第45話 魔討士協会での会談

  今まで、伊勢田さんに言われるまで、ダンジョンに共通性があるというのは考えたこともなかった。

 でも、共通性があるとしたら、ルーファさんのようにこっちに迷い込んだり、もしくはこっちから向こうに行ってしまう、というケースもあり得ることになる


 ただ、師匠まで巻き込んでいろいろと工作をしてルーファさんを隠した以上、実は前から隠してました、ではすまないわけで。

 檜村さんと打ち合わせをして、八王子ダンジョンで人影を見た、魔討士のものではないと思う、という筋立てで話すことにした



 魔討士の協会は支部と言うか討伐の報告をしたりするための窓口はわりとあちこちにあるけど、本部は新宿にある。

 旧都庁は今は新宿にダンジョンが出来たせいで一部が明大前の方に引っ越してしまって、開いたフロアに入っているって感じだ。


 でも、この本部は殆ど来る機会がない、というか必要がない。

 先日ダンジョンアプリで配信された、銀座のダンジョン討伐のインタビューを受けに来た時と、資格を取った時の認定の時だけだ。


 事前に連絡しておいたから、受付で話したらすぐに応接室に通された。

 結構立派な部屋だ。

 ふかふかの紺色のソファに部屋の中央にはきれいなローテーブルが置かれていて、その上には花まで飾られていた。もっと会議室みたいなところに通されると思ったんだけど。

 エアコンが適度に効いていて快適だ。


 壁際には棚が置かれていて、本とかパンフレットとかが整然と並んでいる。

 立派な部屋なんだけど、壁には魔討士の宣伝ポスター、来たれ才能あるもの、君が必要だ、などというキャッチフレーズがでかでかと書かれたものが貼られていてミスマッチ感ある。


「魔討士協会って何なんですかね」

「そうだな、弁護士会みたいなものかな」


 檜村さんが答えてくれるけど、僕にはさっぱりその例えではわからなかった。

 とりあえず資格を撮ったら強制加入させられる団体。

 魔討士でつくる組織で、モンスターが残すライフコアを回収することにより討伐点を換金したり、評価点やランクの管理をする民間団体、ということは僕でも知っている。


 魔討士の資格自体は国家資格だけど、この団体に属していないとランクとかが認められないし、ライフコアの換金にも支障が出るから、実質的に活動できなくなる

 一定期間しないと資格を停止されたりもするらしい。


 ただ、ランク外の魔討士と言うのもいるという話もまことしやかに語られている。

 つまり協会所属はしない、能力だけを持って活動している魔討士。


「なんでこんなややこしいことしてるんですかね」


 国の資格なんだから国に一任でもいいと思うけど。


「民間の方が、色々と制約が少ないのだろう。国の組織にするとなにかと時間がかかるからね」


 最後に多分ね、と付け加えて、檜村さんが答えてくれる。

 出されたコーヒーを飲みながら暫く待っていたら、ドアが開いてちょっと太めの男の人が入ってきた。



「お待たせしてすみませんね」


 男の人が頭を下げてくれる。こっちも立ち上がって頭を下げた。


「初めまして、私はここで働いています。木次谷といいます」


 そう言いながら名刺を出してくれる。当然の如く僕はそんなものは持っていないわけだけど。

 名刺には日本魔討士協会・総務部門統括部長と書いてあった……結構偉い人だろう、と言うことくらいは僕にも分かる。


「初めまして、僕は……」

「いえ、分かっていますよ。銀座の英雄、片岡水輝さんと檜村玄枝さん」


 丸い顔ににこやかな笑みを浮かべつつ木地元さんが言う。


「すみません、時間を頂いて」

「いえいえ。ところで、大事な話と聞きましたが」


 そう言って木地元さんがソファに腰かける。

 とりあえずこっちで立てた仮説と言うほどの者でもないけど、それを話してみた。


「なるほど、仙台と八王子、それに君の何度か遭遇したダンジョンはすべて共通している。そして

その野良ダンジョンで人の姿を見た、とこういうことですね」


 説明すると勿論、ルーファさんのことは言えないから、人の姿をみた、ということにしたけど。

 仙台についてもルーファさんに動画を見てもらったけど、似ているというより現れるモンスターは同じという話だった。

 ある程度の法則性と言うか共通性はある気がする。


「そうですか」


 木次谷さんが顎に手を当てて考え込む。

 とりあえず、これでどうなるってわけでもない。ただ、情報として知っておいてもらうことは意味があると思う。


「よくわかりました。ありがとう」


 木次谷さんが顔を上げてにこやかに笑った


「いえ、どういたしまして」

「……君たちの連れの異世界の彼女にもよろしく伝えて下さい」



 ズバッと言われて、コーヒーを吹きそうになったのを辛うじてこらえた。でも隣であからさまに檜村さんがせき込んでしまったので台無しだった。

 動揺しているな……普段はあれだけ落ち着き払っているというのに……

 木次谷さんが苦笑いしながらハンカチを差し出してくれたけど、檜村さんがそれを手で制して自分のハンカチで口元をぬぐう。


「ああ、やはり君たちの連れている彼女はそうなんですね」

「知ってたんですか?」


 まあこうなってしまうとごまかしても無駄っぽい。

 ぽっちゃりした顔に人のよさそうな笑顔を浮かべているけど、視線は鋭い。偉い人っていうだけあるのかな。

 

「まあ、彼女は何というか。目立ちますからね。それに今や君たちは有名人ですし」


 木次谷さんが苦笑いをしながら言う。

 あの周りには魔討士協会の人もいただろうから報告が上がっていても不思議じゃないか。

 でも。


「なぜ……何も言わなかったんですか?」


 あんまりあっさりしているので、色々考えて隠したのがばかばかしくなってくるな。

 木次谷さんが少し考え込んだ。

 

「まあいいか。理由は3つあります……一つは明らかに敵対的ではなかったことですね」


 木次谷さんがお茶を飲みながら答えてくれる。

 まあ、八王子ダンジョンに僕等で入って行ってるんだから敵対的も何もあった物じゃない。


「二つ目は……我々も決して人手が足りているわけではないんですよ、恥ずかしながら。

もし彼女が敵対的、というか問題を起こす存在なら別でしたが……当面は何事もなさそうでしたしね」

「なるほど」


 これはいいつつ木次谷さんも若干気まずそうだった。

 立派な組織に見えるけど、全方位をカバーできるってわけでもないのか。


「そして三つめは」


 勿体つけるように木次谷さんが言葉を切った。


「もういるんですよ。同じような人が……情報は彼から聞けばとりあえず事足りたんです」


 しれっと木次谷さんがつづける。

 今度はこっちが驚く番だった。


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