枝を剪る

「枝を剪る」 


 ひとつの枝を剪るたびに ひとつの枝が長らえて 

 残った枝には花が咲き あるいは果実も成るだろう

 落とした枝にかぐわしい 実が成るかもしれないけれど

 これまで間引いた枝たちも 今ごろ満開なればこそ


 間引けば残した枝の実が 甘くなるとは知っている

 さてこの中のどれにしよう 樹形図のうち捨つべきは

 選ぶ余地などなかったよ 正しく枝を剪ったはず

 ああこんなにも枝はある その内どれに実が成ろう


 枝剪り鋏は剪ってゆく 未来の枝を剪ってゆく

 落とした枝の代償に 違う枝がのびてゆく

 最後に残った一本の 枝にわたしの実は成ろう

 それを信じて剪り落とす そうすることが正しいと


 たったひとつの 未来のために

 残るすべての 未来を捨てた

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