日本が破綻したので異世界に移住します ~神の祝福でまったりファンタジー生活~

直井ひさ

第一章

第1話 日本破綻

月曜日の朝。社会人にとっては最も憂鬱になる時間帯である。


俺の名前は、猛津もうつ 彼太かれた。一般的なブラック企業に勤めている32歳の会社員だ。


俺はいつも通り、パソコンでネット配信のニュース動画を流しっぱなしにしながら身支度をしていた。


スーツに袖を通し終わったところで、突然とんでもないニュースが飛び込んできた。


『日本政府が破綻を宣言』


テロップには確かにそう書いてある。外国からの借入金が返済できなくなったらしい。


ニュースキャスターによると国民生活はこれからより一層厳しいものになるとのことだ。


確かに衝撃的なニュースだが、驚きはそれほどなかった。


すでに日本の消費税は30%で医療費は8割負担、年金支給開始年齢は85歳だ。非正規雇用の割合は60%を超えており、貧困を背景とした自殺の増加で去年の年間自殺者数は10万人を超えている。


日本の生活環境は悪くなりきっており、破綻するのはだれの目にも明らかだった。だから日本が破綻したと聞いても驚かない人は俺以外にも大勢いるだろう。


だけど、ニュースで言っていた国民生活がさらに厳しくなるってのは気になるな。


この家賃の安いボロアパートに住んでいてもギリギリの生活だっていうのに、これより悪い生活になってしまったら一体どうすればいいんだ。


先のことを考えると暗い気持ちになってしまう。


とその時、いきなりスマホのアラームが鳴った。家を出る時間のようだ。


「おっと、もうこんな時間か」


出社タイミングを知らせるアラームは、絶対に遅刻しないようにかなりの余裕を見ている。


万が一遅刻してしまうと鬱になってしまうくらい上司から追い込まれるからだ。それが原因で精神病院から出てこない同僚が何人もいる。


俺は壁に立てかけてあったバッグを手に取って家を出た。



―――



駅は沢山の人々でごった返していた。電車が全くホームに入ってきていないようだ。


駅のアナウンスによると、人身事故で運転を見合わせているらしい。運転再開時期は未定だ。


日本破綻の影響で先物が大暴落したらしいからな。飛び込んだ人が何人かいるのだろう。


この感じだと電車が動き出すのには相当時間がかかりそうだな。バスで行くとするか。


駅の近くのバス停に歩きで向かった。電車が止まっているから当然だろうが、バス停の周りにも大勢の人が並んでいた。だがバスの方も人の波に負けないくらいひっきりなしに発着している。駅ほど深刻な状況にはなっていないようだ。


なんとかバスに乗り込むことができた俺は、最終的に遅刻せずに会社に到着することができた。


「おい、猛津! こっちに来い!」


職場に入るやいなや、怒り気味の乱暴な声が飛んできた。


この声の主は今まで何人もの社員を退職に追い込んできたパワハラ上司の大和田部長だ。


「はい! 今行きます!」


返事が遅れると10分くらい嫌味を言われてしまうので、自分の机に寄らずにすぐ部長の所へ向かった。


「これにサインをしろ」


俺に向かって部長は一枚のA4用紙を机の上に放り投げた。


その紙には細かい文字がびっしりと書かれていた。文面からすると何かの契約書のようだ。


「これは……何の書類でしょうか」


「チッ……黙ってさっさとサインしろ!」


部長が不機嫌そうにボールペンを放った。


さらに聞き返すと部長が逆切れするだけなので、ここは大人しくサインをしておこう。


「サインが済んだら。すぐ仕事に取り掛かるんだ! ボケっとするな!」


部長の理不尽な物言いに若干イラつきつつも、何も言わずに自分の席へと戻った。


椅子に座ったところで隣の席の小木曽が話しかけてきた。俺の同期で、ゴミ溜めのようなこの会社で唯一信頼できる相手だ。


「癇癪持ちの部長には困ったものだね」


「ほんとだよ。いちいち人をイライラさせて何がやりたいのやら。……そういえば、小木曽もあの書類にサインしたのか?」


「ああ。君と同じく渋々とだけどね」


「いったいあの書類って何の書類なんだ?」


小木曽が諦め混じりの表情でため息をついた。


「今朝、財務省からFAXが来ていたんだ。内容は社員の給料の30%カット。その浮いた分を税金として納めろっていうお達しだよ。君がサインしたのはその同意書」


「なっ……30%カット?!」


俺の月の手取りは14万円だ。それが30%カットということは……9万8千円!


「おいおいおい! なんとなくサインしちゃったんだけど、俺。早く撤回しないと!」


「やめたほうがいいよ。同意しない社員は即刻クビを切って構わないそうだ。世も末だね」


と小木曽は平然と言い放った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る