電音の愛し姫
押見五六三
序奏部(プロローグ) クリボッチ
♪♫♪♪♪♪〜♫♫♪♪♪.〜――
繁華街を流れるインストゥルメンタル・クリスマスソングに刺激され、僕の心は喪失感にも似た年末独特の切なさに浸透されている。
いや……この切なさは、今年も一人きりで迎えた
さっきからやたら寒いのも、この土地特有の底冷えの為だけでは無いはずだ。
(ブルゥゥ〜ブルゥゥ〜)
実写のツーショットアイコンに変わった友人からの知らせが、さっきから5分間隔で僕のポケットを小刻みに揺らす。
{イルミネーション綺麗すぎーーーワロタWWW]
この前まで〇の中は、自作の萌キャラ画像だったクセに……。
{これ貰ったマフラー!勿論・手・作・り♡俺も彼女にオリジナルソングをプレゼントしたった♡]
内容はずっと、こんなのばっか。
はあぁ~あ~あ〜。
♪♪〜♫〜
{さっき二人で食べたクリスマスディナーの件なんだけど。メッチャうまだったわー!]
うざい。
♪♪♭〜♪
{ヤッパ、イブ飯は二人で食べるから旨いのかな?]
ウザイ。
♫♪♫♪〜
{ツナは今日のディナーは誰と何食ったん?まさかお母さんと唐揚げ弁当とか?んなわけないよねー]
UZAI。
心底ウザ~いぃぃぃ!
いちいちSNS変えて送って来んな!!
{ツリーやディナーのピクチャーは楽しんで頂けただろうか?では俺達はこれからイブの夜空を駆け巡るサンタ探しゲームを鴨川のほとりで寄り添いながら行う事にする]
ハイハイ勝手にどうぞ!
頼みもしないのに実況報告しやがって。
{あっ!ここからはもう送信しないからね。俺達のラブタイムを邪魔されないよう、電源も切っとくね]
巫山戯んなっ!!
さっきから一方的に送信してたくせに!!
あ~クソッ!
羨ましい……。
悔しいけど、マジ羨ましいよッ!!
僕はスマホをポケットに戻し、歩きながら普段よりも着飾った街並を見廻した。
辺り一面に飾られたホリデーデコレーション達を、昔なら童心を弾ませ、心から楽しんで観賞したものだが、高校生にも成って彼女がいない現状では、この
腕を組むカップルとすれ違う度に「大丈夫です。僕はボッチでも平気なタイプなんですよ。気にせずイチャついて下さい」って、感じの余裕綽々顔をワザワザ作らなければならない。
いや、向こうは僕なんか全く意識してないんだろうけどね。
う〜ん……何故にクリスマスは、こうも格差を生んでしまうのだろう。
不公平だ。
選挙権を得たら、【クリスマス禁止令】を出してくれる政治団体に一票入れる事にしよう。
とりあえず今からサッサと家に帰って、ご飯食べて、編集してからお風呂に入って寝る。
「今日は特別な日では無い!ただの普通の日!」
――と、自分に言い聞かせて足早に駅に向かった。
駅に着くと同時に曇っていた夜空から小雨が降り出した。
神様!どうかこの雨が、雪に変わりませんように……。
そんなロマンチックなシチュエーション、タクには似合いません。
僕のハートも凍ってしまいます。
(ブルゥゥ〜ブルゥゥ〜)
祈りながら改札口を通る前に、又スマホが揺れた。
「何だよタクの奴!もう送信しないって言ったクセに……」
思わず文句が口を衝いて出た。
無視しよう……と、思ったけど、タクの機嫌を損ねる訳にもいかないしな……。
渋々スマホの画面を覗いた。
違った。
アイコンの○の中は【
僕は慌ててメッセージを既読する。
{ツナキチ今何してるにょ?◉‿◉]
僕はすぐに返事を送る。
[ヘッドフォン壊れたので新しいの買いに行ってた}
[無いと夜中に調教出来ないからね}
[今帰るとこ}
{ボッチで?ಠ︵ಠ]
[そうだよ。クリボッチだよ}
[奏和ちゃんは今何してんの?}
{カナワもクリボッチ( ;∀;)]
{一大事!これは一大事だわ\(◎o◎)/]
誘えばよかった。
そんな勇気無いけど。
{でも完成したお♡]
{今まで頑張ってたの(*´ω`*)]
{見て見て]
すぐに動画サイトへと
開くと鮮やかなサンタ衣装を着た【蒿雀ミオン】が画面中央に現れ、それと同時に【ジングルベル】の鈴の音のイントロが流れ出す。
程なくベタ打ちの【蒿雀ミオン】が歌い出した。
♪♫♫♪〜♪♫♫♪〜♪♫♫♪#〜――
動画を見終わった僕は感想を送る。
[ダメダメ!}
[もっとベロシティやダイナミクスとか、パラメータ使おうよ}
[強弱付けないと、声が生きてこないよ}
{ごめんなさい(´;ω;`)]
[でもイラスト最高!凄く綺麗}
[こんな可愛いミオン見た事ないよ}
[さすが奏和ちゃん}
[癒された。ありがとう}
{ワーイ(≧▽≦)]
{感激!これは感激だわ₍₍ ◝( ゚∀ ゚ )◟ ⁾⁾]
[…………………}
{…………………]
[…………………}
{…………………]
__________
クリスマスイブの夜、改札付近の人混みの中で僕は奏和ちゃんと暫くメールでやり取りをしていた。
寂しさを忘れる楽しい一時だった。
この時はまだ、まさかあんな悲劇がこれから起こるとは、これっぽっちも――
いや……果たして、これっぽっちも思って無かったのだろうか?
あの日……僕達がチャットをしている間にも、あの音は、殺しを行っていた……。
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