Cyber Sorcerer

高坂 悠壱

Break the Spell

invoke “the Spell”


『さーて、今回のお仕事の概要は?』


「予言者パンタレイ、及び機密情報の回収。機密情報には強固なプロテクトが施してある。三日やそこらで解除できるものではないとは思うが、万一情報の流出が確認された場合は、出来る限り食い止めること。尚、任務遂行中にけるあらゆる行為を許可する。お前が人を殺めようが何をしようが、我々が全責任を負う」


『好みの女性がいたらナンパしても?』


「冗談はよせ」


『はいはいオーケーオーケ。つまりはこうだ。お宅ンとこの最上位予言者プレディクタと機密情報が悪の組織に奪われちまって、このことが漏れたら椅子にゆったり腰掛けたお偉方がパニックになる。警備が甘いだの攻められるのも嫌だからさっさと取り返したい、でも今の段階で軍やら何やらを動かせば目立つし民衆にもばれかねない。成るくこっそりひっそり片付けたいから君一人でよろしくねウフッ! ……って、ことだろ?』


「……理解が早くて助かるよ全く」


『この件さえ片付けることができれば、後からサッサと堂々とシンジケートを潰せるもんなァ? 奴らの〝悪いことやりましたポイント〟は貯まりに貯まってと交換できる状態だし、突撃時のお題目には事欠かないだろうよ。君らが派手に攻め込めば攻め込む程、民衆の目には君らが勇敢で素敵に映る。俺はそのパフォーマンスのお膳立て、ってか? 毎度損な役回りだニャー、全く』


「皮肉と愚痴なら後でたっぷり聞いてやる。それより、こちらとしては一刻も早く動いて欲しいんだがな」


『はいはい解りましたよ。んじゃー、事前に解ってる相手さんのことと周辺の歪曲地点の位置を転送してくれ。あと、報酬はいつもンとこに振り込んどいてね。それじゃ』


 通信が切れて暫く経った後、


「あの、信用に足る人物なのでしょうか? 今のではとても……」


 傍らに控えた青年から不安げに問われ、壮年の男は答える。


「腕は確かだ、そこは信用していい。単騎ソロであれ以上の奴は居ないだろうよ。ただ――性格に些か問題があるが」


 吐き出した呆れの溜息は、澱のように沈んで行った。




   ***




 十八世紀後半に起こった産業革命以降、人類は急速に科学技術を発展させた。


 だが、その進歩を得るために炎へとべたものが〝星の寿命〟であったのだと人々が気付いた二十世紀。この星は、既に滅びの運命を歩み始めていた。

 人々は焦った。この侭では、自分達自身で生活圏たる青の惑星を食い潰してしまう――という理由だけではない。この侭では、愛する人が、子孫が、或いはそれに類する愛すべき存在が、何より最も愛しい自分という存在が平穏に暮らせなくなるのではないか。


 そんな博愛と共存意識と自己中心的な焦燥と危機感、或いは使命感によって、この星は幾度となくを施されてきた。そして、の反動で異常が起こる度に文明が壊れ、対症療法が成されてきたのだという。つまりは、その場凌ぎの緩和を繰り返してきたに過ぎない。


 無茶なが原因で、度々地殻変動や異常気象等の災害ほっさが同時多発する。


 しかし、今より遡ること約四世紀。

 通称「再生の日」に――これまで通りの災害に加え、が起こった。


 決定的な異変とはつまり、「世界を構築するモノの変化」である。

 再生の日以前は、原子のみが物質の基本構成要素であった。だが、再生の日以降、それは二進数的性質を持つモノ(便宜的に「二進数」と呼ぶ)へと塗り替えられた。


 くして、万物は二進数より構成されている。但し、ヒトを除いて。


 とはいえ、物事には常に例外がついて回る。即ち、唯一例外的に原子より成る生物「現生人類ホモ・サピエンス・サピエンス」にも、更に例外が存在することにほかならない。


 その例外こそが、原子と二進数からなるヒト「中立子ちゅうりつし」だ。


 彼らは、生まれながらにしてIDという己の識別コードを認識している。それを次元の亀裂たる歪曲地点で発語入力――開錠詠唱ログインすることで、魔法や超能力の如し構築式プログラムが使用できるのだ。

 中立子だけが、現次元へと亀裂より漏れ出た歪曲世界(歪曲空間)や、二つの世界を経由する目映い光輝を知覚しうる。


 情報と原子の海のダイバーたる彼らには、とある外見上の特徴があった。瞳や髪の色素発現種類の豊富さである。

 例えばそれは、桃色の虹彩であったり、青い髪の毛であったり、それから――東洋人らしからぬ茜色のまなこであったりするのだ。

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