9.ミッシングアワー~都市伝説妖怪譚~

9-1.ミッシングアワー~都市伝説妖怪譚~

 いつもの神社の昼下がり。化け狐の天子は居間で畳に寝そべってテレビを眺めていた。

 最近は毎日のようにこの家に来ている駆人が今日は来ていない。

 駆人がいなければ、怪奇ハンターとして名を馳せている天子であっても、都市伝説退治の仕事はできない。だから、こうして暇を持て余しているのであった。

 面白い番組をやっていないかとあちこちチャンネルを回してみたり、喉が渇いたからと麦茶を飲んだり、気だるげに窓の外を眺めてみたり。

 いつもこんなに暇だっただろうか、などと考えているうちに、まどろみの中に落ちていく……。


 一方その頃、空子は買い物からの帰り道。

 最近は天子がよく駆人を連れて都市伝説退治に行くので、こういった家事は空子の役目になっている。

 その駆人も特に仕事がないときは掃除なんかを手伝ってくれるし、神社に来ていない今日も出かけた先で都市伝説騒ぎに巻き込まれていたらしい。下手をしたら本職の怪奇ハンターである化け狐姉妹よりも働き者かもしれない。

 天子も家事を全く手伝わないというわけではないのだが、もうちょっと気が利くと空子としては助かるというものである。

 などと考えているうちに神社にたどり着いた。家の中からテレビの音がする。天子が見ているのだろうか。

「姉さーん。買った物を運ぶの手伝ってくださいー」

 玄関から声をかけるが、返事はない。

 荷物を置いたままテレビの音のする今の戸を開けると、天子が腹を出して寝転がっている。

「姉さん。そんな恰好で寝てると風邪をひきますよ」

 声をかけると、天子はパチリと目を開けた。体を起こして伸びをする。

「むにゃ……。おお、空子。帰っておったか」

「ええ。お昼寝は結構ですが、テレビはちゃんと消してくださいね」

「すまん。……、む。リモコンはどこにやったかのう」

 天子は部屋の中を見渡すが、手が届く場所にはない。ちゃぶ台の上にも、テレビ台の上にも、リモコンはない。

「空子よ。リモコンの行方を知らぬか」

「今帰ってきたところなんだから知るわけないじゃないですか。寝る前までは姉さんが見ていたんでしょう?」

「そりゃそうじゃが……。すまんが一緒に探してもらえるか」

 なくした人が見つけるべきだろう、と、空子は思ったが、見つからないままでは不便なのは確かなので、取り合えずその辺を探してみる。

 ゴミ箱の中、座布団の裏、本棚の上……。ありそうなところは探してみたが、一向に見つかる気配はない。天子も這いずりながら探しているが、やはり見つからないようだ。

「他の部屋に持って行ってしまったんじゃないですか?」

「テレビの前以外で使うものではないが……。確信は持てん」

「じゃあ、念のため隣の部屋も見ておきましょう」

 空子は隣の部屋に向かうために、今とその部屋を隔てているふすまを開ける。

 ……。

「あら? 何を探しに来たんでしたっけ」

 この部屋に足を踏み入れた途端、自分が何のためにこの部屋に来たのかを忘れてしまった。腕を組み、唸りながら思い出そうとするも、全く思い浮かばない。

 いくら考えても先に進まなそうなので、取り合えず居間に戻る。

「姉さん。私、何を探しにあっちへ行ったんでしたっけ?」

「何って。リモコンじゃろ?」

「あ、そうでした」

 そうだ。リモコンを探すんだった。思い出したところでまた隣の部屋に行こうとした瞬間。

ガッ

「あああああ!」

 近くにある本棚の角に思いきり小指をぶつけてしまった。足を抱えて、体を丸めて床に転がる。

「ど、どうした。大丈夫か」

「え、ええ。なんとか……」

 心配そうに見つめる天子に、空子は辛うじて返事をして起き上がり、隣の部屋に入る。今度こそ探し物を見つけなくては。

 ……。

 何を探すんだったか。

「姉さん。探し物ってなんでし……」

ガッ

「痛いいいいい!」

 今度は居間に向かって体を返す時に小指をぶつけた。

「な、何かがおかしいぞ」

 そそっかしい天子ならともかく、しっかり者の空子がここまでの醜態をさらすことは通常あり得ない。それがこんなに連続で起こるという事は……。

「妖怪じゃ! 妖怪の仕業じゃあああ!」

「そうなのね!?」

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