第49話 ミノタウロスの間で起こったこと
結局出てくるモンスターを宗片さんが蹴散らして、あっさりと9階層を抜けて10階層に到達した。
そしてこの階からはっきりと見た目が変わった。
むき出しの岩肌って感じだった壁が、ギリシャとかの神殿の回廊を思わせる柱が彫り込まれた壁に変わる。
足元もあちこちに穴は開いているけど、大きめの石板で舗装された道になった。
柱の陰はあるけど、脇道もほとんどない。
「ここは……私の世界のものだと思います」
ルーファさんが周りを見回して言う。
「へえ、なら無駄足じゃなかったね」
宗片さんが応じるけど、あんまり関心がなさそうだ
脇道が無い上に一本道で迷いようがない。その一本道にもモンスターの影は無い。
静かなもんだけど、一本道の向こうから言いしれない気配を感じる。ホラー映画の、そっちに歩いて行ったら死ぬだろ、引き返せ、といいたくなる感覚だ。
誰もが押し黙っているけど、宗片さんだけは気にしないって感じで歩みを進めていく。
長く感じたけど恐らくそこまで長い距離じゃない回廊を歩いた先は行き止まりになっていて、壁には3メートル近い鉄の扉がはめ込まれていた。
錆が浮いた鉄の扉の表面には牛の頭と斧をモチーフにした装飾が施されている。
「ここにミノタウロスがいるんだねー。ボス部屋ってまるでゲームみたいだよねぇ」
部屋の中から足音らしき重々しい音が聞こえてくるんだけど、何事もないかのように宗片さんが言う。
どういう神経してるんだろう。
「じゃあ、行こうか、片岡君。それに檜村さん?君は来ていいよ。
三田ケ谷君とルーファさん。君たちは此処で警戒していてね」
三田ケ谷とルーファさんが頷く。檜村さんが深呼吸した。
宗片さんに促されて鉄の扉を押すと、きしみ音を立てるけど想像したより軽く扉が開いていく。
生暖かい空気が漏れ出て来た。それと何か大きな息づかい。
「気を付けろよ、片岡」
「皆様、ご無事で」
三田ケ谷とルーファさんが声をかけてくれる。
開いた隙間に宗片さんと檜村さんが入って最後に僕が入ると、扉がきしみを上げて勝手に閉まった。
部屋の中は、壁の赤い光で不自由がないくらいの明るさだ。
体育館位の広さであちこちに石の柱が浮かび上がる様に立っている。高い天井と壁に掘られた柱の文様も相まって、朽ちかけた神殿の広間って感じがする。
部屋の向こうの壁には同じような扉がはめ込まれていた。あれが地下への階段なんだろうか。
そしてその中央には、小山の様な何かがうずくまっていた。
そいつが唸り声を上げて姿勢を変える。赤く光る眼が部屋を照らす明かりより強く僕等を見た。
……ミノタウロス。
★
ミノタウロスがゆっくりと立ち上がった。
角のある牛の頭に人間の体。
身長は4メートル程だろうか。トロールと同じくらいだけど、ごつごつした岩を思わせるトロールと違って、完全な筋肉質な人間の体だ。片手には身長程の巨大な長柄の斧を携えている。
ミノタウロスのことはちょっと調べてみたけど。特殊能力は無く、単純にデカイ、硬い、強い、そして図体の大きさに反してかなり早い。しかも此れと言った弱点もない。
頑丈さと巨大な武器の大質量攻撃は単純明快だけど、弱点がないから攻略しにくいらしい。
僕と宗片さんで削りつつ、檜村さんの魔法で攻撃と言うのが理想かな。
今回は相手が一体だから僕等二人がいればミノタウロスを止めることくらいできるだろう。
「檜村さん」
「ああ、いいよ、下がってて」
そう言うと、宗方さんがまるで散歩でもするように前に進み出た。
ミノタウロスは威嚇するように高々と咆哮を上げて斧の石突で地面を突く。
空気が震えて、後ろにいる僕でも鳥肌が立つような圧力を感じるけど……宗片さんはまったく動じた様子が無い。
ミノタウロスが斧を両手で構えて、力をためるように姿勢を低くした。
宗片さんが刀をすっと持ち上げる……といっても刀身がほとんど見えないからどこをむいているのか分からない。
ミノタウロスが斧を振りあげた瞬間、宗片さんが刀を横に薙いだ。
僅かな間があって、大人の背丈くらいありそうな斧の刃が地響きを立てて地面に落ちる。
ミノタウロスが戸惑ったように斧の柄を見た。
「中ボスとか言っても隙だらけだね、まったく。じゃあこれで終わりっと」
何度か宗片さんが刀を振る。
空中に刀身のらしきものが光って、一瞬の間を置いてミノタウロスの喉と胸、両足から血が噴き出した。
前のめりに巨体が倒れて、地面に倒れ伏したミノタウロスが蠢きながら苦悶の悲鳴を上げる
確か攻略が難しい中ボスって話だったけど……なんなんだ、この強さは。化物か?
檜村さんも唖然とした顔で宗片さんを見ていた。
「……すごいですね」
「あと……まあ十分ってところかな」
宗片さんが刀を一振りして、懐から懐中時計を取り出して見る。
まだミノタウロスは死んではいないようだけど、どうするんだろう。
「じゃあ、改めて。やろうか、片岡君」
「やるって?」
「前に戦った時に思ったんだよ、風使いが風を使えない状態で戦うのはフェアじゃないってね
でもここなら君も風が使える。全力で来れるだろう?さあ、構えて」
そう言って宗方さんが僕に刀を向ける。
見えない刀身がまっすぐこっちを向いているのが分かった。
「言っただろう?君と戦いたいって」
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