第46話 もう一人の異世界人と顔を合わせる

  木次谷さんが内線で話すと暫くして一人の男の人が入ってきた。

 ルーファさんと似た褐色肌の男性だ。

 年は30歳くらいかなって感じだけど……ちょっと後退した頭と顔の下半分を覆う濃い黒髭とぽっちゃり体形ではっきりしたところはわからない。

 大きめのシャツにこれまたゆったりしたジャケットを羽織っている。


「コンニチワ、ワタシハ、イヴェンガリ デス」


 片言の日本語でその人が話してくれた。

 どうやらルーファさんの使っている翻訳の魔術は使えないらしい。


「彼はイヴェンガリ君。いわゆる戦士ではない、行商人だそうです。モンスターに追われて逃げているうちに八王子ダンジョンに迷い込んで、魔討士が保護したという経緯です」


 木次谷さんが言う。


「まあ八王子ダンジョンにどう対応するかは検討するとして。

こうなった以上は答え合わせをしておきたいんですよ。どうせいずれはするつもりでしたが」

「答え合わせ?」


「イヴェンガリ君と、君たちのところにいる……」

「サナルーファさんです」


「彼女が同じところから来たのか、違うところから来たのか、八王子ダンジョンの先は同じ世界なのか、それとも似ているだけの違う世界なのか。それを確認しておきたいんですよ」

「似ているけど違う世界、なんてこともあり得るんですね」


 そういうと木次谷さんが頷いた。


「個別のモンスターとの戦いは経験が蓄積されてきています。しかし、ダンジョンが一体何なのかはまだ分からない。人為的なものか、偶発的に生じているのか。その向こうには何かはあるようですが。

それに君も知っての通り、この間の銀座に現れたダンジョンには明らかに知的生命体の気配がありましたしね。情報は多い方がいい」


 確かに。

 ダンジョンの最下層であったあの球は明確な意思を持って僕らと会話をして、絵麻を連れ去ろうとした。


「どちらかというと、あちらの方が敵対的ですからね。あちらの対策をと思っていたんですが。まあ折角そちらから来てくれたわけですし。どうです?彼女と会わせてもらえませんか?」


 木次谷さんが丁寧な口調で聞いてくる。

 檜村さんと視線を交わした。檜村さんが頷く。


「わかりました。でも……一つお願いがあります。彼女をこっちに引き取るとかはやめてもらえませんか?」


 この間の話を聞く限り、ルーファさんは三田ケ谷と引き離されるのを嫌がるだろう。

 できればそういう風にはなって欲しくない。木次谷さんが少し考えて頷いた。


「銀座の英雄の言葉ですからね、尊重しますよ

それに誤解しないでほしいのですが……敵対的な相手なら対応せざるを得ませんが、それ以外は無茶をやる気はありません」


 木次谷さんが穏やかな口調で言う。

 まあ確かに。ルーファさんのことを知っていたわけだし、本当に何かしようという意思があるなら、とっくに行動を起こしているだろう。


「我々は軍隊でも警察でも処罰機関でもないんですから、人権は尊重します。それが異世界の人でもね」




 その翌週の土曜日、三田ケ谷とルーファさんと一緒に新宿の事務所を訪れた。

 すぐに同じ応接室に案内されて、ちょっと待ったところで木次谷さんが、イヴェンガリさんを連れて部屋に入ってきた。

 一応予め情報は教えておいたけど、ルーファさんが固まる。イヴェンガリさんも衝撃を受けたって顔で彼女を見直した。


「шумо аз куҷоед?」


 ルーファさんが呼びかけるとイヴェンガリさんの表情がぱっと明るくなった


「Ман аз ҳеҷ ҷо!Ман педдлераз деҳа ба деҳа!

Ман мехоҳам ба хонаам баргардам

шумо медонед, ки чӣ гуна ба қафо бармегардед?」


 イヴェンガリさんがまくしたてるようにルーファさんに聞くけど、ルーファさんが首を振って彼ががっくりと肩を落とした。


「彼は何て言ってるんです?」 

「彼は村々を渡り歩く行商人です。戻る方法はないか、と聞かれたんですけど……」


 ルーファさんが言葉を濁した。

 

「彼女は日本語が出来るんですね。すばらしい。どういう仕組みなんですか?」

「彼女の魔法です」


 としか説明のしようがない。一応ルーファさんにこの魔法について説明してもらったけど、よくわからなかった。

 雑な説明もいい所だったけど、木次谷さんが成程って感じで頷いた。細かいことを聞かずに納得してくれて助かる。


 二人は直接的には顔見知りではなかったけど……でも大体の話を総合するに、同じ場所から来たことは確認された。

 村の名前とかが一致したらしい。

 木次谷さんが、上にお伺いを立てておくといって出て行って、その日はお開きになった。



 魔討士の協会での会談から10日後。


『やあ、片岡君』


 突然ショートメールが鳴った……この番号は宗片さんか

 どう打ち返したものか。ご無沙汰してます、とでも打とうか、と考えているうちに、もう一通メッセージが来た。


『僕が八王子のダンジョンに潜ることになったんだ』

『とりあえず10階層を目指す』


 どうするか対応を考えるってことだったけど、攻略するってことになったのか。

 それが僕に何か関係あるんだろうかと思ったけど。


『ついては君と一緒に行きたい』

『今週の日曜日に行くから、現地で会おう』


 あまりに唐突と言うか急展開過ぎて頭がついていかないんだけど

 というか、なぜ僕がいかないといけないのか


『待ち合わせは昼12時だ』

『じゃあよろしく』


 相変わらずこっちの話を聞かない人だけど、流石にこれははいそうですかと流すわけにはいかない。


「なんで僕なんですか?」

『君と戦いたいからだよ』


「僕は6階層が精々ですけど」


 檜村さん達となら、という条件付きだけど。

 一人なら4階層でも怪しい。


『大丈夫さ、僕がついてるんだからね』


 次のメッセージを打っている間に、ダンジョンアプリの方からもメッセージが入った


「八王子ダンジョンの調査に宗片十四郎氏が名乗りを上げてくれた。できれば先日の彼女も同行してほしい。

それと、宗片氏は君が同行することが条件だと言っている。検討を願いたい。木次谷」


 木次谷さんからのメッセージだ。

 どうやらマジらしい。


「檜村さんたちも一緒でいいですか?」


 メッセージが入力中の表示で止まった。考え事でもしているかのようにしばらく間があく。


『邪魔しないならいいよ』









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