⋯。熟睡だったりする。
首がガクンと下に落ちるたびに、薄目は開くもののすぐに寝てしまう。
当時、今ほど携帯電話も普及しておらず、カメラなんてまだ付いていなかった時代で良かったと思う。
今の時代だったら、きっと盗撮され放題だったことだろう。
このことを、学校に着き教室で友達に話したこともあったが、みんな決まって不思議がる。
「よく立ったまま寝れるよねぇ~!!」
「ただ、目を閉じてるだけじゃないんでしょ?? 爆睡とかマジありえねぇ~!!(笑)」
「痴漢されてても気づかないんじゃない??」
「ある意味、それ特技だよぉ~!!(笑)」
あたしからしてみれば、みんなの方が不思議だった!
(⋯⋯別に、寝るつもりで寝てる訳じゃないんだけど⋯⋯。
なんで、みんな寝ないんだろう??)
気づけば高校生活も1年が過ぎ、授業にたいして段々やる気もなくなってきていた。
遅刻してくるなんて当たり前!!
授業中音楽を聴いているのは当たり前!!
スマホがまだ無かった時代とはいえ、ガラケーでメールを送り合うのも当たり前。
トランプをするのも当たり前!!
漫画を堂々と読むのも当たり前!!
教室をうろついてみたり、途中で帰る者もいた!!
寝るのなんて当然当たり前!!!
こんなクラス(おバカなクラス)にいればやる気なんて起こるわけもない。
まぁ、あたしもこの時、授業途中で帰るって事以外のことはしていたわけだけど⋯⋯。
そのなかでも、一番していたのは
『寝る』
夏の暑い時期は保冷剤を持ってきて、タオルで包み寝る気満々におやすみしてやったことも何度かある。
しかし、いくら気持ち良いとはいえ、一度船を漕ぎ出すとなかなか止まれないみたいだ。どこまで行くのか自分でも分からない。遠洋漁業でもするつもりかよ、あたし。
朝から眠い時は、1限目が始まる前から机で寝ている。
ふと気が付くと3限目だったりする。
「ふぁ~~~。 あれ?? ねぇ! 何で科学の
1限目、英語じゃなかった?? 変更??」
と、隣の席の友人 “
「はぁ~?? あんたマジで言ってんの??」
「なにが??」
「⋯⋯今、3限目なんだけど⋯⋯⋯⋯。」
(えっ??)
あわてて、教室の時計を見てみる。
(げっ!!11時⋯⋯過ぎてんじゃん⋯⋯。)
「あたし⋯⋯ひょっとして、ず~~~っと寝てたぁ??」
すると、後ろにいる “
「ひょっとしなくても、寝てたよ!!(笑) 何度も起こしたんだけど「ん~~~。」って、言うだけで全然起きないんだもん⋯⋯」
「ごめ~ん! あっ! ってことは、「起立!礼!」の時も⋯⋯」
「当然!!(笑)」
「もちろん!!(笑)」
二人同時に言わなくても⋯⋯
「
「言うも何も、直接起こしにきたって!けど、まったく駄目で結局 「部活で疲れてんだろう。」 ってことであんた放置されたに!!」
「あっ⋯⋯そうなんだ。」
(っていうか、放置って⋯⋯。)
それで許されるのが、この学校のありがた~く甘いところである。
頭がまだ、ぼ~~~っとするので次の時間(体育)に備えて、ひとまず残りの時間も寝ることにした。
「じゃ~⋯⋯おやすみなさい♪」
⋯⋯。
「まだ、寝るか?? こいつはっ!!」
「はいはい! おやすみぃ♪」
『
あたしと同じ高校のクラスの親友で、綺麗な黒髪を背中までストレートに伸ばしている。
身長は167cmあり、鼻筋の通った小顔で8頭身とまでは言わないがスタイルは良く、#第一印象__・__#は男子ウケも良い。
あたしと恵美をあわせた3人でいつもつるんでいる。
あたし達3人のリーダー的存在。
こんな事言ったらきっと怒られるんだろうけど、見た目の印象とは正反対に口は悪く、目つきは少しきつい。
喋れば喋っただけ損するタイプかな。
性格はガサツ。
とにかく、なにをやらせても雑なのだ。
頭で考えるよりも、先に体が動いてしまうタイプかな。
あたしと同じソフトテニス部所属。(前衛)
あたしの相方でもある。
運動神経はずば抜けているが、勉強は大の苦手。
って、言うより興味がないのかも⋯⋯。
何処と無く、雰囲気は “果歩” に似てるかな。
『
あたしと同じクラスの親友。
髪はショートカットで茶髪の子。っていうか、もう真っ茶っ茶!!
身長151cmと小柄。
あたしと明日香をあわせた3人でいつもつるんでいる。
なんだか、いつも “ふわぁ~~”とした空気を持つ、頭の中お花畑なんじゃないかと思うほど典型的なマイペース型。
この子がいるだけで、なんだか和んだりする。
ただ、なにをやらせてもとろい。どんくさい。おそい。
あたしと同じソフトテニス部所属(前衛)。
しかし、勉強はあたし達といつも一緒にいるくせに成績はなぜかトップクラスなのだ。
⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯。
ガサガサ音がし、ガヤガヤやかましい!!
うっすら目を開けてみると、耳元で声がする。
「ちょっと!! さ~~き!!
はよ起きて!!」
「寝とらんと着替えなっ!!
間に合わんよ!!」
呼んでる⋯⋯??
だれ??
スーーーーッと目が覚めかけると
明日香と恵美の顔が目に飛び込む。
(⋯⋯あっ!!)
「⋯⋯ごめん!!
先、行ってて!!
すぐ着替えて行くから。」
まだ、頭はボーーッとしているが、誰が何のために呼んで、何をしなければいけないのかはわかった。
あたしは、二人を先に行かすと急いで着替える。
(あ~~、もう。
いくら寝てもボ~~ッとするなぁ。
寝すぎなのかなぁ??)
ガタン!!ガタガタガタッ!!
ザラ板のけたたましい音が響き渡る。
チャイムの鳴り出した頃にようやく下駄箱に到着した。
靴も履いてるのか履いていないのかわからないような状態でなんとか間に合ったあたしは、そそくさと列に並ぶ。
あたしは、体育が大好きだった。
陸上、バレーボール、テニス、サッカー、バドミントンなんでもござれ!!
けど、持久走だけは嫌い!!
楽しくないもん。
あたしの学校の体育はテストのとき意外ほとんどが教師が口を出す事はない。
テニスならテニスで、『今日は、テニスをやります。』と言うだけ。
あとは、自分らで勝手に準備して散々暴れるだけ暴れて、チャイムが鳴る少し前にちゃっちゃと片付けて授業(と、呼べるのか?)は終わる。
この時ばかりは、さすがに眠気は吹っ飛んでいる!!
「ねぇ、咲希!
あんた、この時間のために充電しとる感じだよねぇ!!(笑)」
体育の授業が終わり教室へ戻る道中、明日香があたしの肩に腕を回しながら話しかけてくる。
寝ていたことを言っているのだろう。
まぁ、その通りなんだけど。
「まぁね!!
ただ、最近寝ても寝ても眠いし、いつまでもぼ~~っとするんだよねぇ。
あんま、意味ないかも!!」
「ははっ!咲希の場合寝すぎなんだよ!!
寝る子は育つってか??」
その瞬間、あたしの胸を両手でわしづかみし、そのまま逃げていく!!
「ちょっとぉ~~!!」
「まぁまぁ! 減るもんじゃなしっ!!
はよ、ご飯にしよっ!!」
「はいはい。
もぉ~ほんと、親父みたいなことばっか言って⋯⋯」
すぐ後ろからは、独り言のような声が聞こえてくる。
「あ~、ほんと体育にがて~。
つかれた~。
けど、楽しかった~。
それより、お腹すいたなぁ~。」
恵美だった。
なんだかんだ言いながら、いつも気にかけてくれる 明日香。
大人しい雰囲気を持ち、なぜか話してるといつもホッとする、 恵美。
そして、あたし。
見た目の印象はまったく違うこの3人。
先生たちは不思議がったが、
あたしたち3人は、いつも一緒にいた。
夏も始まろうかという1学期の終わりごろ、あたしの居眠り癖はさらに加速していった⋯⋯。
その特徴は、なんと言っても昼間であろうと何時間も眠り続けるということ。
『さ~き~!!おっはよ~~♪♪』
学校に着くと早速 、恵美が話しかけてきた。
朝っぱらであろうと、あいかわらず元気な奴である。
『⋯⋯おはよ~。』
いつもどおりと言えばいつもどおり、朝のあたしのテンションは低い。
あたしは、教室に着くとそのまま机に倒れた。
起床してもう2時間もたつというのに頭の中は寝起きの状態と変わらない。
まったく ”シャキッ” とせず、殆ど何も考えられない。
だるい⋯⋯。
「咲希??
どしたのぉ??
