第22話 ジンクス的妖怪
なんとかかんとかゴブリンのご機嫌を取る事が出来た。
今彼はムリアン達の伴奏に合わせてご機嫌に歌っている。正直ちょっとうるさい。
だがまあ忘れてた負い目があるからな。なんとも言えずそれを眺めていると、イリスが話しかけてきた。
「そういえばさっきの戦闘で、それなりにDPが入ったんじゃありませんか?」
「ん~、でもなんだかんだ言ってゴブリンだからな。そんなにたまってないんじゃないか? ガチャするにしても単発じゃなくてまとめてやりたいし」
特にこのダンジョンガチャは1回300DP。でも3000DP使うと10+1連で一回分お得だからな。別に俺は単発教信者じゃないから最低3000DPは貯めてやりたいところだ。
確かあのゴブリンが来る前のDPは1000ちょっとといったところだった。あれからゴースト二人の復活にDPも使ったし、さすがにまだ3000もはたまってないだろう。
そう思ったが、イリスは首を横に振って答えた。
「いえ、例えゴブリンといえどランクがあります。例えばただのゴブリンですと☆1相当ですが、ロード種になると☆3かもしくはそれ以上になります。倒したときに手に入るDPもそれに応じて増えていきます……」
「ふぅむ……。確かにあのゴブリンは強かったし支配的な地位についてたともうちゴブが言っていたな」
「加えて聖属性の魔法も使っていましたし。希少さも加味するとそれなりのDPが期待できるのではないでしょうか」
そうだな……。言われてみれば納得だ。早速確認してみるとしよう。
そうしてタブレットの画面を変移させて現れたDPは……。
「はあぁぁぁああ?」
思わず漏れ出た叫びにイリスは驚き手を止める。
「な、何ですかマスター、突然変な声を上げて」
「…………」
イリスの声に応える元気もなく、俺は無言でタブレットの画面を押しつける。
「はいはい、見ます見ますよ……。あら? やっぱり結構DPが入って……、って、ぷっくすす」
「くそっ、ああ笑わば笑えよ」
「いえ、はい。でもまさかポイントが2999だなんて。くすす」
このやろう、本当におかしそうに笑いやがった。でもこれを責める事は出来ない。だって逆の立場だったら俺も指さして笑うからな。
そうしてあらためてタブレットの画面を見る。何度見返してみてもそのDPは2999。1足りない。
畜生っ、もうこいつの呪縛からは解かれたと思っていたのに。まさか異世界でも会う事になるとはな、妖怪1足りないめ!
「しっかし、元々はガチャしないつもりだったけど、こう寸止めされるとガチャりたくなってくるな」
「だったらすればいいじゃないですか」
イリスが何を言ってるんだとばかりに答えてきた。
「いや、だから1足りないんだって」
「だからその分は補充すれば……」
はてとイリスは首をかしげる。
「あれ? 言ってませんでしたっけ。……いえ、確かゴミの処理の時に軽く説明したはず」
「ゴミの処理? …………ああ!」
思わずイリスを指さして叫んでしまった。
あった、あったわ。タブレットでゴミの処理をした時にDPが回収されるって言ってた気がする。
「もしかしなくても忘れてましたね?」
「お、おう」
「まあ、これまでゴミの処理でDPが入った事はなかったですから仕方ないですか……。あらためて説明しますと、DPのかかったものをゴミ箱に処理した場合、その何割かがDPとして回収されるシステムですね」
「ああ、なるほどね。今まで処理したのはデイリーガチャから出た物のゴミ。元々無料だから戻ってくるDPもゼロだった訳か」
「Exactly。ですのでガチャ産の不用の品を処分してDPを手にいれられればよろしいかと」
「何で英語! まあいいか。ふむ、不用なアイテムね……。なにかあったかな」
「アイテムに限らずモンスターでも大丈夫ですよ」
そう言ってイリスは意味ありげに視線を動かす。視線の先にはいい気分で歌っているゴブリンの姿があった。
