7-4.end

 三人はそろってゾンビに追われて砂浜を駆け回る。もはやゴーレム相手には為す術がない。背を向けて逃げ回るだけだ。

 ゾンビもそうだが、ゴーレムもあの巨体でなかなか足が速い。大股で砂柱を巻き上げながら砂浜を走り抜ける。

「ひーこら。どこまで逃げりゃいいんだ」

「確かもうすぐ……、あ! ここです!」

 空子が大きな声で指示し、それに従って三人は足を止める。

 しかし、ここで突っ立っていれば、ゴーレムとしては願ったりかなったりだ。追いついたゴーレムは三人を踏みつぶさんと大きく足をあげた。

「今です! 避けて!」

 三人は左右に飛び退く。空振りしたゴーレムの足は、砂浜にたたきつけられる……。と、思いきや、その足が想定外の深さまで砂浜にめり込む!

「かかりましたね。そこは先ほど駆人君やぽん吉君が埋められていた場所。穴はまだ残っていたんですよ!」

 あの四人で遊んでいる時だ。天子にボールをぶつけまくった駆人が埋められた後、空子にセクハラをかましたぽん吉も埋められ、ついでに天子も埋められた。もうその辺穴ぼこだらけだ。そのあと、海水浴客が磯でゾンビになってしまったので埋め戻されずにそのまま残っていたというわけだ。

 足を取られてバランスを崩したゴーレムが砂浜に倒れ伏す。すると、ジューという音と共に体表の水分が蒸発していく。

「ふふふ。どうですか? 真夏の太陽に熱せられた砂の味は!」

 嗜虐的な笑みを浮かべる空子が高らかに言う。ちょっと怖い。

「ささ。お二人共、もっと砂をかけてあげてください」

「は、はい!」

 駆人とぽん吉は素直を従って砂をかける。確かに火傷しそうな熱さだ。これはフジツボもたまらないだろう。

 ゴーレムの体表がだんだんと白くなってきた。乾燥が進んできたようだ。先ほどまで砂から逃れようもがいていたが、もうすっかりその動きも鈍くなっている。

「さ、あとはぽん吉君が決めてください」

「はい!」

 ぽん吉は垂直に跳びあがると、片足を伸ばしてゴーレムに突進した。

「狸ーック!」

 ぽん吉のキックが直撃すると、ゴーレムの体にひびが広がり、鈍い唸り声と共にその体は爆発四散した。フジツボや岩の欠片が辺りに降り注ぐ。

 フジツボゴーレムがいなくなると同時に、フジツボゾンビ達は一斉に動きを止め、その場に倒れる。しばらくするとフジツボの支配から解き放たれた海水浴客達は何事もなかったかのように起き上がり、すぐに元の海水浴場の活気は戻った。


「む、むむ……」

 ゴーレムの額に埋め込まれていた天子もようやく目を覚ました。

「あ、姉さん。気が付きましたか」

「うむ……」

 天子はしばらく寝ぼけまなこをこすっている。やはり何も憶えていないようだ。

「さ、俺達もそろそろ帰るか。バイトは夕方までの約束だったからな」

「おお、そうか……。んん? なんじゃこのフジツボは。あ! まさかお主ら、わしに内緒で磯遊びをしておったな!?」

「磯遊び……、というにはちょっとハードが過ぎたがな」

「ずるいぞ、ずるいぞ! わしも磯遊びがしたかった!」

 天子はじたばたと水飛沫をあげながら駄々をこねる。

「おい、あんまりわがまま言うなよ」

「それもそうじゃな」

「立ち直り早いな!」

「いい考えを思いついた。ちょっと待っとれ」

 そういうと天子は駆け足で海の家の方に走っていく。

 その後、駆人達が帰り支度をしている間、天子はゴーレムの残骸のあたりでごそごそと何かをしていた。


 海水浴場を後にした一行は再び電車に揺られ、神社に帰ってきた。

「うひひひ。これじゃこれじゃ。これが磯遊びの醍醐味じゃ」

 七輪に乗せられた網の上に並べられたフジツボの中身がおいしそうなにおいで焼けている。天子はあのゴーレムから剥がれ落ちたフジツボやその他の海産物を袋に入れて持ち帰っていたのだ。

「味噌汁もあるぞ。お主らも食うか?」

「いやあ。僕はちょっと」

「ええ。姉さんが全部食べていいですよ」

 フジツボの焼けるにおいはなかなか魅力的ではあったが、あれに張り付いていて、しかも発生源が天子であると思うと、どうも食欲が出ない。

「お、よいのか? 仕方ないのう。わしが全部平らげるとするか。はむ、美味しい! 蟹の味じゃな!」

 天子を乗っ取ろうとしたフジツボの末路は、果たして天子の腹の中だというのだから、因果応報というものだろうか。

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