第21話 一目ぼれは魂の声か、遺伝子の合図……かどうかは僕は知らない

 あの戦いと出会いから一週間が過ぎた。

 今日は代々木の訓練施設でトレーニングして駅前のファミレスで昼ご飯を食べている。あの如月は今日は来ていなかった。


 今日は三田ケ谷も付き合わせたけど。剣の稽古とかはせずランニングマシンで走ったり筋トレをして遊んでいるだけだった。

 何度目かの勧誘もしてみたけど、相変わらず反応は芳しくない。


「僕の刀なら風で援護できるし、檜村さんは魔法使いだ。援護してくれるからさ」

「そういうのじゃねーんだよな」


 そう言って三田ケ谷が鉄板の上のステーキの最後の一枚を口に運ぶ。

 机の上のスマホがアップデイツの着信音を鳴らした。檜村さんか。


『今どこだい?』

「代々木に居ます。駅前です」


『そうか、近くに居るから合流しても差し支えないかね?』


「知り合いが来るんだけど、いいか?」

「ああ、別にいいぜ」


 三田ケ谷がいつも通りの口調で返事して、ドリンクバーの方にグラスをもっていった。


「大丈夫です」

『そうか、ありがとう。じきにつくよ』


 メッセージを打ち返している間に、三田ケ谷がコーラを入れて戻ってきた。


「檜村さんって、あの学校に迎えに来てた綺麗な人だろ?今から来るのか?」

「そうだけど」


「だってよ……お前等のパーティに入ったら、お前等のラブラブな姿を見せつけられるんだろ?嫌だよ」

「そういう関係じゃないって」

 

「じゃあどういう関係なんだよ」


 三田ケ谷がコーラを飲みながら聞いてきた。

 そう言われてみると、僕等の関係はなんとも言葉で表現しにくい。

 パーティの仲間、と言うだけの関係ではないと思うけど、恋人とかじゃない。というか檜村さんがどう思っているのか分からない。 

 考えているうちにスマホが着信音を鳴らした。


『今着いたよ』


 メッセージがスマホに表示されてちょっとの間を置いて、檜村さんが入ってきた。

 その後ろにはルーファさん。店内を見回した檜村さんが僕を見つけて軽く手を上げた。



 二人がこっちに向かってくるけど……店中の注目を集めているのは分かった。 

 美人とエキゾチック美少女の組み合わせだから当然だろうけど。


「ご無沙汰してます、カタオカ様」


 そう言ってルーファさんが僕に跪きかける。檜村さんが咳払いを一つすると、慌てて普通に礼をした。 

 僕の向かいではぽかんとした目で三田ケ谷がルーファさんを見ている。


 ゆったりしたアオザイ風の白いワンピースを自前の赤い飾り帯で締めている。薄い白い生地が日焼けしたような肌に映えていた。ふわっとした紺色のパンツがスリットから覗く。

 今日は顔にペイントはしていないけど、翻訳の魔法の為か喉にはなにか塗っているんだろう。長い黒髪を後ろでまとめていてリボンで止めていた。

 

「私の服だ。少し大きいがなかなか似合っているだろう?」


 何やら自慢げに檜村さんが言う。確かに可愛い。檜村さんは結構衣装持ちなんだよな。

 アオザイっぽい感じの服がエキゾチックな顔立ちに良く似合っていた。ちょっとサイズがあってなくてゆったりした感じなんだけど、それがまた可愛い。

 しかし、一緒に来るとは思わなかった。


「連れて来たんですか?」

「まあ仕方ないとはいえ、じっとしていないんだよ。私の留守中にそこらを勝手にうろつき回られては困る」


 檜村さんが珍しくうんざりしたような口調で言う。まるで迷い猫みたいな扱いだな。

 まあ彼女にしてみれば全く違う世界で、おそらく文明レベルはこっちの方が上だし見るものすべてが面白いんだろう。連れてきたのは、一人で面倒を見るのに疲れたのかもしれない。


「それはお疲れ様です」

「ああ、そうだ。もう一つ困ったことは……」


「なんです?」

「下着を付けたがらないことだな」


 真顔で言われてコーヒー吹きそうになった。

 思わずルーファさんを見る。主に胸元を見てしまうけど。


「ああ、安心してくれ、今は付けている、というか付けさせているからね」


 この人はからかっているのか真面目なのか。


「聞いてみたが、彼女の元の世界の生活は我々で言うところの15世紀ほどの少数の遊牧民のような生活だったようだ。物資も十分ではなかっただろうし、彼女の風習にはなかったのかもしれないね」


 いつもの調子で言いながら檜村さんがメニューを開いた。

 どうやらからかったとかではなく真面目な話だったらしい。



「この子……誰だよ、片岡」


 一通り頼んだ料理が来たところで、真剣な目で三田ケ谷が聞いてきた。檜村さんはカルボナーラのスパゲッティ、ルーファさんはベーコンのピザとフライドポテトの大だ。

 言っていいものか。目で檜村さんに同意を求める。少し間があって、檜村さんが頷いた。


「絶対に誰にも言うなよ」

「分かった」


「本当に大丈夫か?」

「ああ。誓う」


 いつになく真剣な口調で三田ケ谷が言う。

 とりあえずルーファさんのことを手短に説明した。


「異世界の女の子ってことか?一人でこっちに?」


 信じられないって顔でルーファさんを見る。彼女はその視線に気づいていないのかピザを美味しそうに食べていた。

 なんか少し見ないうちにちょっと血色がよくなった感じがするな。

 

「ウソを言ってない限りはそうだと思う……で、多分嘘は言ってない」


「日本語は通じるのか?」

「なぜか通じる。なぜかは僕に聞くな」


 彼女の翻訳の魔法と言うか術と言うかそういうのが無ければ意思疎通がとてつもなく大変だっただろうから助かっている。

 ただ、どういう仕組みなのかとかはさっぱりわからないし、聞いても分からなかった。

 分からないものは分からないでいいじゃないか、世の中にはそういうものはある、便利だから良しとしよう、というのは諦めたような檜村さんの弁だ。


 三田ケ谷がカップに残っていたコーヒーを飲み干す。ルーファさんの方を見て何度か深呼吸をした。

 

「ルーファさん」

「はい」


 三田ケ谷が呼びかけて、ルーファさんが顔を上げる。ピザを頬張りながらってのがなんとも様にならない感じだけど。


「俺は三田ケ谷宗助っていいます。17歳、高校生です」

「はい。私はサナルーファ・アイ・ニルーサ・グルチェフェグルと申します。ジェルキ族の戦士階級です」


 ピザを飲み込んで、ルーファさんが礼儀正しく返答する。

 三田ケ谷がもう一度深呼吸した。


「良かったら……俺と付き合ってもらえませんか」


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