第2話 電音部と卜占同好会

「タクの奴!裏切りやがって……アイツは今日からハミゴや!喋ってきても無視やで、ガン無視や!」


「小学生じゃ無いんだから。だいたいタクが居ないと曲が出来ないよ。僕もチャリオも作曲センスゼロなんだし」


「そんなんミオンさんに対する愛とラブとアモーレが有れば、大丈夫や!」


仕様しょうもないボケは、いちいち突っ込まないからな!」


奏和かなわが居れば三人でイケるやろ?!奏和のイラストは万人を引き付けるからな」


「いくらイラストが良くても曲が良くないと再生されないよ。再生回数一桁に逆戻りだ。そう成ったら奏和ちゃんもアニメ同好会に引き抜かれて電音部でんおんぶから去っていくよ。それでいいの?だいたい僕達チームだろ?仲間の幸せは自分の事のように喜ぶべきだろ!」


「ツナ……ソレ、本気で言ってるか?」


「………」


「どうなんだ、ツナ!?」


「ここは我慢して喜ぶフリをしよう。曲作りの為に……」


「イヤヤ!だいたい俺達にはミオンさんと言う立派な彼女がるやろ。なのにリアカノを作るって事は、ミオンさんに対する侮辱罪だよなッ!」


「シッ!チャリオ。他人に聞こえたら完全にアホだと思われるぞ」


「アホと言うか、キモいはアンタら」


紙縒コヨリさん……」




 僕の名前は網葛あみかつらつなぐ

 皆からは「ツナ」「ツナカン」「ツナサンド」と、昔から名前で常にからかわれている。

 クラスに一人は必ず居る、いじられキャラの高校一年生だ。


 現在僕は電子音楽部、略して電音部に所属している。

 電音部はシンセサイザー等の電子楽器を使ってパソコン内で作曲や演奏、編集をする所謂いわゆるデスクトップミュージックを中心とした音楽部で、ユーロビートやトランスなど、それぞれが好きなジャンルでチームやバンドを組んで音楽活動をしている。

 僕と幼馴染みのチャリオは高校入学と同時にこの部に入り、同じ一年生の奏和かなわちゃんとタクを誘って、歌声合成ソフトのボーカロイドを使ったチーム活動を夏頃からおこないだした。


 そう、僕の好きな電子音楽のジャンルはボカロ。

 僕ら四人はボカロ廃なのだ。


 主に僕達は【蒿雀アオジミオン】というバーチャルシンガーキャラクターが付いたソフトを使っていて、作詞と企画が僕、イラストを奏和ちゃん、曲をタク、そして動画編集をチャリオと役割分担を決めている。