「私のおすすめは調子に乗って騒ぐゴブリンですね。いなくなれば静かになっていいでしょう」
「!?」
イリスの言葉と不穏な空気にようやく気がついたのか、ゴブリンはびくりと肩をふるわせ、口に両手を当てて黙った。
どうやらイリスも騒ぐゴブリンをうざったく思ってたようだ。俺もそうだったが、何せ負い目があるからなぁ……、口には出せなかったというのに。
だがイリスはそんな事はつゆほども感じていないようだ。話を続ける。
「…………少しは静かになりましたか。いえ、冗談ですよ。呼び出したモンスターは削除できません。出来るのは呼び出される前のもの。言わば呼び出す権利を削除してDPを回収するわけです」
「ごぶぅ」
ほっと息をつくゴブリン。だがイリスは釘を刺すように付け加えた。
「あくまで今のところは、ですが」
「ご、ごぶっ!」
再び驚いたゴブリンはキョロキョロと辺りを見回し、今度はすがるように俺を見て手を擦ってきた。
「大丈夫だよ、どのみちそんな設定できないんだから。……今のところは、だけど」
「ごぶっ、ごぶごーぶ」
裏切られた、とばかりにゴブリンは肩を落としすがるものを探し周りを見回す。だが皆目をそらすばかりだ。
「冗談だよ、冗談。今回もお前がいなかったら詰んでたし、これからも頼りにしてるから、な」
ゴブリンの肩をぽんとたたく。そうして皆でひとしきりゴブリンをなだめたところでガチャをはじめた。
ちなみにDP回収のため削除したのはジャイアントコックローチだ。全くもってこいつを呼び出す予定はないからな。知能も低そうだし。
俺、昆虫食も含めてあんまり虫系に忌避はないけどあいつはダメなんだよな。アレを食べるとかとんでもない。まあ、食べるのはタガメの類もちょっと無理だけどな。蜂の子ぐらいなら全然いけるんだけどなぁ。
「そんな事はどうでもよろしいです」
俺の心の言はイリスに一刀のもとに斬り捨てられた。
「だから俺の心を読むなよ!」
「変な顔をしているからです。大体そんな事を考えてるとデイリーガチャでも昆虫食が排出されるようになりますよ」
「それはいやだな……。チャラ神ならやってきかねないのも怖い」
食べられない事もないだけであって、好んで食べるようなものでもないしな。
「でしょう? ですからマスターはさっさとガチャをお引きなさいな」
「はいはい、わかったよ」
俺はタブレットを操作する。
……あれだな。イリスって虫が苦手なのかね。とは言えムリアンも見た目は虫みたいなものなんだけどなぁ。
チラリと足下を見ると、ムリアン達はそろって食べかすの片付けなんかをしている。こいつらも働き者だよなぁ。
……一人例外はいるけど。棚の一つを占領して眠りこけるムリアンを見る。あいつはある意味大物だよなぁ。
そんなことはいっか。とりあえずガチャろう。
俺は何の気なしにタブレットをタップする。するといつもはただ回るだけの演出の星が、今回は虹に輝いている。
「お? なんだこれ。もしかして確定演出か?」
今まで事前ガチャを含めたら何度もガチャってきたけど、こんな演出は見た事もない。いや、事前ガチャの時は俺の尊厳が決壊寸前で切羽詰まってたから、飛ばして覚えてないのかもしれないけれども……。
「なかなかに派手な演出ですね。期待できるかもしれません」
イリスの反応もよい。それなら一つずつ慎重に確かめていくのもいいかもしれないな。
ひとまずタップと……。くるくると回る星はそれをみっつにわけて止まる。よし、☆3か。出だしとしてはまずまずじゃなかろうか。
☆☆☆ バールのようなもの
「なんでこんなもの出るんだよ!」
思わず叫んでしまう。
「えっと種類は武器のようですね……。私にはただの大きな釘抜きにしか見えないんですが、マスターの世界ではこれは武器の範疇なんですか?」
「いや、ただの工具だ。だけど時折殺人事件の凶器に用いられる事がある」
「なるほど……、ならこれが出たのはマスターのせいですね」
「なんでさ!」
