求められて戦うこと~仙台宮城野ダンジョン攻略戦
第105話 仙台からのお客さん・上
目の前を長刀の切っ先が横切った。
刀身を横から払いのける。ついでに風で刀身を押した。宗片さんの姿勢が少し崩れる。
「一刀!破矢風!
刀を振り下ろす。
刀から風を飛ばすんじゃなく、風の塊を頭上から降らせるイメージ。これは初見のはず。
ダンジョンの小部屋に吹き降ろすように風が巻いた。
初見の上に頭上の死角からの風。
流石にこれは避けられないと思ったんだけど、柳のように体を揺らして宗片さんが風の塊を躱した。
赤い石畳に風がぶつかって鈍い音が立て続けに響く。地面がかすかに揺れた。
「マジかよ?」
一発も当たらないのか、信じられない。でも驚いてる暇なんてなかった。
宗片さんが構えを変える。切っ先がこっちを向いた。
身をかわしたところをまっすぐ伸びた切っ先が貫く。
刀が引かれてない。まだ終わってない。追撃が来る。
地面を転がるようにして横に避ける。伏せた体の真上を長刀が切り裂いていった。
背筋が寒くなったけど、距離を取って立ち上がって息を吐くと少し気持ちが落ち着いた。鎮定を構え直す。
宗片さんも長刀を担ぐような構えに戻った。
しかし……うっかり立ったままだったら真っ二つに切られかねなかったけど。
さっきの突きといいホントに手加減してくれるんだろうな
「惜しいな、片岡君。発想は良いけど、適当に降らせるんじゃダメだよ。もっとよく狙って詰めないとね」
宗片さんがこともなげな口調で言うけど。
普通は一発くらい当たると思う。あれを全部避ける方が普通じゃない。
呼吸を整えようとしたところで、部屋の隅に置いたスマホのタイマーがアラームを鳴らした。
試合終了か。
◆
「うーん、大したもんだね、片岡君。また強くなったよ」
今日は八王子ダンジョンの9階層の通路の奥で宗片さんと練習試合をしている。
というか、一騎打ちに付き合わされている、というべきか。
今回も、昨日突然電話が来て呼び出された。
確かに宗片さんとの試合はいい練習になるから僕にとってもいいんだけど。
時々死ぬかもと思うような斬撃が飛んでくるのが心臓に悪い。
八王子ダンジョンは10階層のミノタウロスが倒されて10階層より上にはあまり魔獣は出なくなった。
5階層辺りまで観光地のようにダンジョンツアーをやっていたりする。
こんなのでいいのか、と思うけど、それも魔討士協会の広報活動の一環ということらしい。
今は深層に潜むアークデーモンの討伐を目指してさらに下を目指して攻略が続いている。
ただ、深層に進めば進むほど魔獣も強くなる。なので、宗片さんも時々来て探索の手伝いをしているらしい。
そのついでに呼び出されて試合に付き合わされている。
「前よりも良くなったね。なにかあったのかい?」
「どうでしょう……むしろ何が良くなりました?」
宗片さんと八王子で戦ってからいくつかまた修羅場をくぐった気もするけど。
自分がどう変わったのかは自分では分かりにくい。
宗片さんが言葉を探すように考え込む。
「そうだね……今まで君はちょっと受け身の戦い方だったんだよ。受けて切り返す、そんな感じの戦い方だった」
「そうですか?」
と言われてもあんまり自覚がないんだけど。そう言う風に見えていたんだろうか。
「これは僕が思うに、あの可愛い魔法使いさんのせいだね」
「というと?」
「多分ね、あの子を守る、という意識が強かったんだよ。だから相手の攻撃を受けて後ろを守るっていう立ち回りになっていたんだな」
宗片さんが汗を拭きながら言う。
体は細身で、これだけ見ていると全然強くなさそうなんだけど。それでも打ち込みは師匠のように重い。謎だ。
「でもね、それは良くないよ。受けてから形勢を押し返すのは倍の力がいる。そもそも、相手を押して下がらせてしまえば後ろにいる彼女も危なくないだろ?」
「まあそりゃそうですけど」
後の先っぽい感じになるのは師匠の影響もあるかもしれない。師匠のも含めて、古流の剣術はどちらかというと待ちが多い気がする。
相手の打ち込んでくるその時が最大の隙。先に手を出させてその隙を突く。そんな感じだ。
「一般的に古流は後の先が多いけどね。
僕の持論を述べるなら、受けから入るのは甘いよ。相手に一回分の攻撃の機会を与えるんだからね。
戦いは先手必勝、初太刀で切り殺すのが一番安全さ。そう思わないかい?」
宗片さんがこともなげに言うけど。
多分それができるのは貴方だからですよ、と思う。というか、それが出来れば苦労はしない。
「いずれにせよ、強くなってくれて嬉しいよ。また……」
と言ったところで宗片さんのスマホが鳴った。画面を見て宗片さんが嫌そうな顔をする。
「どうかしたんですか?」
「この後は12階層の探索なんだよ。行かないと。面倒だけど、まあ王様は仕事しないとね」
そう言って宗片さんが着流しをいつも通りマントのように羽織った。
「じゃあね、片岡君。また連絡するよ」
そう言って、宗片さんが歩き去って行った。
……僕との試合は準備運動みたいなものらしい。
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