第56話 異世界の騎士と対峙する・上
「ne öld meg őket!elfog!
Ez a parancsom!!」
「「「「Megállapítás!!!」」」」
言葉は分からないけど、命令とそれに対する応答なのはわかった。
目の前のそいつが高らかに叫ぶと、周りの山羊の仮面が同じ言葉で応じる。
明らかに見た目は子供なんだけど。こいつが指揮官か。
「気をつけて下さい、カタオカ様!
こいつらは恐らく……サンマレア・ヴェルージャの騎士です……竜、鷹、山羊の順で手練れのはずです。梟は魔法使いです」
ルーファさんがよく通る声で教えてくれる
前半の名前は国の名前っぽい。
やっぱりこいつらはルーファさんの世界の連中で、あの境界線の向こうは別の世界と言うか、ルーファさんがいた世界ってことか。
目の前の人……というか子供を見る。ミノタウロスの部屋にいたあいつと同じ、嘴を模した仮面。これは鳥ではなく鷹らしい。
見渡すと、8人が山羊、1人が鷹だ。梟はいない。
手練れ、といわれてもどの程度なのか……でもやるしかない。竜じゃなくて良かったと思おう。
中にももう一人鷹がいたけど……宗片さんを信じるしかないか。というか人の心配をしてる場合じゃない。
それに、鷹の上に竜がいるのなら、あの人で鷹に勝てないのならシャレにならないぞ。
刀を構えて間合いを図る。
5メートルほどあるけど、風なら十分射程距離内だ……ただ、見た目があからさまに子供だから、改めて向かい合うとこっちから仕掛けにくい。
「なあ、お前?」
鷹の仮面が口を開いた。日本語だ。
こいつだけは翻訳の魔法のようなものを使えるってことかな。
「お前、なんでこんなところに居る?お前が
小柄な体に似合わない大振りのメイスを肩に担ぐように構えたままで彼が聞いてくる。
「ソルヴェリアのクソ連中じゃないとこはわかるが……
そいつが探るような目で僕を見上げる。
どう答えればいいのか……でも、日本の高校生です、といっても通用するわけはない。
その子がやれやれっ感じで、軽く首を振った。
「まあいいや。大人しく武器を捨てな……そうしないならひねりつぶすよ。お前もあっちの奴もなかなか強い。でも、ボクほどじゃない」
鷹の仮面が自信満々な感じでメイスを一振りした。
地面に散らばっていた石の破片がぱらぱらと震える。
「傭兵ならどこのものだ?その赤い回廊への門はどうやってつなげた?大人しく話せ」
「……少なくとも傭兵じゃない」
「なら単なる流れ者か?
その流れ者がわざわざ
……今の話でなんとなくわかった。
ルーファさんと同じ世界の国の誰かなんだろうけど、ここで会ったのは偶然だ。
意図的にここに門を開けたとかじゃなくて、僕等にとっての野良ダンジョンが現れたようなものなんだ。
僕がなんでこいつらここに居るんだ、と思っているのと同じように、こいつらも僕等をそう見ている。
「いずれにせよ、この人数で
……ああ、捨てないのか。なら仕方ないね」
こいつらとここで戦う理由がない……どうにか戦いを避けられないものかと思ったけど。さすがに鎮定を捨てることはできない。
こっちの無言を否定ととらえたのか、鷹の仮面の子供がメイスの矛先を地面に突き立てる。
石畳が一瞬震えて、メイスに磁石が砂鉄を引きつけるかのように、石の塊が次々とくっついた。
★
その子供がメイスを振り上げる。先端のサイズが岩で倍近くまで膨れていた。
訓練場で見たバランスボールのデカイの位のサイズがある。
小さな子供がそれをもっているのは、なんというかCG映像を見ているようなシュールな光景だ。
「なんじゃそりゃ……」
「ほら、行くよ!」
一声上げて、そいつが踏み込んでくる。岩の塊が重さを感じさせない速さで振り回された。
風で逸らせるサイズじゃない。
後ろに飛びのく。その目の前を岩の塊が横切って行った。風圧で髪が浮く。
「どうした!」
メイスを軽々と振り回してきた。
トロールの剣とか前に戦ったオーガの棍棒並みだ。受け止めたらひとたまりもない。というか、鎮定が折れる。
体をかすめるたびに背筋が寒くなる。
……でもさっき見た宗片さんの斬撃ほどじゃない。アレを見た後だと少しは落ちついて対処できる。
それに振り回すのも力任せで、速くて迫力はあるけど動きは単調だ。
宗片さんみたいに隙を見せるふりをして罠を張っている感じでもない。付け入るスキはある。
「逃げてばっかりじゃないか!」
「そうじゃないさ」
横薙ぎを一歩下がって躱す。もう一度振り回してこようとするよりこっちの方が早い
「一刀!破矢風!鼓打!」
普通の破矢風だと斬撃を飛ばすことになる。当たればただじゃすまないし、流石にそれは気が引けた。でも、これなら少なくとも死にはしないはず。
刀を振り下ろすと小さな手ごたえがあって風が飛んだ。
メイスを振り抜いた姿勢。防御も回避も間に合わない。
命中すると思ったけど、不意に小さな石の塊がそいつの周りに渦巻くように浮かんだ。ハンマーのような風の塊が小石の壁にぶつかる。
何かが衝突するような低い音がして、風が吹き抜けた。
防がれた?
「へぇ、風使いか?でも大したことないな」
そいつがまたメイスを振り回してきた。まったくダメージは無さそうだ。
隙だらけかと思ったけど、防御も万全なのか……手ごわいというか便利な能力持ちだ。
下がるな、活路は前にある、というのは師匠にも鎮定にも言われたことだけど、流石にこのサイズの岩を振り回されると前に出たくても難しい。
ただ、逃げてばかりじゃ勝機は無い。どうにかしないと。
「その程度かい?」
そいつがまっすぐメイスを振り下ろしてくる。避けようと思ったけどその時気づいた。
この位置は後ろに……檜村さんがいる。
◆
ちなみに、前話の異世界語はハンガリー語。
順に
「何が起きた?」
「やるじゃないか」
「みんな、そいつを制圧しな」
「ボクが相手をするよ」
「成程、言葉が通じないのか、面倒だな」
今回のは
「殺すな、捕らえろ。命令だよ」
「承知しました」
こんな感じです。
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