第13話


(13)



「おい、ロボ男」

 

 砂嵐の中、影が言った。


「記録してくれ。俺が消える瞬間を」


 ロボ男の頭部が動く。

「もういいさ。別に怒りやしねぇよ。どうかしちまったのか・・俺さ。今ここに至ってなんかさ、何かを残したくなったんだ」

 ロボ男の十字の目が影見つめる。


 ピピ、音が鳴った。


 影の向こうに『夜』見えた。


「残念だ」


 段々と『夜』が迫り、『夜風』が沢山影に纏わりつく。

「ロボ男」

 ピピ、反応する。

「絶対俺の代わりに『ブジ』に行き『あいつ』に会ってくれよ」

 ピピ、頭部を回転させる。

『夜』が完全に巨大なカーテンになり迫ってきた。その時、ロボ男の感知システムが反応した。

 それは有機生命体の反応だった。ロボ男が驚いて頭部を360度回転させる。それはある方向で止った。その反応は影に対して感知されたのだ。


 影が震えるようにして話し出す。


「あれ・・なんだこの温かさ・・これって俺が忘れていたもの・・ああ・・これはそう‥俺が人間だった時の温かさだ・・思い出した。俺は大和雄介ヤマトユウスケ、四十二歳、妻は裕子、娘の名は真理・・そう俺は上海にエンジニアとして働いていてある日突然、地球上をあの忌まわしい光体が覆ったんだ!!核・・あの悪魔の輝き・・それで俺は一瞬で消え去りこの魂だけが、影として焼け付いて・・今まで影として生きて来たんだ・・」


 思わずロボ男が身体を砂から起こした。


「そう俺は家族、愛しい娘、美しい妻に・・懐かしい人々に会いたくて帰りたくて歩いてきたんだ」


 影を捉える感知反応の熱量が上がる。


「そう、俺は会いたかったんだ!!・・『あいつ』ら・・もう消え去っちまった・・あのばかばかしくも愛しい人間達に・・」


 そこまで言うと『夜』が影を覆った。『夜』のカーテンに影の身体が触れ、ゆっくりと同化していく。

 影がロボ男を振り返った。


「ありがとな・・」


 呑み込まれていく寸前、影の手が突然ロボ男の面前に伸びて来た。それをロボ男がしっかりと握る。

 それから何度も何度も強く振った。

 『夜』がロボ男を覆うと、影の手はロボ男をひとり夜の世界に残して音もなく消えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る