1-ex.

 暗い夜道を歩いていると、白い服を着た長い髪の女性が前に立ちふさがった。すると、彼女は突然こう問いかけてきた。

「私、きれい?」

 彼女は顔にマスクをつけていて、全容を見ることはできない。しかし、それでも分かるほどに十分綺麗だった。首を縦に振って答えとした。

 すると、彼女はマスクの紐に手をかけて、もう一度問いかけてきた。

「これでも?」

 そのマスクの下の口は、痛々しい傷跡と共に耳まで大きく裂けていた。


 口裂け女の話は、もっとも有名な都市伝説と言ってもいいじゃろう。簡潔な話と、想像しやすいルックス。それに、実際に出会ってしまいそうな真実味。すべてが高いレベルでまとまっておる。

 口裂け女に関しては基になった人物がいる、という話もあるが、その出自も諸説ある。生まれつきだとか、怪我でとか、整形手術の失敗でとか。どれもその後に精神がおかしくなってしまった、と続くな。そもそも創作で、秘密組織が噂の広まり方を調べるために流した、というものもあるが、それ自体が都市伝説。眉唾の上塗りのそのまた上塗りじゃな。

 広まるうちに付加された特徴もある。マスクを取った後に刃物、包丁や草刈り鎌を用いて出会った者を殺すとか、不思議な力でやっぱり殺すとか。物騒なものがな。

 怖い話が付加されると、対抗神話もまた、作られる。

 有名なものではポマードと唱える、べっこう飴を見せる、などがある。小水をかけるなども聞いたことがあるが……、少々下品が過ぎるな。

 ポマードは彼女の整形手術を失敗した医者がつけていたとか、あるいは彼女は幽霊で、殺したものがつけていたとか。べっこう飴は嫌いだから嫌がる、逆に好きだから目を奪われているすきに逃げるとか。どちらにしろ、心霊的な要素が表に出ているな。

 あまり心霊的な要素に寄りすぎると真実味が失われて、わしとしては好ましく思わんが……、噂が無造作に広まった証左ともいえるかもしれんな。

 ま、暗い夜道と不審者には気を付けろという事じゃ。みんなも都市伝説ゲットじゃぞ。

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