体調悪いのぉ??」
「⋯⋯。」
「恵美!
こいつ、もう寝てるよ!」
「あっ!明日香!!おはよ~~♪
でも、たった数秒前まで起きてたよっ!!」
「咲希は、一瞬で寝れるんだよ。
けど⋯⋯最近ちと寝方がひどいよねぇ。
いくらなんでも早すぎっていうか⋯⋯。」
「⋯⋯うん。
きっと疲れてるんだよ。
毎日遅くまで部活で日曜日とか祝日は朝から夜までバイトだし。
けど⋯⋯大丈夫かなぁ??」
「まぁ、大丈夫だろ??
風邪引いてるわけでもなさそうだし。
寝てるだけっしょ??
ほっとけ!ほっとけぇ~~!!」
何時間たったんだろう⋯⋯。
ガヤガヤ⋯⋯ザワザワ⋯⋯
ガヤガヤ⋯⋯ザワザワ⋯⋯
ガヤガヤ⋯⋯ザワザワ⋯⋯
ガヤガヤ⋯⋯ザワザワ⋯⋯
⋯⋯さき⋯⋯⋯⋯お⋯⋯きた⋯⋯??⋯⋯まだ⋯⋯ねて⋯⋯⋯⋯るよ⋯⋯。⋯⋯すご⋯⋯いね⋯⋯⋯⋯ぇ⋯⋯。
(なんか⋯⋯聴こえる⋯⋯⋯⋯。)
と⋯⋯うみ⋯⋯んし⋯⋯てる⋯⋯⋯⋯みたい。きょ⋯⋯うだ⋯⋯れ⋯⋯か⋯⋯⋯⋯はな⋯⋯した⋯⋯??
(ここ⋯⋯どこだっけ??⋯⋯まっ⋯⋯いっかな⋯⋯??)
ご⋯⋯はん⋯⋯⋯⋯もた⋯⋯べ⋯⋯な⋯⋯い⋯⋯⋯⋯の⋯⋯か⋯⋯⋯⋯なぁ。
(ご⋯⋯は⋯⋯⋯⋯ん⋯⋯??⋯⋯おなか⋯⋯すい⋯⋯た⋯⋯なぁ・。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯ご飯???⋯⋯⋯今⋯⋯)
ガタンッ!!
「いま、何時??!」
「えっ!?」
「うわっ!!」
「げっ!!」
あたしは、声を上げておもわず机から立ち上がっていた。
クラスの子達が驚いている。
「あっ!! さきっ!!
おはよ~~♪」
恵美がいつもの調子で話しかけてきた。
「あっ!えみぃ。
ぉはよ!
ひょっとして⋯⋯お昼??」
なんて、話してると明日香が話しに入ってきた。
「周り見ればわかんだろっ??
あんたには、本能しかないんかねぇ??
眠かったら寝る!腹減ったら起きるって!!
はぁ~。」
「あっ!明日香!!
おはよっ!!」
「おはよ!⋯⋯じゃねぇ!!
昼だっ!!」
ベシッ!!
明日香の平手打ちがあたしの後頭部に跳ぶ。
(いったぁ~⋯⋯)
「叩かなくても⋯⋯。いたいよ~ぉ。」
「少しは、目ぇ覚ませっ!! バカッ!
おめぇ、何しに来てんだよっ??」
「ん?? 遊びにっ♪♪」
「⋯⋯わかってんじゃん!!」
「さきぃ、だったら寝てたらもったいないよぉ~」
「ぅ⋯⋯うん。」
わかってる。あたしだってわかってる。
毎回好きで寝てるわけじゃない。
寝る気はない。
頭がぼ~~っとして、気づくと意識が飛んでる。
なぜ??
ちゃんと夜寝てるのに⋯⋯。
疲れだって貯まってない。
なのに⋯⋯なんで⋯⋯??
あたしの眠り癖はさらにエスカレートしていく。
昼まで一度も起きずに寝ているなんてことは、もはや珍しくはなくなっていた。
それどころか
朝、教室についてST(HR)前に寝る→ 昼、目がかすかに覚めてぼ~っとしながらご飯を食べる→ また寝る→ 意識が戻ると帰りのST(HR)。
なんて、サイクルもしばしばある。
何しに学校に来ているのか本当にわからなくなってくる。
友達に話しかけられても、ぼ~っとし過ぎて何話しているのかわからない。
仮に聞いていたとしても、聞きながら本人の目の前で寝てしまうこともあった⋯⋯。
時に、それがとんでもない誤解を招く⋯⋯
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます