第81話 あなたと共にいたければ・上

 長話の間にルーファさんと三田ケ谷は二人で何処かに行ってしまった。

 檜村さんも電話をしてくると言って姿を消している。


 話がまとまったらしくシューフェン達がこっちにやってきた。

 この後は食事会でもするんだろうか。


 制約があるとはいえど、異世界側の人がこっちに来れることはもう間違いない。

 どういう風に接していくか分からないけど……世界の壁があるということを除けば外国との交渉みたいなものなるのかな。


「見事な武者ぶり、そして指揮であった。カタオカ」 


 シューフェンが言う。さっきまでの硬い雰囲気は少し和らいでいた。


「お前の地位はどのあたりだ。旗下に何人の兵がいる?」

「そんなのはいないけど」


 そういうとシューフェンが頷いた。


「お前はいくつだ?」

「……17だけど」


「ならば一門を持てる年だな」


 シューフェンが頷いた。


「この後、お前の王に目通りがかなったら、お前をもらい受けるように願い出るつもりだ。我が国に来い。

私の妹を妻に娶って我が兄弟となれ」


「はい?」

「お前にとってはソルヴェリアは見知らぬ国であるが、お前ほどの男なら問題ない。

まずは我が白狼左衙の副火帥として推挙する。しばらくはレイフォンの下につけ」


「あー、ちょっと」

「間を置かず火帥に取り立てよう。火帥となれば200人の兵を率いる地位だが、お前の力なら不足はない。

わが国には人間、というか祖人は稀だがな。私の後ろ盾があれば誰も物申すものはおらん」


 冗談で言っているのかと思ったけど、目がマジだ。

 というかさっきからの感じ、冗談を言うタイプではないな。


「あのね……」

「おい、カタオカ。こんな連中の所に行くな。いけ好かない連中だぞ」


 エルマルが不意に話に割り込んできた。

 シューフェンがエルマルを冷たく見下ろす。銀色の獣耳がちょっと動いた。なんとなく不機嫌そうだな。


「……優れた者はそれにふさわしき地位というものがある。サンマレア・ヴェルージャの如き小国にカタオカに相応しい地位を用意できるとは思えんな」

「オダギリを見ろ、カタオカ。あいつに言わせれば僕等の国はなじみやすいそうだ。お前に相応しい場所はサンマレア・ヴェルージャだぞ」


 またもや二人が火花を散らしているけど。


「無茶言うな、僕はまだ17だぞ」

「僕は13だ」


 エルマルが答えてくれる。13か、まあそんな感じかもな


「私は12で初陣を果たし、15で今の妻を娶った。子もいる。17なら若すぎるなどと言うことは無い。毟ろ遅いくらいだ」


「ちょっと待って。あんた、年いくつなんだ?」

「19だ」


 シューフェンが答える。

 僕と2つしか違わないのかい。もっと上だと思ってたよ。本日最大の衝撃の一つだわ。


「すでに妻を持っているのか?……あの道士か?」


 シューフェンの言葉に思わず吹きそうになった……檜村さんがいなくてよかった


「そういうのじゃないけど……大事な……相棒だ」


 それなりに長い付き合いになりつつあるけど。

 今も僕等の関係をうまく言葉にできないってのが正直なところだ。ただの仲間ではないと思うけど。


 シューフェンが僕を見て、分かってるぞって感じで笑って頷いた……なんとなくイラっと来たけど。

 年の差が2つしかないけど、結婚してます、子供もいますとか言われると年齢よりかなり大人に見えてしまうな


「とにかく、今は僕はどっちにも行く気はないよ」

「そうか、残念だ」

「仕方ないな」

 

 シューフェンとエルマルが首を振った。


「あの私と戦った鉾の使い手に言っておけ。

自らの学府の徒を守ろうとするのは見上げた心がけ。しかし、戦士として戦うなら敵の強さを見極めよ、とな」


 シューフェンが言う。

 三塚先生のことを言っているんだろう。

 肩を二か所刺されたらしいけど、大した怪我ではなかったらしい……手加減してくれたんだろうな。


「そしてカタオカよ。この後もあの道士とともに戦うなら私から警句を与えよう」

「なんだい?」


「お前も再び后種フョンシューと相対するかもしれん。

奴らは戦士の名誉など持ち合わせてはいない。蟲よりマシな程度の知能しかないが、狡猾で冷酷。そして弱い部分を見抜く目敏さを持っている。お前に弱みがあればそこを確実に狙ってくる」


 真剣な目でシューフェンが僕を見る。

 弱みというのが何を意味しているのかは僕にも分かった。


「強い風が吹いたとき、たとえどれほど風が強くとも花の前に立つのだ。それが戦士の務め、男の務め。

そして心せよ。お前が倒れた時、花もまた折れる。容易く倒れる壁に花を守る資格などない」


 シューフェンの世界は日本の日常とは比べ物にならないほど戦いが身近にある世界だろうってくらいは分かる。

 そういう人の言葉は理屈じゃない説得力があった。


「分かった。ありがとう」

「もう一つ言おう。お前があの道士に何か伝えたいことがあるなら伝えておけ……人はいとも簡単に死ぬ」


 シューフェンが静かに言った。

 恐らくなにか過去に経験があったんだろうな、と思う。


「主よ、参りましょう」


 木次谷さんと一緒に居たレイフォンが呼び掛けてくる。

 シューフェンがレイフォンの方を振り返って僕を見た。

 

「ではまたな。我が旗下に入れば手厚く遇することを約束しよう、

それに兄の私が言うのもなんだが、私の妹は美しい。お前の気が変わることを望んでいる」

「カタオカ、お前と肩を並べるのは僕だ。間違うなよ。いいな」


 二人が張り合うように歩き去っていった。


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