 それぞれが得意分野で創作を行ってから繋ぎ合わせ、完成したら動画サイトに投稿しているわけだ。


 とは言ったものの、まだ四人では1曲しか作っておらず、再生回数三桁がやっとの底辺ボカロ使いで、腕も宣伝能力もマダマダの未熟者達ばかりである。

 それでも中学生の時、チャリオと二人でやっていた時よりは確かな手応えを感じ、いつかきっと再生回数ミリオン超えの人気ボカロPになる事を夢見ているのだが――




「アンタら!恋愛経験値ゼロで良い歌作れるの?その様子じゃ伴侶無しで生涯を閉じる事に成るで!」


「か、仮想恋愛で経験値を上げて行くんや!俺達二人は仮想世界で生きて行くと決めたんや!もう、後戻り出来ひん」


「うちの神社でお祓いしぃ!非モテの邪鬼に取り憑かれてるわ!うちが直々に祓ってあげるさかい」


「コヨリのとこ?効果有るんか?」


うっとこの祭神は縁結びの神様やで!しかも恋愛の!アンタらにピッタリやろ」


「ん?待てよ?!コヨリも彼氏らんやん。お前も非モテやんけ。まず自分のお祓いした方がええんちゃうか?」


「うちは巫女やから彼氏作ったらアカンのや!アンタらと一緒にすなッ!」



 艷やかな長髪に、白い御籤箋みくじせんを沢山結んだ個性的な髪型。

 でも神秘的美女顔の越峰こしみね紙縒コヨリさんには何故かよく似合っていた。


 今、この電音部の部室には僕とチャリオとコヨリさんしか居ない。

 コヨリさんは電音部では無いんだけど、僕とチャリオと同じクラスという事も有り、この部室にはよく遊びに来る。

 てか、コヨリさんは神楽鈴片手にしょっちゅうやって来ては、この部室で舞を披露したり、祈祷をしたりする。

 恋愛相談に来た、電音部に全く関係ない御客様を沢山連れて……。



「今日も部室貸してな!アンタらの部活は邪魔せえへんし」


「貸賃として、彼氏欲しくてコヨリに相談に来てる女子を、俺に一人紹介してくれ」


「紹介せんでも音楽活動してる男子って、普通はモテモテなんやけどな。アンタら楽器は?女子はピアノとかギターとか楽器出来る人に弱いからな」


「僕、カスタネットぐらいなら」


「小学生でも出来るわッ!」


「俺は風鈴」


「楽器ちゃうやろッ!」


「アイツ、風の日は勝手にセッションしてくるんだよな。リズムやテンポ、ガン無視で」


「知るかッ!」


「そやッ!コヨリ!相談女子と俺が恋に落ちる確立は何パーセント位か占ってくれやッ!」


「占ってもええけど、高いお金払って残念な結果を聞く事になるよ。それでもええか?」


「……やめとくわ」



 コヨリさんは卜占ぼくせん同好会という、占い活動をする同好会に入っているのだが、これがよく当たるらしく、恋愛相談に来る人が後を絶たないらしい。

 コヨリさんは占いだけで無く、恋愛が上手くいくように祈祷もしてあげているのだとか……。



「いくら貰ってんのや?」


「しかしアレやな。冬休みとはいえ、寂しいなぁ………他の部員さんはいひんの?」


「いくら貰ってんのや?」


「使わへんならうちの同好会に部室頂戴ちょうだい!防音壁やから鈴鳴らしても平気やしな」


「何で部員三人の同好会に譲らなアカンねん!んでお前、相談料いくら貰てんのや?」




 電音部は三年生が受験で抜けて、現在十八名。

 三年生の元部長さんはとても優しく、シーケンサーやサンプラーの使い方など、僕達に色々親切丁寧に教えてくれる人だった。

 頭が良くて人望も厚く、個性が強い電音部の部員をよく纏めていた凄い人だった。


 今の部長さんは自宅で曲作りするタイプの人だから、部員も部室に集まる事が少なく成ってしまった。

 企画ライブが有る時は、一年生はチケット配りや機材運びのお手伝いなどで呼び出される事に成るが、それ以外はメンバー以外の人とはジャンルが違う事も有り、最近あまり会わなく成っている。



「他の部員さん、冷めとるんやね。DTMもボカロもオワコンやしな……」


「オワコンじゃ無いよ!コヨリさんは知らないだろうけど、蒿雀ミオンの人気は海外では益々伸びてるんだ!ボカロ音楽はもう世界中に認められ、音楽ジャンルの一つとして確立してるんだよ。終る事は無いんだ!そして僕達が必ずボカロ文化の新風を起こしてみせるし――」


