第192話 打ち上げの場で・下

 宴もたけなわって感じで賑やかになっていた。

 清里さんは斎会君に彼女さんのことを根掘り葉掘り聞いている。

 木次谷さんは部屋の隅で難しい顔をしてスマホをいじっていた。


「ちょっといいですか?」

「ああ、片岡君。今回もありがとうございました」


 木次谷さんがスマホをポケットに仕舞って答えてくれる。


「一つ聞いていいですか?」

「ええ、どうぞ」


「あいつらの目的って何なんでしょうね」


 この話は聞いてみたい。

 さっきは清里さん達がいたからはぐらかされたけど。木次谷さんが少し考え込んで口を開いた。

 

「確たる証拠まではつかめませんでしたが……新宿系のなにかが後を引いていたことは間違いありません。

あの交流戦というか決闘の時にアプリを切らせたのもそれが理由でしょう。あれは簡易的ですが魔素フロギストンを観測して解析するものですからね」

「やっぱり新宿系ですか」


 銀座とそれと倉庫街での戦いとを思い出すと、新宿系のあいつらは知性というか意志があって、何らかの目的を持って動いているっぽい。 

 ただ、同じ知性があると言ってもあの蟲とは全く違う。


 あの蟲は僕等を餌と見てるだけで、そういう意味では単純に敵だ。

 ただ、あっちはそこまで単純じゃない気がする。


 絵麻を連れ去ろうとしたのは何となく意図がわかる。

 魔素フロギストンを集める絵麻の能力ってやつがあいつらにとって有益なんだろう。


 ただ、元村やあの倉庫街の人に能力を与えていたのはわからない。

 何の得があるんだろうか。


「とはいえ目的については何とも……あの会のパソコンなどを今解析中ですが、情報のやり取りの形跡は全くないんですよ。元村も今は口が利ける状態じゃありませんし」


 木次谷さんが言う。

 隠してるって感じはしないけど……なんせこの人は裏が読めない。


 元村は魔素フロギストンを消耗しきって今も病院で入院中らしいけど……あれだけの力を出せるってのは恐ろしい。

 自分で言うのもなんだけど、乙の5位三人と丙の4位でようやく倒せる相手だ。

 あんなのが何体も現れたら対抗できるんだろうか。


「正当討伐互助会のメンバーの与えられた能力は消滅したようです。尾城たちの能力強化も消えました。新宿系の奴らは手を引いたのかもしれませんし……また何か企んでいるのかもしれません。

新宿系については欧州国教騎士団テンプルナイツの方が情報を持っていそうですし、連携を強化しようと思っています」


 木次谷さんが物憂げにつぶやく。

 何が何だか分からないのは木次谷さんも同じだよな。


「ただ、今回の互助会の会員に聞いてみたところ、児玉君を襲った奴も含めて能力を強化してやると言う口車に乗せられて利用されていました。

魔討士として活動する気が無かったわけではなく……でも力が及ばないという焦りや妬みに付け込まれたようです」

「そうなんですか」


「で、今回、あいつらのパソコンを解析しした結果、ごくわずかですが能力強化の技術の手がかりがありました。確認できたものを少しでも早く実用化しますよ。二度とこんなことが起きないように、我々も変わらなくては。

……私達は戦えませんが、少しでも戦う皆さんを支えたいと思っています」


 木次谷さんが言う。

 直接刀を交えるだけが戦いじゃないよな。


「今回の事は色々と良い教訓になりました……と言えるのは皆さんのおかげですね。

片岡君、貴方には世話になりっぱなしだ。本当にありがとう」


 木次谷さんが手にしたウーロン茶のグラスを掲げる。


「いえ、どういたしまして」

「ただ……この話は内密に願いますよ」

「わかってますよ」



 昼過ぎに始まったパーティだけど、3時ごろになると皿の上の料理も殆ど無くなった。

 そろそろパーティも終わりかなってところでスマホの呼び出し音が鳴る。

 ビデオ通話着信で番号表示は漆師葉さんだ……久しぶりだな。


 着信のアイコンを押すと、画面に前も見た黒い軍服風のコスチュームに身を包んで腕組みしている漆師葉さんが映った。

 どうやら仙台の何処からしい。後ろに噴水と広々とした空と林が見えている。


 ちょっと引いた位置から撮ってるっぽくて自撮りって感じじゃない。

 どうやら誰かが撮っているらしいな。


「片岡。久しぶりね」


 漆師葉さんの良く通る声がスピーカーから流れた。

 画面の中でコートの裾を払ってポーズを取る。金色の巻き毛がふわりとたなびいた。

 

「この間、あたしたちは青森の定着ダンジョンを攻略したわ。そしてあたしは甲の6位に上がった」

「そりゃおめでとう」


「このあたしがライバルとしてあなたの前に立つ日も遠くないわね。あたしの新しい力を見せるのが楽しみだわ。待っていなさい」


 そう言って漆師葉さんがこっちに向けてビシッと指をさす。 

 ライバルだったのか……?


「まあそういうわけだ。大阪のイベントのことは聞いているよ。元気かい、片岡君」


 画面に四宮さんの顔が映った。

 どうやら撮影役をやっていたらしい


「ええ、元気ですよ」


 漆師葉さんは相変わらずだし、四宮さんも元気そうで良かった。

 伊達さん達の会社も順調っぽいな。


「また良かったら仙台に来てくれ。社長も久しぶりに会いたいと言ってたよ」

「ありがとうございます」



「ミズキ、今の誰なん?」


 スマホをのぞき込んでいた清里さんが聞いてくる。


「仙台で一緒に戦った魔討士の会社の人。高校生の甲6位だよ」


 答えると清里さんが大げさに首を振った。


「そんなランクの事なんて聞いてへんわ。まったくわかってへんなぁ、ミズキ。それとも分かってすっとぼけとるの?やだわぁ、この男」


 そう言って清里さんが意味ありげに僕を見る。


「しかし、ミズキ……モテモテやんな。さすが乙の5位やわ。

玄絵の姐さん。ちゃんとミズキの事、捕まえとかんといけませんで」

「もちろんそのつもりだよ。ねえ、片岡君」


 檜村さんが言って僕の手を取ってぎゅっと握ってきた……酔ってるかな?


「お熱いですなぁ……せっかくなんで、ここで誓いのキスでも一つ如何です」

 

 清里さんが言う……良く見ると清里さんの頬が赤い。

 なんか絡むなと思ったけど、もしかしてこっちも酒でも入ったか。


「誰か飲ませた?」

「俺とちゃいますよ、片岡さん」


 児玉さんが首を振る。


「それは……さすがに、ちょっと無理だよ」

「玄絵の姐さん、普段がクールな分、照れた顔もかわいいですなぁ」


 そういって清里さんが檜村さんに抱き着く。


「ミズキ、ええか。二股は絶対ダメやで。男も女も一人の愛してくれる相手を一途に愛するもんや。あたしたちはいつだって愛し愛されて生きるんやで」  


 微妙にろれつが回らない口調で清里さんが言う……やれやれ。 

 


 これにて本章は終わりです。


 ☆、♡などで応援いただけると創作の励みになります。

 感想頂けると大変うれしいです。

 よろしくお願いいたします。

 

 次章は書き溜めするので少し(多分少しのはず)お待ちください。

 富山を舞台に檜村さんの過去に絡めた話か、台湾からやってきた符咒士(魔討士のようなもの)の話にしようかなと思ってますが、まだ未定。

 思いついたら幕間とか書きます。


 


 


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