第99話 ダンジョンマスターとの決戦・下

 辛うじて押し返したけど、キューブがまた僕等の周りを回り始めた。


 正面の本体。コアを守るように浮くキューブは後一個まで減ったけどコアは無傷だ。

 七奈瀬君の全力攻撃でも流石に一撃で決めるってわけにはいかなかったか。


 僕等の周りを回っていたキューブのうち二つがコアの方に戻っていった。絵麻がいないと無限増殖は流石にしないらしい。

 数は減ったけど、まだ巨大なキューブが僕らの周りをまわっている。とりあえず風の壁を立てたけど、おそらくこれじゃ止まらない。

   

「余計なことを……」

 

「檜村さん、もう防壁はいいです……攻撃魔法をお願いします」

「ああ、分かった……が」


 そう言って檜村さんが七奈瀬君を見る。


「あれは僕が殺すって言ってるだろ。何度も言わせるなよ!」


 七奈瀬君が檜村さんに怒鳴るけど。


「お前らは黙って防御だけ……」

「僕と君とで防御を固めるんだ。というか、そうでないと勝てない」


 単純にデカくて重いシンプルな物理攻撃っぽいけど、重すぎて檜村さんの防壁でもあれは止めきれない。

 トラックが何台も突進してくるようなもんだ。


 今は辛うじて受け切れたけど、二つ三つと連続して来たら僕だけじゃあのキューブは止められない。 

 僕と七奈瀬君で止めて檜村さんの魔法で仕留めるほうがまだ勝ち筋がある。


「僕に指図する気か?5位風情が」

「5位とかどうとか関係ないだろ、勝つためだ」


 今はそんなこと言ってる場合じゃない。

 強い口調で言うと、不満げな目で七奈瀬君が僕を見上げて舌打ちした。


「ちっ、でも一番手柄は僕だぞ、忘れるなよ」

「一撃で決めてください、檜村さん」


 七奈瀬君は分からないけど僕らは多分もう限界が近い。床のあちこちに打ち切った弾倉が転がっている。カタリーナの弾も無限じゃない。

 一人でも倒れたら、手数が足りなくなって防ぎきれない。


「勿論分かってる【書架は北西・理性の五列。八拾参頁九節……私は口述する】」


 檜村さんが詠唱を始める。

 七奈瀬君の左右の銀の針金が網のように広がって僕等の周りを囲んだ。

 風の壁を破って突っ込んできたキューブが網にぶつかって弾き飛ばされる。


「パトリス!カタリーナ!少しでもコアを狙って、攻撃を妨害して」

「了解だ」


 パトリスの矢とハンドガンの弾がキューブに降り注ぐ。

 フラッシュのようにキューブの表面で光が走るけど、壊れる様子はない。ただ、何か仕掛けてくるのを邪魔するくらいはできてるか。


 パトリスの矢は明らかに最初より光が弱い。当たり前だけど疲れてるな。

 カタリーナの銃も硬いキューブを砕くには火力不足だ。

 ハンドガンからまた弾倉が落ちて、体に巻いたベルトから変えの弾倉を抜く。


 僕等の周りを回っていたキューブがまた包囲を狭めるように迫ってきた。

 歯を食いしばって意識を集中する。


「一刀!破矢風!蛇颪!」


 竜巻のように風が吹きあがる。発動する一瞬、また意識が飛びかけた。

 今までこんなことはなかったけど……風を使い過ぎたからだろう。僕もそろそろヤバいな。

 乙類は消耗が少なくて継戦能力が高いのが強みだけど、限度はある。


「いい加減壊れろよ!」


 七奈瀬君の針金が四方八方に飛んで、風で斬られて失速したキューブを貫く。

 針金がキューブに立て続けに刺さって、激しい金属音と衝撃が走った。また一つキューブが砕け散る。 

 押されるようにキューブが輪が少し広がった。


 キューブが風の壁と七奈瀬君の針金とぶつかり合って白い光を放つ。

 絶え間なく響く銃声と薬莢と弾倉が床に落ちる音と誰かの声。檜村さんの詠唱が続く。

 パトリスの矢がコアを狙うように弧を描いて空中を飛ぶけど、コアを守るように浮かぶキューブが矢を止めた。


「遅いよ!お前、朝まで詠唱してるつもり?」


 七奈瀬君が怒ったように言う。

 振り返ると檜村さんが頷いた。


「【古き歴史に名を刻みたるもの、数多の吟遊詩人が謳い継ぐ戦士にして王、其の名はアレクサンドラ。彼の携えし槍はその躯とともに陵墓にあり。

混沌を退け、秩序を齎したその槍よ。今一度この地に。その名において平穏よあれ、闇を祓え】術式解放!」


 檜村さんの詠唱が終わる。キューブの真下の地面に白い魔法陣が現れた。

 キューブの一つが魔法陣の上を抑えるように動くけど、同時に魔法陣から天を突くように槍が飛び出す。


 耳を劈くような甲高い音がして、キューブが槍を受け止めた。

 槍の穂先とキューブがせめぎあってまばゆい光を放つ。けど、それもほんの一瞬だった。


 ガラスが割れるような音がして、キューブがばらばらに砕ける。

 槍が天井を刺すように伸びてコアをそのまま貫いた。



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