「オイッ!ツナッ!ちゃんと『さん』を付けろ!このデコちんがぁ!」


「いや、本当の人間じゃないんだし、そういうのはアンチのネタにされるから――」


 僕達は同じチームでも、ボカロに対して少し温度差というか、相違点が有る。

 僕はネットを通じてのボカロ文化に感動し、その輪に入りたくて活動を始めた。

 タクは将来、音響関係の職に就きたいらしく、電子音楽の勉強の為に活動をしている。


 これに対してチャリオと奏和ちゃんはボカロファンと言うより、バーチャルシンガー【蒿雀ミオン】のファンなので有る。

 そう、電子音楽そのものに興味が有るのでは無く、蒿雀ミオンのキャラが大好きで活動をしているのだ。


 正直、僕とタクはボカロ作曲なら蒿雀ミオンじゃ無く、他のボカロソフトを使っても良いのだが、チャリオと奏和ちゃんはこれを許さず、他のソフトを使うなら電音部を辞めるとまで言う。

 まさに蒿雀ミオンの信者で有る。


 勿論僕とタクは、ミオンのキャラも音声も好きなので異論は無いのだが、チャリオと奏和ちゃんの二人は完全にミオンの事を擬人化して喋るので、たまに付いていけない時が有る。


「そやッ!アンチで思い出した!ボカロアンチの九藤くどう裕岩ゆうがん死んだなッ!クリスマスの日に!ニュース見てうちビックリしたわ!」


「ああ、アイツな。以前ミオンさんの事を『あんなのは歌じゃ無い』とか『邦楽を駄目にした根源』とか、ボロクソ言ってやがった。超老害がッ!正直ざまあみろや!」


「チャリオ!不謹慎だよ」


「やっぱり殺されたんかな?死因不明なんやろ?」


「何か密室の会議室で死んだんだってね。ワイドショーで言ってたよ」


「しかも一緒に会議室に居たスタッフ合わせて6人も!全員謎の死やで!毒薬?それとも毒ガスかな?」


「さあ?新種のウイルスに感染したとかなら怖いね」


「会議室に入って1時間後に全員死体で発見やろ。ウイルスでそんなよ死なんやろ。集団自殺ちゃうんか?あの老害、最近曲売れてへんかったからな」


「あんな大物作曲家が悲観して自殺?曲売れんでも今までの印税で食べていけるやろ?しかも5人も道連れって……絶対殺人やと思うけどな〜。音楽関係者は恨み買う事多いし、犯人はボカロ信者かも」


「コヨリさん!!それだけは絶対無い!!ボカロ好きに悪い人は居ないよ!人殺し何かするわけ無い!!いいかい、ボカロクリエイターは無償で素晴らしい音楽を提供したり、綺麗なイラストを見せてくれたりするし、3DCGソフトを無料で提供してくれる人達まで居るんだ。クリエイターの人達はネットを通して世界中の人達に夢を与えようとしてる優しい人達ばかりなんだよ。ミオンの事を擬人化するのも、機械の声というハンデが有る歌手を、世界一にしたいという優しさからで有り――あれ?……」


 知らない間に立ち上がって熱弁していた僕を見て、二人はニヤニヤしながら笑っていた。


 はい。恥ずかしながら僕も立派な信者です。偉そうに言って、ごめんなさい。



「けど本当ほんま謎やな。密室殺人やったら確かにオカルトミステリーや」


「もしかしたら怨霊かも知れんで〜。あっ!そういえば、この間!九藤がテレビに出てた時、後ろになんか着いてたような――」


「やめてよ!コヨリさんが言うと本当に怖いし――」


 その時、『ガタッ』といきなり戸が開いて、僕は心臓が飛び出しそうに成った。

 いや、本当に驚いたのは戸を開けて入って来た奏和ちゃんの次のセリフだったのだが……。


「ツ、ツナキチ!チャ、チャリオ!た、大変!これは大変なのッ!」


「どうしたの奏和ちゃん、そんなに焦って?何があったの?」


「い、今ね、職員室の先生から聞いたの!」


「何を?」


「タクチンが死んだって!!」


「えっ?!………」



 __________



 この時、部室の空気が一瞬で変わった。

 僕は奏和ちゃんのたちの悪い冗談だと思いたかった。

 けど、それは紛れもなく事実で、しかも序章に過ぎなかった。




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