第17話 第二章 偽りの説教者は、タブレットを所望する。(12)
「過去ボストン大に在籍していまして、その時彼が書いたレポートを入手しました。内容から推察し、アメリカがサイゴーに依頼する動機となったレポートと考えられます。結論を申しますと、まだ解読のきっかけを与えるレベルにすぎません」
ツァイツラーは軽やかにキーボードを叩き、メンバーのHUDにレポートと関連資料を表示させている。
「ではサイゴーという男が、持ち込まれたタブレットを解読して、短時間でアメリカ軍に結果を提供する可能性は?」
それまでずっと黙って聞いていた、インノケンティウスの副官であるフェッラーラ枢機卿が口を挟む。
「極めて低いと思われます」
なるほど、だがあらゆるリスクには備えねばならない。
「アンジェラ、ところで例の開発中の義体は?」
「はい、身体テストは目標性能をクリア。現在脳に各種知識をインストール中です」
「よし、メンタリティテストが完了したら、前線に投入する準備にかかれ。この作戦に使うかもしれん・・・あれは我々の切り札だ。実際の人間社会での活動データを早く取得してブラッシュアップもしたいしな」
「アイ、マム」
さて、インノケンティウスはツァイツラーに再度向き直る。
「今回は砂漠の只中という訳ではないし、いつもの政府統治能力の低い紛争地帯でもない。立派な先進国の人口過密地帯だ。つまり、繊細かつ迅速な行動、武力行使の極小化などが求められるってわけで、いろいろ工夫が必要だよなあ」
ここは切り札の出番だろう。
「ヴィットーリア、今回は貴官が日本に入り、直接現地でタブレット奪取の指揮を執れ。貴官が正しいと思うように行動しろ」
「アイ、マム」
「タブレットの解読には、仮に出来たとしても相当な時間を要するはずだから、情報を集めて綿密な奪取作戦を立ててくれ。こういうの得意だろ? あとエレオノーラ。お前はヴィットーリアのサポートで随行しろ。名誉挽回のチャンスを与えてやる」
【五月十日 午前十一時二十分 神保町 学芸院大学】
朝から大学の構内には、異様な雰囲気があった。
黒のセダン十台と、カーキ色の大型トラック四台で乗り付けた軍服姿の男たちが、なにやら大学のあちらこちらを検分して監視カメラなどの機材を設置している。
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