第215話 3年生の始まり~セスたちの場合~
「ねえ、片岡君」
月曜の放課後、。
帰り支度をしていたら聞きなれない声で呼びかけられた。
「どうかした?」
声の方を向いてみると……確か隣のクラスの同級生だ。
名前は確か、北川君と野村さん……だったかな。廊下とかで二人で一緒に居るのをよく見る気がする。
正直言ってあんまり接点はないんだけど。
二人が周りを警戒するように見る。
放課後の教室は数人くらいしか残ってない。皆部活にでも行ったか、それとも帰ったんだろうな。
窓からグラウンドのサッカー部の掛け声が聞こえて来る。
「あのさ……セス君達って魔討士なの?」
意を決したように野村さんが言った。
◆
そうだよ……と答えかけて危うく言葉を飲み込んだ。
これって話していいことなんだっけ?一緒に何度も戦ったけど、そういえば学校ではその話はしてない気がする。
「……なんでそう思うわけ?」
「ネットニュースで見たんだ。片岡君が富山で戦ったニュースの海外のやつで出てたのよ」
野村さんが答えてくれる。
「……ああ、そうなんだ。ていうか、あれってそんな大きなニュースになってたの?」
「余裕で全国ニュースのトップよ。片岡君とルーファちゃんと三田ケ谷君、バッチリ映ってたしインタビューも何度も見たわよ」
「そうなのか……」
富山で戦ってその後はしばらく向こうでホテルにいたからあんまりテレビとか見なかったけど、そこまで大々的にやっていたとは。
「家族に超自慢したぜ。同級生なんだよって」
「で、どうなの?」
野村さんが聞いてくる……どう答えればいいのか。
素直に答えるのもヤバそうだな
「ていうか、カタリーナちゃんとかパトリス君も魔討士なのかな?」
「俺もそう思う。この時期に、しかも国籍が違う留学生が3人なんて変だよな。全員知り合いっぽいし」
どう答えるべきか考えているうちに、二人が言葉を交わした……なかなか鋭い。
「ああ、でもやっぱり言えない秘密とかあるのよね。ひょっとして、ヨーロッパの秘密エージェントとか?」
「そうか……それは熱いな」
黙っていたら二人が顔を見合わせて頷き合った。
……なんか誤解が生じている気がしなくもない。
「そうなんでしょ?」
「ああ、でも5位とかになると色々言えないこともあるんだろ?」
「でも、こういうの、なんか秘密の共有してるみたいでいいね」
「安心しろよ、触れ回ったりはしないからさ。
片岡、だけどよ。学校がテロリストに襲われるとかそういう状況はごめんだぜ」
「その時は皆を護ってよね」
なんか二人が勝手に納得したように言ってクラスを出ていった。
さてどうしたものか。
◆
セスに電話したら代々木の訓練施設にいるという話だったから代々木に移動した。
あの蟲との戦いで代々木の訓練施設は随分壊されたけど、今は綺麗に修復されて元のままになった。
とは言ってもあんなことがあったからか、魔討士の人以外が使えるトレーニング施設とかランニングスペースとかは前に比べて明らかに人が減っている。
平日だってのもあるとは思うけど、新しく作られたテラス風のカフェスペースも人影はまばらだ。
カフェの隅の大き目のテーブルにトレーニングウェア姿のカタリーナとパトリス、それにセスがいた。
あと、この間富山で会ったアガサさん。アガサさんだけはカチッとしたストライプのスーツ姿だ。
テーブルの上にはコーヒーとクッキーが並んでいた。
「……ということで適当に誤魔化して置いたけど、どうなの?」
「ソウ、それアタシも聞かれたのよ」
「最初にインタビューを受けたのはグランヴェルウッド卿ですよね」
カタリーナが困ったように言って、パトリスがセスに念を押すように言う。
「それは考えていなくてな……そういえば俺達は留学生と言う名目だった」
セスが言う。
「まさか日本でも見る人が居るとは……ニュースのインタビューを受けたのは軽率だったかもな」
「あのさ、君らはエリート戦士なんだよね」
あまりにも迂闊すぎやしないか。
いまは海外ニュースも動画サイトで見れるし、自動翻訳だってかかるわけだし。
「とりあえず当面は誤魔化しておいてくれ」
「まあいいけどさ」
どっちかというと絵麻や朱音が口を滑らせそうな気がするぞ。
代々木の戦いであの二人はセス達のことを見てるわけだし。
「ところでバレたらダメなわけ?」
「ダメというわけではない。以前はともかくとして今は魔討士協会に正式に許可を得ているからな。とはいえ、目立ちすぎるのも好ましくはない。我々は目立つのが仕事ではないからな」
「いえ、構いませんよ。グランヴェルウッド卿」
セスが真剣な口調で言うけど、アガサさんがあっさりと否定した。
「我々
そして、百の宣伝活動より直接誰かと接する皆さんの振舞が最も効果的です。その辺の自覚をもって、よろしくお願いしますね」
アガサさんがにこやかに言うけど……セスが嫌そうに顔をそむける。
まあ彼はあんまり愛想がいいタイプではないよな。
◆
セス達はなにやら真剣な顔をして話し合いながら帰っていった。
聖堂騎士のエリートっていうのもあるし、高校生なのに故郷を離れて日本にいるわけで、ああいうのを見ていると5位とか言われてるけど僕の立場は気楽だ。
時計を見たらもう7時に近い。4月になって大分昼も長くなってきたけど、それでも空が暗くなってきている。
そろそろ帰らないと晩御飯に間に合わなくなるな。
「おお、片岡。平日にいるとは珍しいな」
人影をまばらになったカフェを出たところで突然声を掛けられた。
「どうも、師匠」
見慣れた袴姿の師匠が立っていた。
どうやら誰かの稽古をつけた後らしい……バサバサの髪と腰に模擬刀を挿した姿は浪人って感じだな。
師匠が大き目のアイスコーヒーのカップにガムシロップを大量にいれて飲み干す。
……体に悪そうだ。
「で、どうした?今日は」
「セス達に会いに、ちょっと」
「なるほどな」
カップをゴミ箱に投げ込んで師匠が模擬刀の柄を叩いた
「で、どうだ?せっかくだから一本やってくか?」
「今日は止めておきます。そろそろ帰らないと」
トレーニングしに来たわけじゃないからちょっとそう言うテンションにならない
「しゃーねぇな……ところで」
師匠が僕を頭の上から足の先まで見て腕を組んだ。
「お前……また強くなったな」
「なんでそんなことわかるんです?」
「40年間刀を振ってりゃその位分かる。立ち姿とか雰囲気とか、そういうのでな」
師匠が真剣な口調で言う。普段の冗談めかした感じじゃない。
そう言われると悪い気はしないな……ステータスが見えたりするわけじゃないから自分では今一つ実感がないけど。
「今度一本手合わせしてくれや、片岡」
「ええ、よろしくお願いします。今週末にでも来ますよ」
「しかし……お前の本当の全力とやれないのは残念だがな」
多分それは鎮定のことを行ってるんだけだろうけど。
「それは流石に無理でしょ」
「つくづく俺に能力が無いのは無念だぜ……じゃあな、片岡」
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