第94話 絵麻の能力
男が立ち上がった。のしかかっていた黒い塊が消えていく。
『
男が機械音声のような抑揚のない声で言って、僕等を1人づつ探るような目で見た。
『……現在、本
そう言って僕を指さした。
『対して、あなたの魔素活用能力の使用状況は39%です。貴方は優秀な性能を有しています』
棒読みのままで言って、男が言葉を切った。
『我々の
「なんだって?」
『現在、本
我々の
その場合、本
従えば強くなれる、と言いたいらしいけど。
そんなことはどうでもいい。
「そのつもりはない。絵麻を返せ」
『拒絶します。このユニットは貴方達では有効活用できません』
男が無機質な声で答えた。絵麻は後ろで立ちすくんだままだ。
『安心してください。この個体に危害を加えることはありません。この個体は幸せな``夢``を見ながら安全に保護されます。
そう言って男が一度言葉を切った。
『貴方が
疑似的とはいえ実在の感覚の再現率は97%となっており、極めて幸福な状況であることを約束します』
「黙れ」
話が通じないというパトリスの言葉が分かった気がする。
というか価値観が全く違う。
交渉の余地はないと言う事は良くわかった。刀を構え直す。
一つ確実なことがある。こいつを倒さないと絵麻は救えない。相手が何であろうと、やるしかないならそうするまでだ。
『では捕獲します』
男の手にブレードの代わりに、白く光る巨大な手の平のようなものが形成された
◆
「下がって!」
声を掛けて一歩踏み出す。
男が手を振り上げた。白い軌跡を残して巨大な手の平が掴みかかってくる。
さっきより明らかに速い。
速い……けど隙だらけだ。大振りで先が読み易い。素人の喧嘩のように大きく振り上げて振り下ろす。
振り下ろすタイミングに合わせて、その手を受け止める。そのまま手を跳ねあげて、がら空きの胴を薙ぎ払った。
手加減をするつもりはもうない。
ガリガリと硬いモノの切るような手ごたえが柄から伝わってきた。
男が押されるように後ろに下がる。
「食らえ!」
「大人しくしなサイよ!」
距離が開いたところでカタリーナの銃弾とパトリスの矢が突き刺さる。
ただ、体の表面に防御幕のようなものがあるっぽい。今の攻撃も、僕の胴を切ったのも傷口とかは一切ない。
たしかにそう簡単には死なないらしい。ただ、この場合あまり良い事じゃないけど。
カタリーナが舌打ちして弾倉を入れ替えた。空になった弾倉がコンクリの床に撥ねて硬い音を立てる。
そいつが表情を変えないままに首を傾げた。仕草はところどころ人間ぽいな。
『動作精度の28%向上を確認。しかしなお此方の方が42%優速のはず……不可解です』
「人間の技を舐めるな」
速いけど予備動作が大きければ先は読める。
恐らくなんだけど、身体能力をあげたりすることはできても、人間の体を動かす技術は高くないんだろう。
単に速いってだけなら僕でも対抗できる。
ただ、そう言ってはみたもののこのままじゃ埒が明かない。
さっきの胴薙ぎにカタリーナの弾とパトリスの矢はどれも当たっているけど、効いてる気配がない。
切っても撃ってもダメージを与えられないんじゃどうにもならない。
あからさまに後ろの絵麻が
檜村さんの魔法が当たれば一番いいんだろうけど、あの人の魔法は攻撃範囲が広いものが多い。
この距離で僕が戦っていると使うのは難しいか。
それに……僕はもう覚悟を決めたけど、あの人にこいつを殺させるのは流石に気が進まない。
刀の切っ先を向けて間を測る。
『ユニットを追加』
不意に男が言う。
絵麻の目の前の光が強くなって、足元から白い線が何本も伸びた。
線が空中に伸びて僕等の周りを取り囲むようにして四角を描く。
幾何学文様のテクスチャが貼られるようにして、大きめの段ボールのようなサイズの5体のルーンキューブが現れた。
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