4-4.end
漸く二人は公園までたどり着いた。
「ひい、ひい。天子さん速いですよ……」
「お主がついてくると言うたんじゃろうが。さて、カルトの奴は、と」
軽く見回すとすぐに見つかった。駆人は街灯の下で都市伝説の男と対峙して、顎に手を当ててうつむいている。近づくと、男の方がイライラとした口調で駆人に詰まっている声が聞こえてきた。
「早く決めろ。赤い紙か、青い紙か」
「ああ! 邪魔をしないでくれ! せっつかれると迷うんだ……」
「……、すまん」
どちらかと言うと、男の方が押されているように見える。
「カルトや、大丈夫か」
「あ、天子様。意外と早かったですね。綾香さんありがとう」
駆人は都市伝説と対峙していたにも関わらず、特に何もなかったという風に顔を栞達の方へ向けた。
「七生君、本当に大丈夫なの? 何かされたりは……」
「うん。大丈夫。それで、思い出したよ。この都市伝説は『赤い紙、青い紙』」
「そのまんまの名前じゃな」
「お手洗いで紙が無かった人の前に現れて、赤い紙が欲しいか、青い紙が欲しいか。と聞く。で、その質問に答えると、赤なら血まみれになって殺され、青なら顔が青ざめて死ぬ。血を抜かれるイメージですかね」
「それなら、どっちを選んでも死んじゃうんじゃ……」
「だよね。でも、こうやって答えを保留している間は大丈夫そうだから、その間に何とかしてもらえればと思ったんだけど……」
駆人は天子に視線を送る。
「ああ、わかったぞ。狐火ーム!」
天子の手のひらから光線が放たれ、男に直撃した。しかし、男はけろりとして立っている。
「やっぱり効かんか。都市伝説には違いないようじゃ」
「ですよね。弱点もあったはずだけど思い出せなくて……」
保留している間は攻撃してこないからと言って、このままずっとここにいるわけにもいかない。家に帰ってもついてこられるのもそれはそれで困る。どうしたものかと駆人と天子は首をひねった。
「こういう時はこういえばいいんじゃないの?」
栞が男の前に躍り出た。
栞の後ろから現れた少年が、栞の手をとって引き留めた。
「そう簡単にお化けの言うことを聞いちゃダメだよ」
木々の騒めきの中で少年の声はやけにはっきりと聞こえる。
「こうやってどっちかを選べって言われたときは、大抵裏がある。多分、どっちを選んでもあいつのいいようにされるだけだよ」
少年の手慣れた風な話し方に、段々と恐怖心が薄れてきた。
「どっちかなんて言われた時はそれ以外の選択肢を探すんだ。例えば今回なら、二つに一つの出口なんかよりは……」
少年が今来た道を指さす。
「入口なら元居た場所につながってるに決まってるじゃないか!」
少年が栞の手を引っ張って走り出す。強く腕が引っ張られる、すくんでいた足がもつれかける。でも、もう不安は感じない。
しばらく走ると、元の山道、生徒の列。ちょっとの時間だったからか特に騒ぎにもなっていないようで、二人は列にすっと入り込んだ。
その後、山頂広場での昼食の時間。少年の姿を見つけた栞はお礼を言おうと、一人で弁当を広げる彼を誘った。
「お化け達は普段は人間に手を出すことはできないんだ。精神的に参ってる時はそこに付け込まれるけど」
少年は生まれた時から霊感を持っているらしく、そう言った知識が豊富だった。
「だから、なるべく気を強く持たないとダメだよ。あと、幽霊が見えてもなるべく人には言わない方がいい。どうせ向こうからは何もできないんだって思ってね」
こわいものはこわいけどね、そう言いながら笑いかける。
栞は霊感を持って初めてお化けの怖さを人に理解してもらえた。それが、どれだけ心強かったことか。
「どうしても怖くなったら僕に言ってね。いつでも助けるから」
栞は笑顔を持って少年に応えた。
この出来事以降、栞はお化けを見たことを周りに言いふらすとこともしなくなった。周りに助けを求めた結果孤立する道でもなく。独りで恐怖に耐えるのでもなく。彼が示してくれたもう一つの道を信じることにしたからだ。
「どちらもいらない。って」
栞の言葉を聞いた都市伝説は、げんなりとした顔でとぼとぼと、しかしどこか解放感を感じる足取りで立ち去ろうとした。
「……。あ! 天子様、今です!」
「お、おお、そうか! 狐火ーム!」
天子が放った光線は見事都市伝説に命中。奴はこちらを恨めしそうな顔でにらみつつ、光の中へ消えていった。
都市伝説を退治した三人は、今度こそ栞を送り届けるために歩き出した。
「ところでシオリよ。お主、都市伝説を倒してしまったな」
「あ、やっぱりまずいんですか」
「うむ。この界隈は案外狭いからな。目をつけられたかもしれん。何か危険を感じたらすぐにわしらの所に来るがよい。それに、人手が足りんことになったら手伝いを頼むかもしれん」
「え、いいんですか」
栞が目を輝かせて答える。
「関わらん方がいいと言ったのは、あくまで無関係の時じゃったからな。関わってしまった今となってはわしらの目が届いた方がいい」
「ちょ、ちょっと待ってください天子様、綾香さんを危険なのことに巻き込むわけには……」
慌てた様子で口を挟んだ駆人の肩を、天子が抱き寄せて笑い飛ばした。
「安心せい。この子は見た目以上にタフじゃよ」
「私は大丈夫だよ。七生君」
天子はともかく、本人に言われてしまっては駆人としては返す言葉がない。
「それに、私が怖い目にあったら助けてくれるんでしょ?」
そう言って微笑む栞の顔は、
「青春じゃなあ」
天子はもう一方の腕で栞の肩も抱き寄せる。駆人と栞は、顔を見合わせて少し気まずそうに笑いあった。
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