「だってこちらの世界ではこんなものが武器で出る事はまずあり得ませんから……。出るとしたら金砕棒やメイスの類でしょう」
「たしかにそうだけどさぁ」
イリスの言には一理ある。納得するしかない。
「それに、☆3というのも気になりますね。単純にマスターの世界のものだからレアリティが高いのか、それとも何らかの効果が付与されているのか。少し気になります」
「ふむ、さすがに画面で見ただけじゃ詳しい効果はわからないのか……」
「そうですね、ある程度一般的なものは知識としてインストールされていますが、特殊なものに関してはいったんリアライズして直接見ない事には……」
「そっか。ならその件はとりあえず置いておいて、ガチャを進めていくか」
次のタップで踊った星は二つ。☆2か~、ここら辺はサクサク飛ばしてもいいな。連打するか
ピピピン
☆☆ 罠A
☆☆ 罠A
☆☆ 罠A
「くそっ、かぶりかよ。しかも三つも」
「これはなかなかに珍しい、。……いえ、とてもマスターらしいかと」
ええいイリスめ、顔をにやけさせやがって。なんて小憎たらしい……。
まあでも☆2の罠Aは隠蔽に設定してあったはず。隠蔽の罠はいくらでも使い道はあるからな。ハズレというわけじゃないだろう。
次だ次。今はじけた星は三つに分かれた。☆3なら期待が持てるはず。
☆☆☆ 罠A
「何でまた罠!」
「……い、一応☆3の罠は初めてですよ」
ええい、変な慰めはいらん。次!
次は……、なんか低レアぽいな、飛ばすか。
ピピピン
☆☆ 部屋A
☆☆ 部屋A
☆☆ 部屋A
「今度は部屋かよ、しかもまたかぶるし」
「えっと……何かに呪われてるんじゃないですか? マスター」
イリス、本当に心配そうに見てくるんじゃない。なにげにそっちの方が傷つくわ。
だいたい呪いだとしたらそれはチャラ神の呪いだろうよ。あんにゃろめ、絶対に許さない。
今度はチャラ神への怨嗟を込めてタップする。
すると祈りが通じたのだろうか、金色に星が輝いた。
「あら、これは……」
「よし、きたぞきたぞ!」
☆☆☆☆ 囲炉裏ダイニング
「違う、そうじゃない」
「えっとこれはマイルームに設置できる部屋ですね。結構いいものですよ」
「多分火が使えるようになるだろうから、欲しいは欲しいけど……。そもそもマイルームのキャパはオーバーしてるから今出てきても宝の持ち腐れだ」
「まあ……そうですね」
「俺が今欲してるのはダンジョン構成要素なんだよ。中でも特にモンスターを」
今いる奴らに不満はないが、それでも今回の偉そうなゴブリンのような強敵を相手にする時はやっぱり不安がつのる。
ダンジョンのボスになり得るような、何か切り札的な頼れる存在が欲しいところだ。
もう残る排出は二回。願いよとどけとばかりに念じてからタップする。
☆☆☆ チェストトラップビースト
「いや、それはない」
チェストトラップビーストってあれだろ? 宝箱型のモンスター。確かにダンジョンの最奥にあったら冒険者を絶望に落とすだろうけど意味が違う。あとこれがダンジョンのボスだったら俺はいやだ。
モンスターチェアと同じテイスト、同じレアリティな事を考えると強いんだろうけどさ。これじゃない感がひどい。
「これでイミテーションモンスターが三種……。ある意味マスターの性格が表れているのでは?」
「うるさいよ」
人をだます性格とでも言いたいのかよ。
「まあ、ある意味ダンジョンマスターにうってつけの性格ではありますが……」
「ならいいじゃんかよ」
そんな事よりもガチャだ。残りは一回。
いいのが入ったらダンジョンの改装でもしようかと思ってたのに、このままじゃそんなの夢のまた夢。
なんとか、最後の一回はいいのが来てくれよ。虹演出がだてではないって信じさせてくれ。
…………願いが届いたか、今回も金色に輝きながら回る星。
「こい、こいよ~~」
ピンッ
☆☆☆☆ “
な、なんぞこれ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます